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この眼の名前は!  作者: 夏派
二章
7/22

初クエスト!

 青く茂り、ある程度の高さがある草の上を歩く。ここはライトの街から1番近い、森だ。


 森の名前は知らん。森だ。


 エナの家も周りは木々に覆われていたが、ここでは草木の数が圧倒的に多い。


 そんな森を、ぺたんこリーダーとパンイチマントで歩く構図は、相当やばい。


 何がやばいって、俺の格好がやばい。ぺたんこは枕詞だ。


 草が俺の裸に当たり擦れて痛い。俺は少し前を歩くエナに尋ねる。


「なぁ、ぺたんこ。今回のクエストのディアというのは強いのか?」


「パンイチは、私のストレスを溜めるのが得意ね。ディアの代わりにアンタを討伐してやろうかしら」


 俺の質問には答えずに、エナはいつものごとく顔にピキピキが入る。


「確か3体討伐だよな。初めての戦闘でワクワクするな」


 異世界に来てどれくらい経ったかは分からんが、異世界ライフの定番、戦闘を経験できそうだ。


 といっても、俺は剣も魔法も使えないがな。しかも防具は、パンツ1枚とタオルだけ。どっからどう見てもチート能力とは遠い。


 そこから何分か歩いた時、エナが歩みを止めた。


「どうした? トイレか? ならそこの茂みでしてきたr」


 俺の言葉は最後まで言い終わる前に、エナに口を塞がれた。塞いでいるエナの手の力やばい。


「んんん。んんんんんん(どうしたんだ)?!」


 エナは自分の唇に指を当て、静かに! というジェスチャーをしてくる。


 俺はその本性さえ知らなければ、心から可愛いと思える行為を目に焼き付けて、囁き聞く。


「(何があった?)」


「(この森の強モンスターである、ビッグベアの足跡を見つけたわ。違う方向に行ってるみたいだけど、念のためここからは静かに行くわよ)」


 なんかすごい事になった。こういう展開では、クエスト終了の帰りに(くだん)のモンスターに出会すパターンがベタだ。まぁそうはならんと思うがな。


 という三級フラグを立てて、俺はゆっくりとエナの後を追う。


 また少し歩くと、エナは歩みを止めた。


「パンイチ、みてみて! ドグがいるわよ。あれで戦闘というのを見してあげるわ!」


「どく? 毒なんて危ないだろ。何を言って」


 俺の言葉が言い終わる前に、ドグというモンスターの姿が視認できた。


 犬だった。少し大きめで太った犬型モンスターであった。


 ドッグだからドグということなのか? というかこの世界のモンスターの名前、ダサくないか?


 そんなこと考えていると、エナが空手のような構えをとる。


「いい? パンイチ。私の戦闘スタイルでも見ておくのね。それと“この変態眼”でも使って慣れておくことね」


「あいあい、ぺたんこ」


 乾いた返事をして、俺はダサい名前をつけられた眼を使う。


 視界が黄色くなり、件のモンスターを見る。するとそのモンスターの周りに文字が浮かび上がる。


《好きなもの:可愛いメス 嫌いなもの:中年のオス》


?!?!?!?!


 何だこれは。なんちゅうモンスターだ。だが、その気持ち分からんでもない……。


 そんなことを考えているとエナの雰囲気が変わった。


「エンハンス」


 エナの周りに薄く赤いオーラが見えた。ちなみにエナの好きなこと嫌なことも見える。


 ダンッ!!! 地を強く蹴りモンスターに走り出すエナ。


 五メートル以上あった距離を一瞬にして詰め、飛び上がる。


 刹那、ドグは自分の体の毛皮を膨らませた。風船のような体型に変化した。


 防御の体制か? 


 空中に飛び上がったエナは、回転して足を高くあげて、そのまま風船のようなドグへと落ちていく。


 そして。


 鈍い音がして、俺の眼からドグの情報が消えた。倒されたということだろう。目をバツにして倒れている犬の姿が、なんとも虚しい。


 空中からのかかと落としをドグに与えたエナは、解除と一言言ってから、俺に笑顔で口パクしてきた。


 あんたもこうなるかもね


 先程ぺたんこと言ったことにキレているのか、俺は恐怖に包まれた。


 俺は使っていた眼を閉じようとする。そのとき、エナの周りに書いてある文字が増えていることに気づいた。


《好きなもの:褒められること》


 という言葉が加えられていた。見ている時間が長いほど、情報は足されていくようだ。


 ほほーん。あいつ褒められるのが好きなのか。これは命を守るために使わせていただこう。


 俺はその眼を閉じ、笑顔でキレているエナに、パチパチ手を叩きながら言う。


「エナ! お前すごいな! なんだあの技は?! 一撃でモンスターを倒したぞ! 流石はライト一の怪力だ!!」


 わざとらしく褒め称えた。やり過ぎか? と思ったが、エナは満更でもない顔でえへへと頭をかいている。


 このぺたんこ、扱いやすくて助かるな。それにしてもこの眼すごい! エナに殴られずにすんだぞ!!


「えへへへへ。パンイチも良いこと言うじゃない。エンハンスっていう身体能力上昇のスキルを使ったのよ」


「そんなスキルが?! 流石だぞ!」


 俺は適当に褒めて、歩き始める。


 しばらく歩くと、小川の近くに目当てのモンスターである、ディアを見つけた。なぜそのモンスターがディアと分かったのかと言うと、シカがいたからだ。ディアーがディアになったってことだろう。


 エナが小声で俺に伝えてくる。


「やっと見つけたわ。しかも3匹。私は2匹やるからあんたも1匹くらい倒しなさい」

「へ?」

「何よ?」

「いや俺武器ないし、無職だし」

「でもその変態な眼があるじゃない」

「……もしかしてエナさん怒ってます?」

「……別にアンタがわざと私を褒めて、殴られるのを回避したことなんて気づいてないわ」

「……戦いに善処させていただきます」


 エナの声は低かった。多分キレてるんでしょう。


 しかし戦闘か。パンイチマントの俺が何ができるかは分からんが、エナに殴られるのとシカに突かれるのは、どちらも最悪の選択肢だ。


 俺は眼を開く。視界が黄色くなる。


 まぁ戦い系のアニメやマンガラノベはよく読んでいた。そんな雰囲気でいけるだろ。


 パンイチマント変態眼の戦いがついに始まる!!!


 


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