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この眼の名前は!  作者: 夏派
一章
5/22

眼の力!

「ぷっ、おい変態! お前無職って……ぷっ」

「パンイチで無職って……ぷっ。笑いがとまらない」

「……パンイチ職ってのを作ったらどうだ? ぷっ変態くん」


 俺はギルドにいる人たちから笑い者にされていた。笑い声が俺の心をえぐる。笑い過ぎて涙を流している人すらいる。


「なんで俺は無職なんだ???! その水晶こわれてるだろ!」


 俺は怒りながら、受付の人に叫ぶ。それを聞いた受付の人が笑いを必死に堪えながら、


「……ふっ。ふー。あのですねタナカさん。この水晶が間違うことはありません。ぷっ、それにしても無職なんて私、は、初めて見ましたよ」


 俺はその場にうずくまった。


 なんだ? 俺が何をしたっていうんだ? こんな転生嫌だ。あのジジイ帰ったら覚えてろよ。


 すると、ずっと俺を虫ケラのように見ていたエナは声を張って言う。


「あーあ、また仲間探しはじめないとね」


 うっ。エナさんそれ聞こえるように言わなくても……。


 そんな落ち込んでいる俺のカードを持っているギルドの人が、マジか?! と声をあげた。周りの人がなんだなんだと騒ぐ。


「おい! これ見ろよ。この変態、無職だけどカードに眼のマークがあるぞ!! こいつ眼の力を使えるぞ!!」


 ん? 眼の力?


「本当か? 眼の力だって? この変態にか?」


「あぁ間違えない。ほらな眼のマーク書いてあるぞ」


 ギルド中から笑い声が消え、驚きの声が大きくなった。


 眼の力? 眼? 眼? あ! そういえばあのジジイが俺に眼の力をくれたんだっけ?


 俺の顔に笑顔が戻り始める。なにせ俺は眼の力を保有しているんだからな。


 俺は立ち上がりそのカードを取り上げる。


「ふっ、(みな)も気づいたか。そうだ俺は眼の力があるんだぜ!」


「「「うぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」


 ギルド中が叫んだ。みんな盛り上がっていた。


 さっきまで笑いを必死に堪えていたギルドのお姉さんは、良かったですね。と一言言ってから俺に教えてくれた。


「タナカさん! そのカードの目のマークを押せば保有者はその能力を確認できます! 是非押してみてください!」


 どんな力だ? 相手の行動を先読みする力。相手を思うように操る力。技を無効化する力。千里眼に透視の力もいいな。


 俺はいくぜ! と声をあげてからそのマークを押す。


 そこに表示された内容はこうだ。


《“ ” 能力:相手の嫌なことを知れる。相手の好きなことを知れる。 使い方:眼を使いたいと思いつつ一度目を閉じてから開く》


 ……。


 理解が追いつかない。なんだこの力は。どういうことだ? 相手の好感度を上げる力ですか? 


 俺がしばらく黙っていると、見せろコールをしてる中からこんな声が聞こえた。


「仲間であるエナで実験してくれよ!!」


 するとその提案は良かったのか、周りの人たちも賛同する。


「いいな! それ。変態、エナを見てやってくれよ!」

「アンタを馬鹿にしたエナに見せつけてやれよ! 変態」

「行けー! 変態!!!」


 お、俺の名前タナカフウタって言いますよ? 


 そう言われつつエナを見ると、興味があるのか、こちらに寄ってきた。


「パンイチ、いいわ。私を見なさい。その結果次第では仲間でいてあげる」


「すごい上からだな。ぺたんこ。まぁいい。見てやるよ」


 エナがまたも顔にピキピキを入れているが、それに構うこともなく、俺は目を閉じる。


 よく能力のことはわからんが、この眼の力を使いたい! 


 そう念じつつ、ゆっくりと眼を開ける。


 視界が黄色くなった。感覚としては、黄色のフィルターを通して見ているようだ。


「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」


 ギルドの奴らがより一層騒ぎ出した。俺の眼の変化に驚いているらしく、左眼だけ黄色くなってる!!! という声が聞こえる。


 ていうかこいつらうるせぇ。


 俺は正面にいるエナをじっと見る。彼女は、パンイチマントに見つめられて若干顔が赤くなっている。


 彼女を見ることほんの数秒。眼を通して見るエナの周りに文字が浮かび上がった。


《好きなもの:お金 嫌いなもの:共感性羞恥(しゅうち)


 これは? 眼の力でエナの嫌いなことと好きなことを知れたということか?


「ねぇ、パンイチ。その眼で何が見えたの? 私ずっと見られてると襲われそうで怖いんですけど」


 誰がお前の貧相な体に興味が湧くか。


 俺はそう思いつつ、このことをどう伝えようか思考する。


 せっかくエナの嫌いなことを知れたんだ。これを使って変態呼ばりの(あだ)でも返すか。


「なぁ、エナ。俺の眼の力次第では仲間継続だよな?」


 俺はエナだけに聞こえるようにささやく。エナはそれに合わせるようにささやき答える。


「ええ。そうだけど。どうせその眼、人のスリーサイズを測る力でしょ?」


 舐めてるのか? お? そんな力あったら是非欲しいんですけど。


「いや違う。とりあえずお前は恥ずかしくなりたくなければ、今ここで仲間に入れると言ってくれ」


 そんな俺の提案にキョトンとするエナ。


 こいつの素顔知らなければ可愛く見えるんだけどな。

 

「嫌ですけど。ぷっ、そもそも私を恥ずかしがらすことができるのかにゃー?」


 コイツ……。なんて奴だ。


 俺は心を決めて、今度は大きな声で言う。


「エナ!!! 俺を仲間に入れてくれなければ、俺はここでパンツを脱ぐ!!!!」


 …………………。


 今まで散々盛り上がっていたギルドが、一瞬について凍りついた。


「「「へ、へ、変態だぁ!!!!!」」」


 お前ら声合わせるの好きなんだな。あと変態呼び慣れてきたわ。


 俺のセリフを聞いていたエナは、完全硬直していた。状況を理解できていないみたいだ。


 だから俺は追い討ちをかける。


「ふ、この眼でお前の嫌いなことは理解した。知り合いが恥ずかしい行動をするとこっちまで恥ずかしくなる、共感性羞恥。これを今からやる。だからパンツを脱がれたくなかったら、仲間継続だ。ヨイショ」


 俺はそう言いながら、自身のパンツに手をかける。


 すると今まで硬直していたエナが急に慌てだした。その顔は今にも泣きそうだった。


「や、や、や、やめて……くだ……さい。お願い……します……。仲間に入れ……ますから」


 あ、あれ? なんか想定していた「な、なんてことしてるのよバカ!」っていうパターンじゃない。今にも泣きそうじゃん。俺すごい犯罪者みたいじゃないか。


 周囲の人たちも俺のことをゴミ屑を見る目で見てくる。


 うわー。最低だ。犯罪者だ。という言葉が俺の心を打ち抜く。


 クソ、やっぱりヤバい発言だったか? こうなると……俺に残された手段はひとつ。


「ふっふふふ。俺を仲間に入れるという言質は取ったぞ。じゃあ受付のお姉さん俺とエナのパーティー登録よろしくな」


 そう。この残された手段はひとつ。このキャラを演じ切ることだ。


「あ、あの、パーティーの件は受諾しましたが、眼の力は一体?」


 俺の変態行動に引きながら、受付のお姉さんが恐る恐る聞いてくる。


 ふっ。と俺は息を吐いて、前髪を払って答える。


「相手の嫌なことと好きなことを知れる力さ」


 …………。

 

 何度目かわからないが沈黙がギルドを覆った。



「「「なんだそりゃぁぁぁあ!!!」」」


 こちらも何度目か分からないがギルドの人たちが同じことを叫んだ。

 

 そしてまたギルド内は俺のことでざわめく。


「おい聞いたか? 変態の力」

「ああ。あれは変態にぴったりだな」

「相手の嫌がることを知れるなんて……」

「ある意味透視よりも酷いぞ」

「パンツ×マント×あの眼=最強の変態か」


 こいつら。俺にも心あるんですよ? 傷つきますそれ。


 そんな時、先ほど泣きそうな顔をしていたエナが、顔を真っ赤にしたまま俺に尋ねる。


「ね、ねぇ。その眼名前はなんていうの? カードに書いてあるでしょ?」


 その言葉を聞くと、周囲の人たちは、確かに名前はなんだ? そんな力の眼はじめて知ったぞ。と言ってくる。


 俺はもう一度カードを確認して言う。


「いや、書いてないな。空白だ。そ、そんなことより、エナさん? 先程は……」


 俺が緊張しながら聞くとエナは、


「平気よ。今は怒ってないわ。そんなことよりカードの眼の欄を開いて!」


 と180度違う明るい声色で言ってくる。顔も笑顔になっている。正直怖い。


 俺は言われるまま、カードの眼の欄を他の人にも可視化できるようにする。カードに可視化するようなマークがあったからすぐにできた。


 するとエナはすぐに、眼の名前の空白を押す。そして、


「命名します!! この眼の名前は、“この変態()”」


 一同絶句した。


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