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王族の装飾品

侍女と会話らしい会話ができないまま、甘いお菓子に悶絶しながらお茶を飲むという虚しい行為を一人で繰り返していると、唐突に箱を抱えた従者たちを連れたレグルハウトが部屋の中に入ってきた。


侍女が手際よくテーブルのお茶菓子を片付け、従者が箱をわたしの目の前に置くと、箱の中身の物をどんどん並べていく。この光景、何か見覚えがある。


「其方用に新しい装飾品を何点か見繕ってある。好みのものを選ぶといい。」


目の前に並んだ精巧な細工が施された装飾品は、パッと見ただけでも純度の高い魔石が使われ、高級品であることが分かる。高級な雰囲気に手に取るのも怖い。これを気軽に選べと言われても選べるわけがない。


「あの、これは一体どういうことでしょうか。」


正面の椅子に座るレグルハウトを見ると、逆に何を言っているんだと不思議そうな顔をされてしまった。


「その腕輪は魔力の吸い過ぎで限界だ。魔力の扱いに慣れてきたようだが、其方は魔力が多いので成長期になるまでは魔道具に頼った方がいい。」

「新しい装飾品・・・」

「あぁ。華美なものは神官服と合わないだろう。普段使いできそうなものを選んである。」


そう言われてもう一度、並んだ装飾品を見るが、あきらかに手の込んだ作りに普段使いするには畏れ多い。冬籠もりが終わって我が家へ帰った時のことを想像するが、こんなものをつけて生活できるわけがない。


「装飾品を選ぶ基準が分からないので、選んでもらってもいいですか?」

「いいだろう。」


並んだものの中から指輪を手渡され、さっそくはめるように促される。受け取った指輪は、小さいが純度の高い魔石が埋め込まれた、細かい細工の三連の指輪だった。

右手の中指にはめるとすぐに魔石が魔力を吸い、大きさが変化し指にピッタリはまった。


体に溜まっていた魔力がゆっくり吸い取られ、気怠かった身体が軽くなっていく。魔石に溜めたり調合で使ったりしながら魔力を使ってはいたけれど、神殿で使う魔力はたかが知れているので、実はかなりの量の魔力が飽和状態だった。


「ありがとうございます。指輪をはめただけで、かなり体が軽くなりました。」

「神殿で生活してもその魔力を使う機会もないだろう。どれだけ純度の高い魔石を使った魔道具でも魔力を溜めるのには限界がある。」


そう言いながら、次に虹色の魔石を使った蝶々の形をした髪飾りを手に取ると、後ろに控えていた侍女がわたしの結い上げていた髪に付けた。

デザインはシンプルでも虹色魔石はかなりの高級素材。以前、素材集めを協力してくれているアーレウスが言っていたけれど、指輪サイズの魔石が騎士の月給で足りない金額らしい。


「この髪飾りとても綺麗ですね。」


侍女が渡してくれた手鏡で髪飾りを確認すると、髪飾りから垂れた細いチェーンが頭を動かすと揺れ、シャンっと金属同士が触れ合う軽やかな音が聞こえる。

当たり前のように髪に付けてくれたが、これもわたしが使っていいのだろうか。


「其方の金色の髪によく似合っている。」


後ろに控えている侍女が外してくれる気配も、レグルハウトが何か指示を出す様子もないので、このまま付けて帰れということだろう。


普段使いにするには気後れするけれど、このデザインなら神官服でも合わせやすそうなので、使い勝手は良さそう。わたしが一人で悩んでいると、レグルハウトはこの中で一番高級そうなネックレスを手に取った。


先ほどと同じように侍女が付けてくれたネックレスは、とても精巧な作りで、絡み合った蔦の中に赤い魔石が埋め込まれていた。使われている魔石は虹色ではなく普通の赤い石だが、魔石の大きさと純度の高さから良い物なのは分かる。


「レグルハウト様。このネックレスはいただくわけにはいきません。」


胸元のネックレスを見ると、チェーンを通している土台部分に、レグルハウトの生家であるステルクティウス家の二匹の獅子の紋章が彫られていた。獅子を紋章として使えるのは王族だけで、この獅子を見れば王家に準ずる者だと一目でわかる。


「其方はリゲルの庇護下にはあるが、神殿で仕事をしている者では後ろ盾としては弱い。私の紋章を持っていた方がよい。」

「しかし、わたしがステルクティウス家に関係する者だと思われます。」


リゲルの指輪の時もそうだったが、紋章付きの品は家の家格が関わってくるので本人だけの問題ではない。それを分かった上で指輪を付けさせられたのだが、王族であるステルクティウス家の品となると、そもそも付けていいものじゃないのはわたしでも分かる。


どう考えてもステルクティウス家の紋章付きの品を持っている方が、面倒事が起こりそうな気がするのはわたしだけだろうか。

首から下がったネックレスは見た目の繊細なデザインとは異なり、その価値が重く首に圧し掛かる。重い。重すぎる。


まだこのネックレスは、わたしが魔石に干渉していないので魔力を吸っていない状態だ。突き返すなら今しかない。


「王族の紋章付きを貰うわけにはいきません。わたしは貴族ですらない平民です。わたしが持っているのが知られれば、問題になりませんか?」


断られると思っていなかったレグルハウトは、顎に手を当て少し考えるような素振りをみせたが、その表情は至極面倒そうだ。


「ステルクティウス家の紋章は彫ってあるが、それは私が管理している品なのでどうするかは私に決める権利がある。紋章が気になるようなら、普段は見えないように服の下にでも付けておけばよかろう。」

「それはそうですが・・・」


他に断る理由が思いつかず口を閉じたり閉めたりしていると、従者が早々とテーブルの上を片付け始めた。これ以上、装飾品が増えることはないようだが、返品も受け付ける気はないようだ。

綺麗に片付いたテーブルに侍女がお茶を並べていく。お茶菓子はやっぱり激甘の焼き菓子だ。


「神殿の食事に食べ慣れると、甘くてかなわん。」


焼き菓子を一口食べ、眉間に皺を寄せた険しい表情でお茶を飲むレグルハウト。改めて食事の感想を聞いたことがなかったけれど、しっかり胃袋を掴んでいたらしい。

貴族は美味しい物を食べているイメージだったけれど、リゲルの食事を見てきたわたしは知っている。貴族が好きなのは美味しい物ではない。高級な物、珍しい物だ。


「わたしのお菓子がお口に合っていた様でよかったです。冬の間にまた何か新作を考えますね。」


花弁まで再現された薔薇の焼き菓子に手を伸ばし一口かじると、口の中でジャリっと砂糖の塊が溶けた。赤く着色した砂糖でコーティングした焼き菓子は、見た目は美しいが味は暴力的だ。

二口目をかじるのを躊躇していると、その様子に気づいたレグルハウトは整った口元に薄笑いを見せた。


「最近また魔力が増えたのではないか?」

「あまり意識はしていませんでしたが、言われてみれば魔力が増えた気がします。」


剣舞を始めて体力もつき、冬籠もりで毎日まとまった時間、魔力の訓練を行うようになってからは、体の中の魔力の巡りがよくなっている感じはしていた。魔力が増えたかと問われれば、多分かなりの魔力が増えた。


「今はまだ訓練で調整できる魔力量だが、今後、さらに魔力が増えることを考えると、神殿で魔力の訓練を続けるだけでは溢れる魔力を抑えることは難しくなるだろう。」

「だったら今まで以上に魔道具を動かしたり、余った魔石に魔力を溜めておきます。」

「神殿は魔力量の少ない者が働く場所だ。魔力を大量に使う魔道具はほとんどない。少々魔力を使ったところですぐに有り余った魔力は溢れる。そのことは其方が一番理解しているのではないか。」


足を組み優雅な仕草でお茶を飲みながら、レグルハウトは言葉を続けた。カップを持ち、口を付けるまでのその気品ある姿を見ると、改めてこの人は王族なんだなと実感する。


「其方は魔力に対する認識が甘い。それはリゲルにも言えることだが、本来、魔力を持たない平民が魔力を持っている時点でもっと警戒するべきなのだ。」


言いたいことは分かるが、ここでの発言権が無いに等しいわたしにどうしろと言うのだろうか。リゲルやウィルビウスは今後も貴族と関わりながら、神殿で働くか貴族の屋敷で働けばいいと言っていた。わたしも二人の言うことに従うつもりでいる。


「その魔力は神殿では手に余る。然るべき場所で訓練が必要だろう。」

「それはどういう意味でしょうか。」

「高学院へ行きリュースを持て。」


大きく見開いた目は、視点が定まらずぼんやりとしている。驚きのあまり手に持っていた高価なカップを落としそうになったが、無意識にしっかり握りしめていた貧乏性のわたし、偉い。


「え?高学院、ですか?」

「リュースがなければ魔法陣を描くこともできなければ、魔石の採取も調合に使う素材の採取もできない。既に調合をしている其方なら、リュースのない不便さに気づいているだろう。」


レグルハウトの言う通り、リュースを持っていない弊害が出始めていた。魔力だけはあるので、調合に慣れ、やりたいことの幅が広がってきたのに、結局はリュースを必要としない基本の調合しかできないでいた。

今後も用意してもらった素材を使い、魔石に魔力を流し続け、魔力を調整する為の装飾品を付けなければ魔力を扱うどころか、日常生活もままならない。今のままでは本当に無力。


「それは分かってます。でもわたしは平民です。高学院へ行けるのは貴族だけですよね?」


リュースを取得する為に高学院へ通えということだろうが、わたしは兵士と針子の娘で平民の中の平民だ。商人の子どもなら平民とは言え、お金に伝手にありそうな気もするが、我が家にそんな伝手も財力もない。


「あぁ。貴族の養女になれば高学院へ行くことが可能だ。」

「養女?え?おっしゃってる意味が・・・」


驚きを隠せないわたしを余所に、レグルハウトは決定事項を伝えるように淡々と話しを続ける。混乱で揺れるわたしの瞳を、強者だけが持つ絶対王者のような金色の瞳に捕らえられていた。


「庇護者であるリゲルの実家、アークツルス家の養女になるのが一番自然な流れだろう。」


何か反論したいが、言われたことが衝撃的すぎて言葉が出ない。言われた意味を考えてみても、養女っという言葉だけが頭の中で木霊する。

多分、貴族の養女になると、明確な身分差で今まで通り家族と会うことは難しくなるだろう。貴族社会に無知なわたしでも分かる。家族と離れてまでリュースを持ちたいかと言われたら、否だ。


「家族と離れるのは嫌です。」


必死に絞り出した声は消え入りそうなほど小さく、しかし、明確な意思を持ったその声は部屋の中に響いていた。


「いま貴族になることを拒否したところで、遅かれ早かれ別の貴族に目を付けられるだろう。良からぬことを考える輩はどこにでもいる。其方の家族を人質にその魔力を手に入れようとする者も少なからずいるだろう。」

「な、なんですかそれ!?」

「それだけその魔力が強力ということだ。覚悟を決め自分の意志で貴族社会へ入ることが其方の為になる。」


無情にも聞こえるレグルハウトの言葉に、無言で下を向き完全に思考が停止した。窓の外に見える吹雪とは反対に、部屋の中は恐ろしいほどの静寂に包まれていた。


コポコポコポッ


どれくらい時間が経っただろう。静まり返った部屋の中に、お茶を注ぐ音と爽やかな香りが溢れた。

レグルハウトの指示なのか気の利く侍女の独断か、飲み干したカップが温かいお茶で満たされる。


「・・・美味しい。」


温かく優しいお茶の味に肩の力が抜ける。気を抜くと涙が出そうになるが、泣くわけにはいかない。ここで泣くのは何か違う気がする。

グッと泣きたい気持ちを堪えて、こちらを見据える金色の瞳に視線を絡ませると、思いのほか優しい眼差しに先ほどまでの警戒の色が一瞬で解けてしまった。


その優し気な瞳もこのタイミングで怪しさしかない。しかし、この話を蒸し返されたくない一心で、手を取るべきではないその瞳に縋ってしまう。


腹の内が全く分からないその瞳は、夜の闇に浮かぶ月のように美しかった。

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