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家族と安息日のお出かけ

安息日。

十日に一度やってくるこの日は、例外はあるものの、名前の通り全ての人の安息の日。

安息日の例外である兵士は、基本的に二交代制で安息日も漏れなく仕事。家族サービスも兼ねて四回に一回程度の割合で安息日に休みが回ってくる。


ディアナの家族も、末っ子のインディ以外は仕事だったり神殿学校だったりで、最近は家族が揃うことが難しくなっていた。しかし今日は、久しぶりに全員勢揃い。


久しぶりに全員揃ったので、家族でお出かけだ。お出かけと言っても、東の森で薪に使える枝を拾ったり食べ物の採取をして、お昼はアレクが見つけた景色の綺麗な場所でゆっくりご飯を食べる予定。


「私、久しぶりに森に来きたわ。インディは森に来るの初めてだよね?洗礼式前なのに連れて出て大丈夫だったの?」

「心配しなくても俺が付いてるから大丈夫だよエミリ。門の奴らにも息子を連れて出るのは言ってある。後でお礼に酒でも持っていくさ。」


ジークは問題ないっと家族の顔を見ながら、ニッと歯を出して笑ってみせた。


洗礼式前の子どもは門を越えた森には行けないことになっているが、門の管理をしている兵士の許可さえ出れば行くのは可能だ。正門の出入りには国の許可証が必要なのを考えると、森側の門は顔パスに近くかなり緩い。


「わたしも来るの久しぶりだ。本当はわたしが森に薪拾いに行かないといけないのに、協力できなくてごめん。」

「あら、気にしなくてもいいのよ。エミリやアレクが家を出て働いてるから、これでも我が家の生活はかなり楽になったのよ。ジークも門の責任者になって給金も上がったんだから。ふふ」


シュンっと肩を落として落ち込むディアナの頭を優しく撫でたコーナは、「ありがとう。」っと優しく微笑んでいる。


森の入り口に着くと、アレクは一人でさっさと奥の方へ歩いて行った。働き始めるまで毎日のように森に来ていたアレクは、目を瞑っても歩けるっと豪語するほど森歩きに慣れていた。


「インディは俺と一緒に回るぞ。エミリ達は交代しながら荷物番を頼む。東の森は魔獣が少ないとはいえみんな気を付けてくれ。」

「「「はーい」」」


アレクに続いてジークもインディを連れて森の中に入って行った。ほとんど森に来たことのないディアナは、コーナに荷物番を頼みエミリと一緒に散策することにした。


夏の森にはディアナの好きな果物がたくさんある。一番大好きなアッセの実もこの時期は熟して食べ頃だ。アッセは黄色い小粒の実でそのまま食べても美味しが、煮詰めてソースとして使うのが実用的。


「あっ、ディアナ、あそこに生えてる草は食べれるから採っておこう。夏は日持ちしないから、採るのは今日食べる分だけね。」

「分かった。こっちのは食べれる?」

「それは今の時期もう採るには遅いよ。春の新芽が美味しいの。」


エミリもアレク同様、仕事を始めるまで毎日のように森へ来ていた。森の散策の仕方は分かっているつもりで、歩きながら山菜や薪に使えそうな木の枝をどんどん拾っていく。

その真似をしながら枝を拾っていくが、拾う枝の中に燃えにくい種類の木が混ざっていたり、太すぎて乾くのに時間がかかりそうな枝があり、拾う度にエミリに指摘される。

そんなエミリの姿に、さすがエミリ、凄い!素敵!っとディアナは尊敬の眼差しを向けていた。


ある程度、枝を拾ったので一度コーナの所に戻ると、ジークはインディを連れているからか早めに戻ってきていた。二人も枝をたくさん拾っており、インディが得意げに自分が集めた枝を見せてくる。

弟よ、可愛いすぎる。


アレクは狩りをするために魔獣が出やすい森の奥に行ったので、戻って来るのにもう少し時間がかかるだろう。今日の夕飯がブッシュの肉になるかもしれないので、とても楽しみだ。


「アレクももうすぐ戻って来るだろうから、アレクが戻ったら昼食にしよう。先に準備だけしておくか。インディ、火の起こし方を教えるから来い。」

「うん」


エミリはディアナを誘って近くの川に水を汲みに行きながら、今まで教えることが出来なかった森の散策の仕方を教えていた。

森で採取するのは自分が持って帰れる量だけ。もしみんなとはぐれた時は、まず森の西側を流れる川を探し、下流にある枯れた大木が集合場所だ。そんなに広い森ではないので川を探すのは比較的簡単。

もし魔獣に遭遇したら慌てて走って逃げず、門で渡される魔獣除けの臭い袋を投げ、魔獣を錯乱させ余裕を持って逃げる。


「ディアナは神殿にいるから、これからも森に行く機会はほとんどないわね。今後も神殿へは通うのよね?」

「うん。月詠みの儀までは通うよ。その後はよく分からない。」

「だったら私と一緒に工房で働く?」

「どうだろう?リゲル様には貴族と関わらない生活は無理だろうって言われたの。教養の授業も、淑女の嗜みって言われて楽器の練習をしてるんだけど、毎日苦戦中。笑っちゃうことにまったく優雅じゃないのよ。」


最近では楽器に指が慣れ、最初のような指先の痛みはなくなった。ただ、カウスがとても張り切り出し、十日もしないうちに練習曲の難易度が上がった。

今では練習曲と並行して式典用の楽譜の読み方も教えられているので、話を聞いたリゲルからの期待が一気に上がってしまった。


「ふふふ。ディアナが楽しそうでよかったわ。最近なかなか会えてなかったから心配してたのよ。久しぶりに会ったら指輪をしてるから本当に驚いたんだからね。それで、どうしたのその指輪?それ貴族の紋章よね?」


目を見開いて興味津々といった様子のエミリ。グイっと手を取られ、目を輝かせながら指輪を観察される。貴族相手に針子の仕事をしているエミリは、この彫り物が貴族の紋章だと一目で分かったらしい。


「この指輪、神殿へ来る貴族除けにリゲル様から借りてるの。リゲル様は侯爵家だから、普通の貴族ならこの紋章を見たら近寄って来ないだろうって。」


両親にはその日のうちに指輪のことを説明したけれど、エミリたちは両親から話を聞くだろうっと思って改めて説明はしていなかった。驚かせて本当に申し訳ない。

久しぶりに会った妹が、貴族の紋章入りの指輪してたら普通驚くよね。腕輪をした時も凄く驚いてたのに、次は指輪。それも求愛の意味がある装飾品だから、理由を知らない人が見たら絶対に誤解するやつ。


「えええええ!?リゲル様って侯爵様だったの?神殿で働いているから、そんなに凄い人だとは思わなかった。」

「リゲル様は神官っというより、神殿長の側近として神殿で働いてるんだって。」

「そんなに凄い人なのに全く偉ぶってないわよね。そういえば、前に抱きかかえられて帰ってきたけど、あれ大丈夫なの?不敬にならない?」

「多分、大丈夫だよ。なんだかんだ言って優しいから。あっ、みんなが誤解してたからお姉ちゃんにも先に言っておくけど、わたし貴族の妾にはならないから安心してね。」


ウィルビウスの側近をしているオルクスに、神官の中でそんな噂があるって言われた時は、わたしが否定する前に、リゲルが鼻で笑って噂に悪態を付いていたから妾はないだろう。

元々あった噂が、腕輪で疑惑だったのが指輪で確証って感じになったみたいだから、家族には他人から妾疑惑を聞く前に早めに否定しておいた方がいいだろう。


「心配していたけど大丈夫そうね。実は私、お母さんには話したんだけど、婚約するかもしれないの。」


頬を赤らめながら恥ずかしそうに俯くエミリ。今はまだ結婚に興味ないと言っていたのに、何か心境の変化でもあったのだろうか。


「そうなの!?お姉ちゃん、おめでとう!」

「ありがとう。相手の人は、いま働いてるお店のご主人の親戚の人よ。雇い主の紹介だし一度会ってみたら優しそうな人だったわ。最初は断るつもりだったけど、正直迷ってる。」


どうするかまだ悩んでるっと、口元を綻ばせ幸せそうに微笑んでいた。相手の人の話をするときの表情は、とても柔らかい。その顔を見ると、多分、了承するだろうっと思う。


「良い人なんだね。相手は同じ仕事の人?」

「うん。今は経理を担当しているけど、結婚したら私たちにお店を任せたいってご主人夫婦が言ってくれたの。私、自分のお店を持つのが夢だったのよ。」


王都で一番人気のお店で働くエミリは、既に貴族の顧客を何人か持っているらしい。そんな腕でも基本的に後継ぎは親族っと決まっているので、王都で自分のお店が持てるのは本当に運が良い。


多分、お店の主人は貴族の顧客も付いているエミリを、他のお店に引き抜かれないよう、自分の親族とお店をあてがうことにしたんだと思う。エミリもそのことは分かっていると思うけど、それだけ腕を買われているっということだろう。

どんな形でも結婚で確実な後ろ盾を持てれば今後は安泰だと思う。


「まだ結婚する気はなかったのに、結婚とお店の話しが同時にくるとは思わなかったわ。そのお店、商業区の中央通りにあるの。一等地よ。嬉しいけど少し戸惑ってる。」

「わたしはお姉ちゃんがどんな答えでも応援する。ふふ、でもその顔だと気持ちはもうほとんど決まってるんじゃないの?」


口角を上げてニヤリと笑うと、驚いた顔をしたエミリと目が合う。あいかわらず本人が気づいていないだけで、とても嬉しそうに顔を輝かせてお店の話しをしていた。


「そうね。そうかも。いまは月詠みの儀前で仕事が忙しいから、話しはそれが落ち着いてからになると思う。お父さんにもそれまでにはちゃんと話すね。」

「お父さん、お姉ちゃんが結婚するって聞いたら泣いちゃうかもね。わたしは何があってもお姉ちゃんの味方だからね。」


ありがとうっと笑顔で頷いてくれたエミリは、何か吹っ切れたような晴れやかな顔だ。


水を汲んでみんなの所に戻ると、エミリの様子が変わったことに気づいたコーナは、特にそのことに対して何か言うわけでもなく、わたしに視線を向けるとニコリと微笑んで、また視線をエミリに戻していた。

母の勘、恐るべし。

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