ギルド!
あの死者の誘導者とかいうクソジジイ、俺をパンイチで転生させたのかよ!
俺は心の中で文句を言いながら、エナに連れられ、パンイチで布をマントのように纏って、ライトにあるギルドについた。
道中色んな人から、ゴミを見る目で見られたが俺は気にしない。悲しくて涙は流したが、決して気にしてはいない。
「パンイチ、着いたわよ。ここがギルド。あんたは冒険者の初心者みたいだから、最初に職業適性を測ってもらうわよ」
ギルドというのは白色の石でできた大きな建築物であった。街並みはレンガ作りのため際立って見える。
「ぺたんこ、ここがギルドか。随分でかいな。俺の職業は何かな」
キレたエナにデコピンを受けつつ、パンイチマントの俺はギルドに入る。
中は活気で溢れていた。むさ苦しい男たちに、エナと同年代らしき女冒険者、笑い声、料理の匂い、酒の匂い……。いろんなアニメで出てくるギルドそのままで俺はテンションが上がった。
「おお、これがギルド! テンションマーックス!!!」
そう俺がすごい気分で発言すると、ギルドにいた人たちが俺を見た。
「おい、やばい格好した奴が来たぞ」
「格好だけならまだしも言動もやばい」
「通報したほうがいいか?」
「俺、人生初の通報だわこれ」
そんな言葉が俺の耳に突き刺さる。
もう泣きたい。
すると、一応仲間であるエナが俺の前に立ち、みんなに言う。
「みんな聞いて! この変態は私の仲間なの! この変態は変態だけど、多分平気! 私を信じて!! 確かに私の体に興味あるみたいだけど、平気だから!!」
俺は一瞬絶句してすぐにこう言う。
「このクソぺたんこぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
エナが眉間をピキピキさせながら、俺に聞いてくる。
「ん? 変態さん? 大きなお声を出してどうしたんですか?」
「変態さん? じゃねーよ。俺を紹介するにしてもなんかこうもっとあるだろ? それに誰がお前の貧相な体に興味が湧くか!!」
エナがより顔にピキピキを走らせる。
そして、周囲の目線が俺に向けられる。
そりゃそうだこんだけうるさいし、格好もパンイチだからな。
するとギルドの人からの声が聞こえてくる。これもまた俺の耳に刺さる。
「あのパンツマン、エナにぺたんことか言ってたわよ」
「あのパンツマン、発言もホントにヤバイな」
「あのパンツマン、エナに殺されるな」
「あのパンツマン、もしかしてエナがこの街一の怪力持ちって知らないのかしら」
パンツマン、パンツマンうるせぇ。この言葉結構心来るんだぞ。立場変わってみるか? というか、エナって街一の怪力娘なん? え? 俺コロサレル?
エナの方を見ると、彼女もその声が聞こえたのか、ニコニコしていた。
俺の毛穴という毛穴から汗が出てくる。エナの笑顔は幽霊なんかよりもずっと怖かった。
もう……、これしかないな。
俺は心を決めて、跪く。
「エナ様、大変無礼なことを申し上げて誠にすみませんでした!!!」
土下座をした。パンイチで。
だって死にたくないんだもん。
ギルドにいた人たちが俺の行動にざわめく。珍しいものを見て、笑っている声が聞こえる。
謝られた当の本人は、とってもニコニコしながら、俺にこう囁いた。その声は低く鋭かった。
「これで許したと思うなよ。後で締めてあげるからな」
俺はガクガク体が震え出した。恐怖というのはこういうのをいうのか。
異世界怖い。異世界怖い。異世界怖い。異世界に来てから良いこと一つもなくないですか? 自分。
「さ! フウタ君? 職業適性を測ってもらうわよ」
エナが先ほどとは真逆の明るく可愛い声で、みんなに聞こえるように言った。そして、受付のようなところへ俺の手を取って歩き出す。
俺は下を向いたまま、恐怖をなるべく顔に出さないように努力した。
ギルドにいた人たちはというと、俺の職業に興味があるのか、受付の周りに集まり始めた。
受付にいる人に、エナが笑顔のまま話しかける。
「お姉さん、この私の『大事な』仲間の職業適性を検査して欲しいんですけど」
「大事とは思ってないだろ」
俺は誰にも聞こえないようにボソリと呟く。
しかし、エナには聞こえたのか、引っ張られている腕を思いっきり掴まれる。
痛い痛い痛い痛い。腕千切れたら、弁償してもらうぞコラ。
すると受付にいる美人なお姉さんがこちらをニコリとみて俺に伝えてくる。
「仲が良さそうなので何よりです。それではこれからパンツマンさんの職業を調べていきたいと思います」
おっと。初対面のお姉さんにもしっかり煽られていくな。顔と名前とスタイル覚えたかんな。
「はは。俺の職業は何かな。楽しみだな」
苦笑いしながら答える。
するとお姉さんが受付の机の下から、水晶と何も書かれていないカードを取り出した。
「この水晶に手を10秒ほど触れてください。そこで出た結果がこのカードに書き込まれます。それではお願いします」
随分便利な世界だな。触れるだけでカードにも書き込まれるのか。
俺はそう関心をしつつ、自分の職業への期待を込めて、水晶に手を置く。
水晶は青白く光り出した。
職業か。最強の剣使いや魔法使いってのは定番だが憧れるなぁ。それかオールマイティな力を持てる職業もいいなぁ。最弱から最強へのし上がるのもかっこいいな。
そんなことを思いつつ、10秒間が過ぎた。すると今度はカードが光った。
その光が消えると、受付のお姉さんがそのカードの中身を見ることもなく、俺にそのカードを渡してくる。
煽りはするが、プライバシーは守るみたいだ。煽りはするが。
渡されたカードを俺は恐る恐る見る。
ついに俺の異世界冒険の第一歩の大事な瞬間だ。今まで小便食らったり、パンイチで転生させられたり、土下座をしたり色々あったが、この職業で俺の冒険の幕が上がる!
そのカードを見てみるとこう書いてあった。
《田中風太 職業:無職》
ん? 読み間違えたかな?
そう思い、目を擦ってからもう一度見る。
《田中風太 職業:無職》
当然内容なんて変わっていない。
俺が何も言わないことに気づいたエナが俺のカードを横から見てくる。
「……」
その沈黙やめてもらいますか? あとその虫ケラを見るような目もできればやめてほしいです。
虫ケラを見るような目をしているエナにギルドの人が尋ねる。
「おいエナ。アンタの仲間の変態の職業は何だったんだ? 黙ってるってことは、最弱職の冒険補佐か?」
ギルドにいる人は笑いながら、俺の肩に手を置いて、安心しな! この職でも転職はできるぜ! などと言ってくるが、そもそも補佐という職にすらつけていない。
するとエナが、俺のカードを取り上げてみんなに無言で見せる。
……。
時間が止まったような感覚だ。全員が静まり返った。
そしてすぐに、叫んだ。
「「「無職かよ!!!!!!!」」」
ギルド中は笑いに包まれた。