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魔獣の作り方

レグルハウトの屋敷に行った日から数日ほど経ち、冬籠もり期間も半分ほど過ぎた頃、今日も神殿の外は分厚い灰色の雲に覆われ、歩くのが困難なほど雪が積もっていた。


これだけ積もると、雪道に慣れている兵士ですら街の巡回が難しくなる。兵士である父のジークも、冬籠もりの間は詰所で泊まりこんで仕事をしていたので、きっと今日も苦手な書類仕事をしているのだろう。


「ディアナ、魔石は持ってきたか?」


魔力の訓練場の中、目の前に立つレグルハウトに持ってきた魔石を見せると、ほうっと感心したように感嘆の溜め息を吐いた。

わたしの手の中に収まるこの黄色い魔石は、魔獣に変化させる為の魔法陣が埋め込んである魔獣作成用の魔石だ。


「たっぷり魔力を注いできました。」


魔道具を動かす魔石と違い、この魔獣作成用の魔石は自分の魔力を注がなければ意味がないらしい。他人が染めた魔石でも使えるには使えるが、的確な命令の伝達と繊細な動きを可能にする為には、自分の魔力で満たされた魔石がいいようだ。


「では最初は簡単な丸い形に変える練習だ。出来上がりの形を想像しながら、魔石にゆっくり魔力を注ぎ、魔石に溜めた魔力を動かすように石を変形させるんだ。」

「分かりました。」


両手で包み込むように持った魔石に少しずつ魔力を注ぎながら、丸い形を想像しながら手の中でコネコネ動かしてみる。


「うわぁ。あっという間に丸い形になった。凄い。」


もっと難しいのかと思っていたけれど、気づいた時には歪な形をしていた魔石が、手触りの良い綺麗な球体になっていた。デザートで作った飴細工を想像していたので、繊細そうな透明な球体が出来上がった。


「そのまま魔力を流しながら魔石を下に置いて、手から離してもそれに魔力を流し続けるんだ。それができるようにならなければ魔獣は作れない。」

「はい。」


わたしはその場にしゃがんで、両手で持っていた魔石をそっと床に置き、一本ずつ指を離していく。

このまま指を離しても魔力は途切れないのだろうかと心配になったので、魔石へ流れている魔力の流れを操り人形の糸をイメージしながら、ゆっくり全ての指を離した。


「ほぉ。初めてとは思えないな。」


魔石へ魔力が流れているのが一目で分かる。魔石を見下ろし、感心したレグルハウトの言葉に、ホッと安堵の吐息が漏れる。


「このまま乗れる大きさまで魔力を注いでいくんだ。一気に魔力を流すのではなく、一定の量を流すのがコツだ。」


少しずつ大きく膨らんでいく魔石に、わくわくしながら魔力を流していく。手の平に包める大きさだった魔石は、わたしが乗れる大きさまで膨らんだ。


「これならもう乗れそうです。この後はどうすればいいですか?」

「その大きさを意識し、魔力を流すのを止めればそのまま形は固定される。」

「はい。これ、乗っても割れないですよね?」

「割れるわけがなかろう。見た目はガラス細工のような球体だが、元は魔石でこれは魔力の塊だ。」


大きくなった魔石を触ってみると、確かに硬い。コツンっとちょっと強めに叩いてみたが、全く割れる気配はない。見た目は透明な薄い膜だが、魔石なので触り心地は冷たく硬い。


「ではさらに形を変える練習をしよう。」


もう一度、魔力を流しながら球体から四角、三角に形を変えていく。出来上がりの形をしっかり頭で想像するだけで、魔石は形を変える。自分の魔力で染めた魔石が使いやすいというのは、こういうことなのだろう。

ただ、うろ覚えで記憶が定かではないものは想像が鮮明ではない為か、形が変化しない。


「聞いてはいたが其方は魔力の扱い方が上手いな。真面目に基礎の練習をやっていたようだ。」

「魔力を扱えるのが嬉しくてずっと練習してました。リゲル様のおかげです。」

「今日中に魔獣作成までいくとは思わなかった。このまま最後の工程までいけそうだな。」


最後はこれまでと同じ要領で自分が乗る動物を想像する。動物の乗り物と言われて最初に想像したのが、東の森にいるハヴェン。

ハヴェンは鬣のない獅子のような顔立ちで、銀色の毛並でふさふさの長い尻尾が特徴の動物だ。


「何だこれは?」

「あれ?レグルハウト様は見たことないですか?ハヴェンですよ。雪が降り始めると東の森に現れるんですが、雪の中を歩いている姿がとても可愛いんです。」

「いや、ハヴェンは知っているが、なぜ羽根が四枚もあるのだ?こんなに必要ない。」


四枚の羽根がついた獅子に似たハヴェンは、我ながら結構いい出来だと思うが、眉間に皺を寄せ、奇妙な物を見るような視線を向けるレグルハウト。

自由に想像していいと言われたのに、この反応は解せぬ。


「いいじゃないですか。わたしの好みです。結構可愛いと思いますけどね。乗ってみてもいいですか?」

「乗る前に手綱と鞍が付いた状態を想像して作り直しだ。」

「あっ。そうでした。」


魔獣に魔力を流しながら、グニュンっと形を変えると背中に手綱と鞍が付いた。今度からはこの完成形を想像すればいいらしい。


「手綱を握ったらゆっくり魔力を流すんだ。其方が魔力を供給している間は魔獣が動くが、魔力が途切れるとすぐに動かなくなるので注意するように。」

「はい。」


わたしが一人で乗り降りできる大きさで作っているので、必死によじ登る必要もなければ、誰かに座るのを手伝ってもらう必要もない。


背中に跨り手綱を握って魔力を流すと、動き始めた魔獣がゆっくり歩きだした。魔石でできた魔獣なので鞍があっても背中の固さが伝わるが、意外と座り心地は悪くない。


「おぉ。動きました。思った通りに動いてくれますね。凄い。」


鳥が羽根を羽ばたかせている姿を想像しながら、「飛べ」っと念じ手綱から魔力を流すと、四枚の羽根がバサリと動き出す。魔獣が走り出し、そのまま空に駆けていく。


「レグルハウト様、飛びました。凄い、凄いです。」

「あぁ、成功だ。」


振り落とされないように空を駆ける魔獣の手綱をしっかり握り、部屋の中を飛び回る。


「ディアナ、魔力を込めて速度を上げてみるんだ。」

「はい。」


ぐっと魔力を流すと魔獣がぐんっと一気に加速する。手綱を握っていたおかげで後ろに反った体が振り落とされることはなかったが、驚いて魔力の流れを止めると、今度は急に動きが止まって前につんのめりそうになった。


「うわぁぁ。」


魔獣は魔力で動かしているので、魔力の流し方で動きが早くなったり遅くなったりする。魔力の調整が難しい。魔獣の操作は魔力の微調整が重要だ。


「其方は魔力が多いから細かい調整が難しいだろうが、すぐに慣れる。」

「はい。」

「・・・やはりその羽根は一枚羽にできないのか?魔力の無駄だ。」


二重の羽根がお気に召さないレグルハウトは、魔獣の背を見ながら何とも言えない微妙な表情をしている。男性にはこの可愛さが分からないのだろうか。


「これがいいのです。四枚の羽根でバサリと羽ばたく姿は、気品があって気高いじゃないですか。」

「言っている意味が分からない。どう見ても魔力の無駄だと思うが。」

「嫌です。これだけは譲れないです。」

「其方の美的感覚は分からぬ。もう羽根はそのままでよい。では一度魔獣を魔石に戻す。戻すときは魔石に戻った状態を想像するだけだ。」


言われた通り魔石に戻れと想像すると、コロンと簡単に魔石に戻った。作るのはあんなに工程があったのに戻すのは一瞬。

床に転がる魔石を拾いながら、なぜ手元に魔石が戻って来なかったのか不思議に思っていると、魔石に戻れと想像したときに手元に戻ってくるように考えなかったかららしい。

何とも簡単な原理だ。


「では魔石をまた魔獣に変える。一度、私がやり方を見せるので、よく見ておくといい。」


レグルハウトが腰のベルトに下げていた魔石を空に投げると、魔石はすぐに魔獣に変化した。魔石から一瞬で魔獣に変化される一連の動作に、感嘆の声が漏れる。


「とりあえず練習が必要なことだけは理解しました。」


同じように何度かやってみたが、変化する前に魔石が床をゴロゴロと転がり、転がった先で魔獣に変化する。投げてから魔獣に変化するまでのタイムラグが酷い。

騎士ではないのでスピードは求められていないが、緊急時は戦うためではなく素早く逃げる為にも、ある程度の素早さは必要だ。


「肩の力を抜け。あまり考えすぎるな。其方は魔力量があるのだから、寝ていても魔獣に変えることは容易い。」


それは言い過ぎだろうと思いながら、苦笑いを浮かべ静かに頷いた。結局のところ、考えるな感じろっという精神論らしい。

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