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守りの指輪と成人の儀

春の王都はまもなく行われる十六歳のお祝いである成人の儀と、その翌日に行われる婚姻の儀式である花紡ぎの儀を前に、街中には色とりどりの花が飾り付けられていた。


ファンエリオンの国民は、年に一度、各神殿で行われる花紡ぎの儀に参加することで、神に祝福され始めて正式な夫婦と認められる。


その為、夜の繁華街は王都周辺からやってきた若い男女で人が溢れ、結婚相手がいる者は独身最後のお祝いと称して友人たちと飲み歩き、花紡ぎの儀を前に相手がいない者は、独り者同士で集まって泣きながら酒を煽っている。


国を挙げてのお祝いムードに羽目を外し、ついつい酒の量も増え、酔って騒動を起こす者も多い。道端で眠る酔っ払いならまだいい方で、血の気の多い若者は諍いも絶えず、あちこちで喧嘩の仲裁をする兵士の姿が目に入る。


それに便乗した無銭飲食や美人局も頻発しており、この時期の兵士はあちこちに駆り出され、治安維持の見回りで大忙しだ。


しかし、大人たちは呆れながらも笑って「これがファンエリオンの春の風物詩だ」っと、若者たちの門出を祝福する。


成人の儀の当日、基本的には子どもは家で留守番だ。街中は気分が高揚した若者で溢れ、残念ながら治安がいいとは言えない。

もちろん神殿学校も安息日の為、休みだ。


しかし、本来なら神殿に行く必要がないわたしを迎えに来てくれた神官たちを伴い、賑わう街中を横目に見ながら急ぎ足で駆け抜けていた。

迎えに来た神官たちは、式典用の神官服に身を包みいつもより豪奢な佇まいだが、今日は街全体が成人の儀のお祝いで浮かれているので、二人を気にする者はほとんどいない。


「貴族の式典が見てみたいです!」


数日前の魔力の授業中、貴族の式典は魔道具を多用するのでとても神々しく神秘的だとリーベルたちに聞いたわたしは、ダメもとでリゲルにお願いをしてみた。

もちろん取り付く島もなく却下されたのだが、それを聞いていた神官からウィルビウスに話が行き、魔道具に魔力を供給する事を条件にあっさり許可が出た。

神官曰く、式典前は魔道具への魔力供給が一番大変らしく、「協力感謝します」っと泣きながら喜ばれた。神殿の魔力不足、深刻すぎ。


式典は午前中に平民の式典、午後から貴族の式典が行われるので、神官たちは朝から準備でかなり忙しい。そんな中で迎えに来てくれる神官に申し訳ないので、アレクに送迎を頼むつもりでリゲルに送迎不要と断りをいれたが、一瞥し鼻で笑われて終わった。

そもそも成人していないアレクの送迎は問題外らしい。すみません。言ってみただけです。


「リゲル様、暇なのでわたしもお手伝いします。」


神殿に着くと有無言わさずリゲルの執務室へ放り込まれ、わたし用に用意された小さめの机に座って、いつものように書類の束を手に取って手伝いをする。


字が綺麗だと褒められて以来、褒められたら伸びる性格だった単純なのわたしは、意気揚々と字の勉強を頑張り、今では空いた時間に執務の手伝いができるまで上達した。

手伝いと言っても、走り書きされた雑に書かれた書類や、書類の記入に抜けがあるものをわけ、不備があるものは理由を記入し、不決済の箱に入れるのがわたしの仕事だ。


「ディアナ、まもなく式典が始まる。プロメ、着替えの準備を。君も神官服へ着替えだディアナ。」


机に置いていた束一つなくなる頃、不意に神官たちが執務室から出て行き、残ったのはリゲルの側近たちだけになっていた。


「神官服へですか?」

「見学する以上は神官としての参加が条件だ。」


知らない間に見学の条件が増えていたが、式典と関係ない子どもを儀式中の神殿へ立ち入らせることはできないらしい。それなら着替えるしかないよねっと小さく頷くと、席を立ったリゲルは側近のプロメを伴って奥の部屋で着替えを始め、わたしは執務室の端に衝立を置いて着替える。


用意された服は、神官たちが着ていたのと同じ鮮やか濃い青の衣装だ。式典用の豪奢な服は一人で着替えができない作りになっており、着替えを手伝う侍女を用意してくれていた。


「髪型も変えましょう。ふふっ。ディアナ様の御髪は金糸のように美しいですね。」


どこかの貴族令嬢のように扱ってくれる侍女に居心地の悪さを感じながらも、瞬く間に髪は結い上げられていく。さすがリゲルが用意した侍女だ。


リゲルの着替えも終わったらしく、部屋から出てきたリゲルの衣装は、あきらかに他の神官たちより豪奢な作りだ。多分、家の家格が関係あるのだろう。いつも着ている神官服に見慣れているせいか、飾りの多い豪奢な服を着ると佇まいに威圧感が出て、彼が上位貴族なんだと実感する。


「ディアナ、これを付けておきなさい。」


髪を結い終わり髪飾りを付けられているわたしの手の上に、ポンっと貴金属を乗せた。普通に渡されたので疑問も持たずに受け取ったが、その様子を見ていたリゲルの側近たちが、驚きを隠せない表情でわたしの手元を見ている。


「これは?」

「貴族除けだ。」


指輪ですよね?至極当然ように言われたが意味が分からない。どこをどう見ても指輪だ。シンプルなシルバーの指輪には、いつか見たアークツルス家の紋章が刻印されている。


貴族は洗礼式を受ける日に紋章入りの指輪を親から贈られる。指輪には何かしらの付与された魔法陣が埋め込まれ、その指輪が貴族の証になるそうだ。

この指輪には防御と攻撃の魔法陣が二重掛けされいるらしい。


神官として見学する以上、指輪を付けていないと色々面倒くさいことになるので、わたし用の指輪を用意してくれていた。


「アークツルス家の指輪を見れば、普通の貴族は近寄って来ない。」

「わたしがこの指輪を付けていたら、リゲル様の妹か子どもだと誤解されませんか?」


リゲルの言う通りなら、この指輪を見た貴族はわたしのことをアークツルス家の関係者だと思うだろう。今日だけの貴族除けのために、わたしがアークツルス家の人間だと思われて大丈夫なのだろうか?

一応、教養を学んでいるけれど、まだまだ付け焼き刃感が否めない。それに所詮は平民。どこでボロが出るか分からない。


「君の口から婚約者と言う言葉がでなくて安心したよ。式典に出る以上、指輪を渡すつもりでいたから気にしなくていい。指輪はその腕輪と同じように、他人が奪うことができないように魔力を吸ってサイズが変化する。時間がない、早くつけるんだ。」


急かされるように利き手と反対の、左手の人差し指に指輪を付けると、魔力を吸った指輪は紋章が光り、子どもの細い指にも合うよう小さくなる。

これで指輪の魔力登録が済んだらしく、リゲルはその登録を確認すると、困惑した側近たちの視線をよそに涼しい顔をしていた。


指輪に魔力登録ってどういうことだろうか?

しかし、その疑問はわたしが口を開いた瞬間、神殿内に流れる式典開始を知らせる音楽によって遮られることになる。

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