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合わない香油と花紡ぎ

花紡ぎの儀の式典は、成人の儀が終わった翌安息日に開催される。


式典が続き慌ただしい感じもするが、この国では花紡ぎの儀で婚姻の契約を行うことで正式に結婚となる為、早く結婚したい人たちにとっては待ちに待った日なのだ。


今日の式典は、平民の儀式が六の刻から貴族の儀式は八の刻から始まる。式典の開始が遅いのでゆっくり寝れると思っていたら、身を清めるのは最高神が目覚める前と決まっているらしく、成人の儀の朝と同じように太陽が昇る前に起こされ、湯浴みをする。


半分眠ったままの状態でも側使えたちに髪や身体を丁寧に洗ってもらえるので、今日のような日は貴族として扱ってもらえることに本当に感謝だ。


湯浴みの後は、成人の儀でも使った儀式用の香油を念入りに塗り込まれ、あいかわらず大人の色香を纏う不相応な匂いに、気持ちが全く上がらない。

楽師は最初から最後まで舞台の上にいるので、匂いは何でもいいような気もするが「神官である前に貴族としての体裁があります。」っとヴァルナに強く言われ、それ以上は何も言えなかった。


湯浴みが終わり、成人の儀の日と同じように早めの朝食を食べる。今日は時刻に余裕があるのでリゲルもゆっくり食事ができるそうだ。

さすがに部屋の主の許可がでていたとはいえ、主がいなくなった部屋で一人、食事をするのはあの日で最後にしてもらいたい。


ドライフルーツが練り込まれたパンを一口大に千切り、パクリと口に入れると甘い香りが鼻に抜ける。好みの味だったので二口目を食べようと皿に置いたパンに手を伸ばすと、その様子をジッと見ていたらしいリゲルと視線が絡む。


「・・・正式な場に出る為なのは分かっているが、君にその匂いは合わないな。今まで女性の香油のことを気にしたことはなかったが、いつも君が付けている匂いに慣れたからかその香りは強すぎる。」


いつものように対面で食事をするリゲルが、おもむろに食事の手を止め、珍しく言い淀んだ。表情こそ安定の無表情だが、女性に対して匂いのことを言っていいものか悩んだのか、言葉を選んでいる感じがする。


「わたしも自分の匂いに違和感があります。この匂いはかなり妖艶な香りなので、もう少し上の年齢層向けだと思います。若い人向けではないですね。」

「そのようだな。この匂いは、ここにいないはずの母上の姿を思い出して、何とも言えない微妙な気持ちになる。」

「香油は本人の体臭で匂いが変化するので、流行っているからと言って使う物じゃないです。その人に合う香油を使うべきですね。」


わたしが香油を作ることに対してほとんど口を出さないので、香油には興味がないと思っていたが、表情を見る限りこの香油は苦手な匂いらしい。


「実は香油のことでお願いがあるのですが。」

「何だ?」

「いつもの香油を使っていいですか?今日のような正装する日は、正式な香油を使わなければいけないことは分かっていますが、わたしにはこの大人の匂いは似合わないですし、この匂いを纏っている方が品位を落としそうです。」


リゲルは眉間に皺を寄せ「そうだな。」っと顎に手を当て考えるように視線を彷徨わせた。ダメなら即答で拒否されていただろうけど、考える余地があったらしい。


「神殿内の式典では他の香油で問題ないだろう。だが、今日は改めて別の香油に変える時間はないのではないか?」

「実はリゲル様の許可が出たら、試してみようと考えていた方法があります。式典には絶対に遅れないようにしますので、やってみてもいいでしょうか?」

「式典に遅れなければ好きにしてよい。」

「ありがとうございます。」


ここで詳しいことは話さなかったが、リゲルの言う通りもう一度、湯浴みからする時間はない。湯浴み以外でこの香油を綺麗に落とすことができないので、わたしが考えている方法は重ね塗りだ。


元々、この香油は苦手な匂いなので、ヴァルナにお願いしてかなり薄く塗っていたこともあり、重ね塗りすること自体は問題ない。一番重要なのは調合する時と同じで、好きな匂いを適当に混ぜても変な匂いになるだけなので、出来上がりを想像しつつ匂いを混ぜ合わせるのが重要だ。


「気分が高揚すると魔力が乱れる。落ち着きなさい。」

「あっ、はい。」


どんな匂いを混ぜようか考えているうちに、無意識に嬉しさで頬が緩み魔力が揺れていた。でも仕方ないと思う。楽器の演奏に集中していても気になる鼻に纏わりつくこの匂いは、本当にストレスでしかなかったのだから。


注意を受けたあとも、鼻歌が聴こえてきそうなテンションで食事をしながら、匂いの配合を考えていると、正面から聞こえてきた小さな溜め息。聞こえないふりもできたけど、いつもの条件反射で顔を上げチラリとリゲルの表情を伺う。


「花紡ぎには君の家族が参加すると言っていたな。興奮した君の魔力が暴走するのが目に見えているが、抑える努力はしてくれ。」

「もちろんです。姉の晴れ舞台をぶち壊す気はありません!」


レグルハウトの時の失敗を踏まえて、ドゥーベを弾いている時に感情に任せて魔力が流れないよう、感情を抑え無心で弾く練習を重ねた。

カウスには基本的な魔力量が違う為、的確なアドバイスができないと言われたので、レグルハウトに頼んで感情で魔力が揺れてもそこから魔力を抑え込む訓練を行った。


わたしは完璧な仕上がりだと思うけど、レグルハウトは微妙な表情で魔力調整が壊滅的にセンスがないっと頭を抱えていた。結構いい出来だと思うのに、その反応は失礼ではないだろうか。

その報告がリゲルにもいってるせいか、前からわたしの魔力調整に関しては信用なかったのが、輪をかけて信用がなくなったように思う。あんまりだ。

とは言え、実は待ちに待ったエミリの花紡ぎなので、感情を抑えることができるかちょっと自信がない。


「もし魔力が溢れそうなら、姉にだけではなく全体に魔力を放出してほしい。神殿の儀式では、魔力を知らない平民も祝福の光が舞うのを見ることができる。神殿の儀式で受けられる神の祝福は皆、平等だ。君の姉だけが特別扱いされているように思われることは避けたい。」

「わたしの魔力でも祝福の光に見えるのですか?」

「あぁ。魔道具を使って大広間の魔力を可視化できるようしている。君も成人の儀で見たであろう。あれは神具から溢れた魔力だ。」

「あの祝福の光が神具の魔力・・・」


そう聞いてしまったらエミリを特別扱いしたいわたしとしては、この魔力を使ってエミリだけに祝福したい。わたしの魔力を使って、エミリにあの美しい光景を見て欲しい。

神具から放たれた祝福の光が会場全体に舞い、その神々しく神秘的な雰囲気に、わたしは何度も感嘆の声をあげたのを今でも覚えている。


だが、それは平等を重んじる神殿の理念に反するので、贔屓はダメらしい。


それに、突然そんな祝福の光が自分の周囲だけで舞ったら、普通の人はその現象に困惑する。エミリも喜ぶより戸惑う方が大きいだろう。


できる限り魔力を抑えるつもりではいるが、興奮して魔力が溢れたときは仕方ないと思う。リゲルにも言われたが、祝福の光が会場全体に降り注ぐよう放出させ、進行の一環として思ってもらえる方がいい。


何度でも言うが、儀式をぶち壊す気はさらさらない。その時は愛し合う参加者たちの為にも、遠慮なく魔力を放出しよう。


密かに決意を固めるわたしの顔を見ながら、リゲルは眉を寄せ呆れたような表情で溜め息をついた。わたしの考えは見透かされているようだが、それでも何も言わない所をみるとこれ以上は何も言う気はないらしい。


これはある意味、リゲルの許可が出たようなものなので、会場全体に祝福の光が舞う光景を想像し、また楽しみで頬が緩み魔力が揺れる。

浮かれていたわたしは、魔力の変化に気づいたリゲルが眉間を押さえ、また深い溜め息ついたことに気づかなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 読みごたえある力作ですね! またゆっくり読まれて頂きます^_^
2020/09/06 01:56 退会済み
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