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金の紋様を持つ少女

「緊張しなくても大丈夫。君を捕まえるわけではない。少し君のことで質問をしたいんだが、いいかな?」


神官に理由も告げられず、突然ここまで連れてこれらたディアナは、案内された椅子に座り、分かりやすく表情を強張らせ、こちらを警戒していた。太陽のような赤い瞳の色が揺れているのが分かる。

正面に座るウィルビウスは警戒を解くためにニッコリと笑って見せるが、あいかわらず警戒の色はとれない。


「さて、其方、名前はディアナ?っと言ったかな?」

「はい。ディアナです。」


下町出身の娘には見えない輝く髪に小綺麗な恰好。そして強い魔力持ち特有の整った顔。下位貴族の婚外子と疑っていたが、金の紋様が出たことを考えると他の可能性を調べた方がよさそうだ。

それにしても本当に魔力持ちか疑わしくなるほど、少女からは魔力を感じない。この年齢になるまで平民として育ったことで、魔力が覚醒していないのかもしれない。


「とても可愛い服だ。今日のお祝いにご両親から買って貰ったのかい?」

「これはお姉ちゃん…姉が作ってくれました。」

「そうか。ご両親の仕事は?」

「父は兵士で母は裁縫の工房で働いています。」


好々爺然とした風貌のウィルビウスの姿に少しだけ警戒心を緩めたディアナは、神官に笑顔でお菓子を進めれらると顔を綻ばせ、嬉しそうに食べ始めた。


「姉がいると言っていたね。他に家族は?」

「姉の他に兄と弟がいます。」

「うん。うん。家族はみんな仲は良いのかな?」

「はい。」


ニコニコとお菓子を頬張る姿を見ると、警戒心は完全に解けたように思える。その好機を逃すまいと、目を細めたウィルビウスの瞳が鋭く光る。


「それは何よりだ。では魔力の存在を知っているかな?」

「魔力?貴族様たちが使えるもの?ですよね?」

「そうだね。魔力は産まれながら受け継がれるものだからこそ貴族しか使えない。それを分かっている上での確認だが、其方、魔力を持っているね?」


お茶を飲もうと伸ばしていた手が空を切り、大きな目をパチパチとさせながら不思議そうに首を傾げている。言われたことを理解できないのか、言葉がでないようだ。


「それとも自分が魔力持ちということに気づいていないのか?」


目の前の少女は何を言われいるのかいまだに理解できていないらしく、その表情は先ほどから固まったままだ。


「ご両親から魔力のことで何か聞いたことは?」

「ないです!だって私は平民です。」


この少女が嘘をついているようにも思えず、ウィルビウスは自身の立派な顎髭を撫でながら、どうしたものかと思案していた。

少女の両親が平民なら、そもそも産みの親が違うのかもしれない。そのこともあって今の両親は魔力のことを隠している可能性がある。


「其方も紙が燃えたのを見ただろう?あれは魔道具一つで、魔力登録後に燃え尽きる仕組みになっている。それが燃え尽きた時点で魔力があるということなんだよ。」

「知らない、本当に魔力なんてない。」

「それならば、やり方を変えよう。私の手の上に手を置いてごらん。」


両手の手のひらを上に向けディアナに差し出すと、無言でジッと手を見つめ、どうしようか悩んでいる。せっかく解いた警戒心がまた復活したようだ。

「手を。」っともう一度促すと、恐る恐るといった様子でこちらに手を差し出すが、その表情は、警戒心というより好奇心に満ちていた。


差し出された手を軽く握り、自身の魔力をディアナに流す。他人に魔力を流すのはあまり褒めらた行為ではないが、言葉で説明するより実際に魔力を感じてもらった方が早い。


「あっ、あの」


何が起こっているのか分かっていないようだが、何か起こっていることは分かるようだ。それさえ分かれば話は早い。


「どうだろうか。何か分かったかな?」

「体の中で何か動いてる。くすぐったい。」

「それが魔力だよ。今までこんな風に何か感じたことはなかったかい?」


ディアナは握った手をジッと見ながら、小さく唸っている。


「私の体の中、お水が流れてるの。いつもは箱の中に入れてるけど、たまに溢れちゃう。」

「水?…体の中を流れる水。その水は今も箱の中に?今ここで箱から出せるかい?」

「はい。」


嬉しそうに大きく頷いたディアナが目を瞑ると、その瞬間、ウィルビウスの危機察知能力が反応し一気に魔力が体中に巡る。無意識に体が身震いし、全身に鳥肌が立つ。


この魔力は何だ?


ディアナがゆっくり目を開けると、箱の中にしまっていた魔力が全身に廻ったのか、魔力の圧が凄い。抑えきれない魔力が体から漏れ、部屋の空気が張り詰める。


部屋にいた神官達は魔力で張り詰めた空気に硬直し、その圧に耐えれなかった者は意識を失った。魔力量の多いウィルビウスの側近たちが、慌てて動けない者を部屋の外へ引きずり出す。


「えっ?え?」


ディアナは周りが倒れたのは自分自身の魔力が原因だと気づかず、今も魔力が溢れ出た状態だ。本当に自身の魔力の存在を知らなかったらしく、魔力の扱い方も分かっていないようだ。


「ありがとう。もう箱に入れて大丈夫だよ。」


ディアナがもう一度目を瞑ると、部屋の中を満たしていた魔力の渦が一気に引いていく。張り詰めていた空気が一瞬で消え、ギリギリ耐えていた者たちが肩で息をしている。


あぁ、この子は本物だ。


金の紋様持ちは魔力量の多い王族の中でも稀有な存在。そして何よりこの子はまだ洗礼式を迎えたばかりだ。成長期前の今のうちに扱い方を学び始めれば、王族も凌ぐ魔力の成長が望めるだろう。


どちらにせよこのまま放置するのは危険だ。本人が魔力を理解していない上、成長と共にさらに増える魔力を扱えるとは思えない。今でも魔力が漏れ出しているのだから、このままではいつ死人が出ても不思議ではない。


ウィルビウスは顎髭を撫でながら、ディアナをジッと観察した。


魔力が多い者の特徴である見目の良さは問題ない。立ち振る舞いや教養も今から矯正できるだろう。他の貴族連中に介入される前に、早めにこちら側に取り込んでおいた方がいいかもしれない。


控えていた側近に目配せしウィルビウスが小さく頷くと、側近たちは一礼し素早く部屋から出て行く。

周囲の様子に何も気づいていないディアナは、呑気にお茶を飲んでいた。




命の神ウィトゥムヌスの与えた道は、ディアナの前に真っすぐ伸び、神の采配に抗う事のできない運命を示唆している。

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