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リーベルたちとの友情

「おはよう、ディアナ!」


教室の扉を開けるとすぐに、入って来た人の存在に気づいたリーベルが笑顔で手を振る。その隣に立っていたネヴァンもニコリと笑っていた。


九歳になったわたしは、神殿学校に通うようになって四期目に突入した。久しぶりに袖を通した生徒の証である薄い水色のローブは、毎日着ていた濃い青の神官服と違い、肌触りは悪いが着替えも自分でできるので日常に戻ったように思える。


廊下ですれ違う神官たちも、神殿学校の生徒に対する態度と同じなので、彼等からの視線を気にする必要がなく自然と肩の力が抜ける。


「リーベル、ネヴァン、久しぶり!」


駆け寄りたい衝動を抑え、二人の側までゆっくり歩いて近寄ると、ギュッと抱き合って久しぶりの再会を喜んだ。


「ディアナ、また背が伸びたんじゃない?」

「え!?やっぱり分かる?」


抱き合ったままこちらを見上げるリーベルは、少し拗ねたように頬を膨らませた。わたしが入学した当時は視線の高さはほとんど同じだったのに、今では頭一つ分の差ができた。

だが、これは決してリーベルが小さいとかではなく、魔力の影響でわたしの成長が早すぎるのが原因だ。


「二人はあいかわらずだね。」

「ネヴァン、久しぶり!元気だった?」


会わない間にかなり背が伸びていた成長期のネヴァンは、今までの中性的で優し気な顔立ちから、少し幼さが残るが精悍な顔立ちになっていた。


神殿学校が休みに入った後も、完全な冬籠もりに入るまでリーベルとは何度か会っていたが、ネヴァンと会うのは彼が買い付けから一時的に帰って来た秋以来なので、とても久しぶりだ。


「うん。ディアナは会わない間にますます綺麗になったね。アデルが早く会いたがっていたから、こんな素敵な姿を見れないなんて、後で知ったら悔しがるだろうね。」

「アデルはまだ帰って来てないの?」


もうすぐ授業が始まる時間なのに、教室を見渡してもアデルの姿はなかった。


アデルは隣国との取引の為に国境の領地であるブリギッド領に行き、その後、一度は王都へは戻ってきたが、次の商隊の出発のタイミングでまたブリギッド領に行った。

今はデルタ商会の支店設立に携わっているらしく、連絡役として旅慣れた数人の従業員が王都とブリギッド領を行ったり来たりしているが、アデルが戻ってくる気配はない。


もうすぐ十六歳になるアデルは、次の成人の儀に参加する。神殿学校に通えるのは、原則、成人までなので、アデルがここへ来るのは今期までの予定だ。

同じ王都に店を構える商人同士は今後も顔を合わせる機会があるだろうが、兵士の娘であるディアナに関しては、この広い王都で偶然会うっというこは無いに等しい。


「夏までに帰ってくるらしいわよ。私もずっとアデルには会ってないから、お父様たちに聞いた噂しか知らないけれどね。ネヴァンの方がよく知ってるんじゃない?」


二人でネヴァンの方に視線を向けると、苦笑いの表情を浮かべ困ったように首を横に振った。今回の冬は雪の降り始めが早かったこともあり、王都までの街道が予想以上に早く封鎖され、連絡役の行き来が早々に断たれたそうだ。その為、ネヴァンがいま知っている情報は、リーベルの父親たちが知っている情報と同じものらしい。


「アデルは心配しなくてもそのうち帰ってくるよ。それより、僕はディアナのことが気になって仕方ないんだけど。」

「え?」

「髪飾りも気になったけど、問題はそれだよ。その指輪。」


スッと目を細め、指輪を観察していたネヴァン。指輪を隠すように無言で手を後ろに回したけれど、この反応は多分もう何か気づいているっぽい。


それもそのはず。王家に連なる家の紋章に獅子が使われていることは、平民でも知っていることだ。これがステルクティウス家の紋章だと知らなくても、王族の紋章だとは見た人は誰でも気づく。


「何でそんなことになってるのか物凄く気になるんだけど。僕らには言えないこと?」


口角を上げ満面の笑みを浮かべたネヴァンは、コテリと首を傾げると完全に獲物を捕らえたような目をしていた。その隣に立つリーベルも指輪のことは気になっていたらしく、目を輝かせながらコクコク頷いている。


「分かった。でも休憩中に話せるようなことじゃなから、授業終わってから時間作れる?」

「僕は大丈夫。リーベルは?」

「私も大丈夫よ。」


話していいものか悩んだけれど、リゲルからは神殿学校でやりにくいなら、魔力のこと以外は話しても問題ないと言われている。わたしがリゲルの庇護下にあり、貴族と深く関わっていることは周知の事実なので、話すことで今後やりやすくなるならその方が良い。


話が一区切りついたタイミングで神官たちが教室に入ってきたので自分の席に座ると、周囲の子たちがチラチラとこちらを見ているに気づいた。視線が髪飾りだったり、手元だったりするので新しく増えた装飾品が気になるのだろう。


その視線を少し煩わしく思いながら小さく溜め息を吐くと、神官の声が教室に響き久しぶりの授業が始まった。




「今さらだけど、僕たちが興味本位で聞いても大丈夫な話?」


放課後、四人掛けのテーブルがある東屋へ行き、わたしの正面に神妙な顔をしたリーベルとネヴァンが座った。

目の前に並んだお茶とお菓子は、授業終わりでお腹がすいているだろうと、ヴァルナが気を利かせて準備してくれた。


貴族と取引きをすることもあるネヴァンたちは、貴族との関り方をよく分かっている。貴族の関わることには見ざる聞かざる言わざるだ。

心配してくれる二人の顔を交互に見ながらゆっくり笑って頷いて見せると、リーベルは安堵したようにホッと息を吐き、満面の笑みで出されたお菓子に手を伸ばした。


「それじゃあ聞くけど、その指輪の紋章は王族のものだよね?髪飾りも虹色魔石って言うかなり高級な石が使われている。」


やはり指輪の紋章に気づいていたらしいネヴァンは、髪飾りをチラッと見ると胸元のネックレスにも視線を落とした。さすが商人の子。よく見ている。


「えっ王族?何それ。髪飾りが高級品なのは気になったけど、どういうこと?」


困惑するリーベルの横で、ネヴァンの視線は指輪に落とされた。何で紋章付きの指輪が二つに増えたのか、わたしだって困惑している。レグルハウトから貰った指輪も、あの時に紋章付きだと分かっていたら絶対に受け取らなかった。


「実は冬籠もりの間、神殿で生活してたの。神官として部屋と神官服を与えられて、仕事の補佐をしていたわ。この装飾品は、その時にリゲル様を訪ねてきた王族の人から貰ったの。」

「神官になれるのは貴族だけだよね?もしかして本当にリゲル様と結婚するの?素敵!」

「ちょっと待って!リゲル様と結婚?その指輪、王族に求婚されたんじゃないの?」


胸の前で手を合わせ目を輝かせるリーベルの横で、ネヴァンは眉をひそめて険しい顔をしている。魔力制御の為に貰った装飾品も、魔力のない人が持っていると普通の指輪だ。この紋章入りの指輪は、誰がどう見ても求愛の証に贈られた物だと思うだろう。


「違う。絶対にそれはないから!神官になった理由は話せないけど、誰とも結婚の予定はないわ。」

「でも指輪を貰ったのよね?王族も求婚以外に気軽に指輪は渡さないと思うわよ。ディアナが気づいていないだけで、本当は求婚されたんじゃない?リゲル様も素敵だけど、王族からの求婚は断れないわよね。」

「ねぇディアナ。この話、本当に僕らが聞いて大丈夫なの?」


ネヴァンは自身が想像していた以上に王族が関わっていることで顔色を悪くし、お茶を一気に飲み干し、一度、気持ちを落ち着かせようとしている。かなり引き気味の様子だ。

逆に恋バナ大好きなリーベルは、目を輝かせ白馬の王子様を想像しているらしい。


「求婚はされてないわ。本当にこの指輪にそう言う意味はないの。さすがに身分違いすぎるもの。ない、ない。」


指輪に紋章が浮かび上がっていることに気づき、リゲルに報告をした日。既にリゲルは紋章の件を知っていたらしく、ウィルビウスには報告済みだと言われあっさりこの件の話しは終わった。

何も言われなさすぎて逆にその態度が怖かったけど、蒸し返す勇気もないので、その後この話題には触れていない。


この装飾品を貰った時のことを思い出しても、レグルハウトからの求婚の雰囲気はなかった。どちらかというと、面白いものを見つけた時の興味本位に近かったような気がする。


「でもディアナはそっち方面は鈍いから。アデルのことだって・・・」

「アデル?」


どうしてこの流れでアデルの名前が出てくるかまったく分からず、首を傾げながらリーベルの顔を見ると、リーベルとネヴァンは二人で顔を見合わせ苦笑いを浮かべた。


「アデルの話は、二人でお茶会をした時にでもしてもらっていいか?それよりも、ディアナは今後どうするんだ?下町には戻れないのだろう?」

「どういうこと?」


ネヴァンの言っている意味が理解できないリーベルは、目を大きく開いて二人の顔を交互に見る。こちらをジッと見る瞳は、意味が分からないっと言いたげに不安で揺れていた。


「求婚の意志がないにしろ、貴族からそれだけの装飾品を贈られる理由があるってことだよ。既に神官の地位も与えられたってことは、神殿の人間はディアナを貴族として見てるってことだろ。どう考えてもそのまま下町で生活するのは無理だ。」


やっぱり後継ぎ教育を受けながら貴族と関わっているネヴァンは、こういうことに本当に鋭い。養女になることも話すべきか迷っていたけれど、これだけ色々と気づいているならもう全部話した方がよさそうだ。


「うん。ネヴァンの言う通りもう元の生活には戻れないの。月詠みの儀までにアークツルス家の養女になるわ。」


正面に座る二人の表情は対照的で、先ほどまで目が輝いていたリーベルは驚きの表情で絶句し、逆にネヴァンは納得したような、スッキリした表情をしている。


「この冬籠もりの間に打診があって、両親にも数日前に話があったばかりなの。」

「ディアナの両親は貴族の養女になることを了承したの?」

「了承もなにも貴族から言われたら親も断れないだろう。貴族の反感を買って、その場で殺されることもあり得るからね。」


そう、普通は貴族の申し出という命令は断れない。だがうちの父は平然と食い気味に断った。それどころか、両親も寝耳に水だったようで、話が違うとウィルビウスたちに殴り掛かりそうな勢いだった。いや、あれはリゲルが上手いこと制したが、どう見ても殴りにいっていた。


突然、貴族の養女にっと話が出ればあれが普通の親の反応だろう。わたしを真ん中に挟むように隣に座った父と母は、終始、守るように手を繋ぎ、大声こそ出さないものの母は静かに怒りに震えていた。


今思うと神殿長へ対する不敬罪でよく処罰されなかったなと思う。側近たちが部屋から出されていたことを考えると、両親がキレることは計算済みだったのだろう。


あの日のことを思い出し、胸の中が熱くなる。


最終的には養子縁組の契約書にサインをしたが、あれは納得したというより魔力の件を理由に納得せざる得ない状況だった。二人の表情は怒っているのか困惑しているのか、どちらとも取れない複雑な表情で、養女以外の案が本当にないのか何度も食って掛かっていた。


貴族になったからといって二度と会えなくなるわけではない。その言葉で二人の怒りが少し治まったので正直、ホッとした。

月詠みの儀を過ぎたら家を出て下宿する子も多いので、状況的にはそれと同じだ。家族で身分差ができることに関してはあまり気にしていないようだったけど、神殿以外で会えないことには納得していない様子だった。


わたし自身も完全に納得はできていない。それでも、全身にこの装飾品を付けなければ魔力制御もできない体では、下町の生活は無理だろう。魔力暴走を起こしリゲルを傷つけて、やっとわたしも魔力の恐ろしさを理解した。


「アークツルス家の養女になるってことは、リゲル様の義妹になるんだよね?ディアナはそれでいいの?」

「言いも何もディアナは断れる立場にないよ。リーベル、君も知ってるでしょう?貴族の言うことが絶対で、黒が白になる。僕たち平民はその言葉に背くことはできない。魔力を行使されたら命だって危ない。」

「違う。私はそういうことを言いたいんじゃないの。ディアナはリゲル様のことが好きだよね?とても信頼して慕っているように見えたわ。義妹になったらその対象じゃなくなっちゃうよ。」


リゲルを好き?誰が?わたし?

ううん。きっとこの気持ちは家族愛だ。


ほんのり気持ちが温かくなったことに気づかないふりをして、胸の奥にそっと蓋をし鍵をかける。今は誰が好きとか嫌いとか言ってる場合じゃない。


「リゲル様のことは好きだけど、家族に対する好きって気持ちと同じよ。養女のこともちゃんと納得しているから大丈夫。心配してくれてありがとう。」

「そっか。ディアナが納得しているならいいの。変なこと言ってごめんね。でも、何か困ったことがあったら相談してね。」


ニコリと微笑んでくれるリーベルと、真面目な顔で頷いているネヴァン。魔力のことはまだ言えないけど、変わらない二人の態度に安堵し、肩の力が抜けた。


「二人とも話しを聞いてくれてありがとう。」

「ううん。聞きたがったのは私たちだから気にしないで。あと、できればアデルにも養女の話しは教えてあげてほしい。きっとアデルも気持ちの整理をつける時間が必要だから。」

「う、うん?アデルも大切な友達だから、帰ってきたらちゃんと話すね。」


眉尻を下げ、困惑気味な顔をしているネヴァンの、その表情の真意が気になったが、リーベルは特に気にした様子もなく、一口サイズにカットされたケーキを皿に取り始めた。


リーベルの変わらない表情に、わたしもそれ以上は深く考えず、ヴァルナに新しいお茶を淹れてもらうと、時間が許す限り三人でのお喋りを楽しんだ。

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