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平民と成人の儀

式典の際、神官の立ち位置は祭壇から遠くなればなるほど、儀式での重要度が低くなる。神殿長と共に舞台に立つのは、役職持ちのベテランや神具の管理を任されている者。それ以外は舞台袖や舞台前で参加者を監視し、新人や若手は扉前や参加者の周囲に立つ。


リゲルはウィルビウスの側近として、式典中は祭壇の後ろに控えている。そしてわたしは、そんなリゲルの側に一緒にいるわけにもいかないので、会場全体が見えるバルコニーにいた。

ここは四階建てほどの高さがある吹き抜けの、ちょうど三階あたりにあるので、下の広間からは良く注視しなければ誰がいるかまでは分からない。


大広間には既にたくさんの人が集まっていた。王都とその周辺の平民だけで、こんなに成人する人がいるのかと思うと驚嘆だ。


参加者たちは色とりどりの晴れ着姿で、小奇麗な一張羅に身を包んでいる。洗礼式の衣装は白と決まっていたが、成人の儀は特に色が決まっていないらしい。男女共に派手な装いだ。

成人の儀は洗礼式と違って各地区事に集まっている必要がないのか、みんなあちらこちらをウロウロしながら友人たちとの会話を楽しんでいるようだ。


チリンチリーン


式典の始まりを知らせるベルの音が鳴ると、大広間は静まり返り音楽が流れ始めた。洗礼式にはいなかった楽師がいるので、音が響いて厳かな雰囲気だ。

音を補強する魔道具を使っているので、演者の数に対して音が大きい。


ウィルビウスが祭壇に上がり両手を上げると、音の補強が弱まり背景のように緩やかに音楽が流れる。変わりにウィルビウスの声に補強がかかり、会場全体に声が響く。


新成人にお祝いの言葉を述べると、ここでもやはり神話の話を始めた。神話の内容は成人の者へ向けての叱咤激励のような話で、簡単に解釈すると周囲からの悪い誘惑に惑わされるなっということだ。

結婚の神ヒュメナイオスや異性に溺れる愛欲の神なども登場し、異性やお金などで堕落してく人間の末路を神話になぞられて話していく。


やっぱりウィルビウスは話し方が上手いなっと一人、嬉々として聴いていたが、学ぶ機会がない平民はそもそも神話を知らない者が大半なので、聴いているのがいくら成人する大人だとしても、この話はかなり解釈が難しいような気もする。

意味が分かればためになる話だと思うけど、理解できていなければ何の意味もない。


わたしはウィルビウスに神話の話をしてもらって以来、神話の面白さにはまって、暇を見つけては図書館で聖典を読んでいる。神話は歴史書のように時代背景を考えて読み解かなくてもいいので、神様の特性さえ理解できていれば、初めて読む話も難しくない。童話や恋愛小説と同じだ。


しかし、この神話の本当の意味を理解して聴いている者はいるのだろうか?

事実、会場全体を見る感じ皆の反応は何とも言い難い。この反応、話好きのウィルビウスにはきっと物足りないだろう。


もちろん神話の話だけでなく、実在する平民の成功者の話なども織り交ぜていく。成功して国から土地を貰った平民や、貴族の中でも最下位ではあるが男爵っという位を賜った者も多数存在する。

そういった話は身近で分かりやすいのか、みんな目の色を輝かせながら真剣に聞いていた。


「それでは、神に祈りましょう。」


祈りの言葉と共に自身の背より長い黄金の槍を神官から受け取ると、槍の石突部分を床に打ち付ける。ドンっと言う音が響き、魔石を加工して作った刃の部分が赤い色を纏いながら淡く光る。

柄の部分にも魔石がはめ込んであり、透かし彫りなど精緻な細工彫刻が施されていた。


「成人を迎えたファンエリオンの子よ、女神フォルツァヌスの吐息が春の祝宴に幸福をもたらすだろう。」


ドンっとまた槍を打ち付ける。淡く光っていた刃が徐々に強く光り始める。槍に使ってある魔石は、遠目に見てもその純度が高いのが分かる。


「太陽神ヒュペリオーンの光に照らされ、迷うことなく運命の神モイライの元へ導かれた。」


もう一度、槍を床に打ち付ける。刃は完全に強い光を放ち、槍全体に装飾された魔石も光っている。それに呼応するかのよう、祭壇に置いていた神具の聖杯も同じように光を放っている。


ドンッ


「暗闇を照らす神々の恩恵。光り輝く足元は、其方等を導く。」


強い光を纏った槍は、ついにその光が溢れ、そのまま光の柱となって天井まで伸び、天井にぶつかると弾けた。弾けた赤い光が会場全体に飛び散る。

飛び散った光は、ゆくっりと揺らめきながら参加者たちに降り注ぎ、感嘆の声が漏れる。


「成人の儀を終え、この時をもって新しい世界へ導かれた。皆等しく、神の祝福を。」


その声に合わせるように聖杯から金色の光が溢れだし、同じように光の柱となって天井にぶつかると弾けた。降り注いでいた赤い光に加え、金色の光が会場全体に降り注ぐ。

金と赤の光が混ざり合うように降り注ぐ光景は、言葉では表現できないほど神秘的で神々しい。


目の前で起こった神の祝福の奇跡に、感嘆の声がやむことはなく平民の成人の儀が終わった。

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