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はじめてのお茶会(前)

「ねぇディアナ。今度のお休み、予定がないならうちに遊びに来ない?」


わたしの隣の席が定位置となったリーベルは、机に広げた教材の片づけをしながら徐にこちらに顔を向けた。授業終わりのお喋りが当たり前になったわたしたちは、最近は教室を出るのがいつも最後だ。


「出入りの商人が持ってくる他領の新しい流行品がたくさんあるの。新作のお菓子でお茶会しよう。」

「素敵!でも、わたしお呼ばれするような服を持ってない。」

「いいよ、いいよ。私とお茶するだけだから気軽に来ていいのよ?」


同じ平民とは言っても下町でも貧民層寄りの我が家と、大店の商家のお嬢様のリーベル。リーベルの言う気軽の判断基準は、わたしの想像より百倍高い。多分、リーベルの言うお茶会は、貴族の人たちがするようなお茶会に近い。


それにリーベルの家がある商業地区に行くだけでも、それなりの恰好が必要だと思う。わたしの服はエミリが張り切って作ってくれているので、正直、見た目はかなり可愛い。でも、布の質は良くないので、見る人が見れば安物なのは分かってしまう。


「なぁ、だったら俺の店の服を着ないか?貸出用の服も扱ってるんだ。貸出は流行の服を気軽に着れるから結構人気だぞ。」


少し離れた席に座るアデルは、わたし達の話が聞こえていたのか、片付けが終わった流れでこっちの会話に入ってきた。

布を扱うアデルの家は服屋も営んでいる。お店は平民向けの服を売っているそうだが、商業地区の一等地に店舗を構えているのでなかなかいい値段だ。

商業地区には若い子向けの可愛い服屋も多く、お針子のエミリは勉強の為に買い物に行くらしいけど、アデルの家のお店は質も値段も別格だと言っていた。


「アデルのお店で扱ってる服は高級でしょう?貸出でもそんなお金ないよ。」


そうだなっと頭をガシガシっと掻きながら何か考えているアデル。何か名案を思いついたように、視線をこちらに向け、それならばっと言葉が続く。


「試作品を着ないか?春用の新作が何着か出来上がったんだが、着てくれる人を探していたんだ。着心地の感想と、ついでに新作の宣伝もしてくれれば無料で貸し出せる。」

「その新作の試着がわたしでいいの?」

「構わないよ。俺が経営の練習の為に任されてる店だから、経営方針は好きにできる。」


驚きすぎて開いた口が塞がらないっとはきっとこのことだ。

さすが大店の跡取り息子。経営の練習用に、自分の自由にできるお店がポンっと与えられるらしい。商業地区の一等地に構えるお店を練習に使うあたり、お金持ちは規模が違う。


「んー、服の貸し借りはわたしじゃ分からないからリゲル様に相談してみるね。」


お呼ばれしたときの作法の事も含めて、リゲルに相談した方がよさそう。考えずに了承したら怒られるのが目に見えている。




「一度、お茶会の雰囲気を経験しておくのは悪くない。リーベルの所なら、貴族の令嬢たちがやっているような茶会に近い体験ができるだろう。」


食事作法の練習の為に始まった食事が、今では一緒に食べるのが当たり前の光景になった。食事をしながら神殿学校での事を報告するのが毎日の日課だ。

最初の課題だった食事の作法は何とか合格をもらえたけど、たまに抜き打ちで謎の料理を出せれ毎回食べ方に悩む。そして、その光景をリゲルが楽しんでいるのは知っている。


「それと、お茶会に行く服をアデルが貸してくれるそうです。アデルのお店の試作品らしくて、感想と宣伝を兼ねて着てくれれば無料で言いと言われたんですが、お願いしてもいいですか?」


ディアナの言葉に一瞬、食事の手が止まる。ディアナはアデルが困っている友人対して親切心で申し出てくれたと思っているが、そんな純粋な理由じゃないだろう。

アデルがディアナに気があるのは誰が見ても明らかだ。商人としての立ち回りが上手くなってきたアデル相手に、まだ後ろ盾のないディアナが下手な貸し借りするのは危険だ。


「アデルの家はデルタ商会だったな。素人の娘からの着心地の感想はともかく、新作の宣伝も兼ねて着せれば君は目立つのでいい宣伝になるだろうからな。商人の考え方としてはとても理にかなった考えだ。」


いいのではないか?っと言いながら、ディアナに視線を向ける。デルタ商会は王族御用達で貴族からの評判はいい。アデル自身も真面目で悪い男ではないが、タダより高いものはない。


「無体なことを言ってこないとは思うが、私の方からデルタ商会に釘は指しておこう。」

「釘?ですか?」


意味が分からないっと言うふうに食事の手をとめるディアナ。


「お茶会の日は馬車を出す。家にはいつも通り迎えを寄こそう。」

「え?休みの日に友達の家に遊びに行くだけですよ?」


至極当然のような申し出に即刻お断りを入れる。休みの日まで気を揉んでもらう必要はない。そもそも遊びに行くのに馬車を出される理由が分からない。


「以前も話したが一人歩きは許可できない。神殿学校へ通っている以上は、淑女としての振る舞いが求められる。それは休みだろうが関係ない。商人街へ行くのに道が狭く馬車が通らないっという言い訳はきかないからな?馬車の手配は決定事項だ。」


リゲルの表情は呆れるを通り越して、眉間に皺が寄りキレ気味だ。


神殿学校に通い始めてすぐ、神殿まで一人で歩いて来ていることを会話の流れで話すと、ぎょっと驚いてしばらく呆然としていた。驚きのあまり言葉が出てこないっという初めての経験ができたらしい。


貴族は基本的に一人歩きはしない。どこへ行くにも必ず護衛か側使えが付くからだ。それは誰もが例外はなく、特に子どもが一人で街中を歩いているなどありえないそうだ。


頭を抱えたリゲルに神殿への往復は馬車で送迎すると言われたが、下町の居住区に毎日馬車で来られても困る。それに居住区の狭い道は馬車が走れない。神殿にいる御者に確認すると、やはり居住区は馬車が通れないっと言われ、何とか馬車送迎案はなくなった。


最終的に神官が送迎する事で話が落ち着いた。貴族である神官に下町まで送迎をさせるのは申し訳ないが、一人歩きは絶対にダメだと強めに怒られ、これ以上はリゲルの怒りが爆発しそうなので仕方ない。


そしてその翌日からさっそく送迎が始まったのだが、小奇麗な神官服を着た男性二人と平民の小娘が下町を歩くのはかなり目立っていた。結局、外聞が悪いのは馬車とかわらないのでは?っと思いもしたけれど、意外と人の良い神官たちと喋りながら歩くのを今では楽しんでいるので、これはこれで良しとしている。


「お茶会へ招待されたのなら手土産が必要だが、何か考えているのか?主催側の好みはもちろん、今回のお茶会が新しいお菓子を食べるのが目的なら、その趣旨に沿った物を考えて選ぶ必要がある。」


はっきり言ってわたしが用意できるものなんて限られている。何か持って行く必要があるなら、やっぱりお菓子?


「また調理室をお借りしてもいいですか?」


料理の最後に出てきたわたしが考案したデザート。有り余る魔力の使い道が何かないか相談したところ、神殿の魔道具に使ったらどうだろうかっと提案された。

それから神殿の裏方仕事を手伝うようになり、調理室への出入りも許可されたので最近は魔道具を使ったお菓子作りをしている。


「あぁ、問題ない。」

「はい。ありがとうございます。」


実はわたしの作るお菓子を楽しみにしてくれているリゲル。下町の料理と、料理本で覚えた他領の料理を組み合わせて作る創作料理が意外とお気に入りらしい。

お茶会用のお菓子も、リゲルの合格が出る美味しい物を作ろうと密かに気合を入れた。

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