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ナイフとフォークと貴族の食事

テーブルの上には綺麗に並べられたフォークとナイフ。


目の前には飾り切りした味が想像できないカラフルな野菜。


具を入れ忘れたように透き通ったスープ。


綺麗にソースがかかった食べにくそうな骨付き肉と、オシャレに野菜が添えられた魚。


大好きなデザートは芸術的に盛り付けられ、飴でできた器は少しの振動で崩れそうなほど薄い。


そして顔を上げると、対面に座って優雅に食事をするリゲル。


食事が苦痛だと思う日が来るなんて、夢にも思わなかった。

一体これは何の拷問ですか?


時間は少し遡った五の刻。

授業が終わって慌ただしく帰って行くみんなの後ろ姿を見送りながら、わたしも授業の片付けをしていた。終わる時間に合わせお迎えの馬車が来るので、ゆっくり雑談している子は少ない。


帰るリーベルと挨拶して、わたしも席を立つ。いつも昼食を食べている中庭に移動だ。

今日のお昼ご飯も来る途中で買った黒パン。安くて大きいい黒パンは腹持ちもいいので平民の主食だが、熱いスープに浸けながら食べないと顎が痛くなるほど硬い。


「ディアナ、リゲル様がお呼びですよ。」

「リゲル様が?分かりました。」


わたしが席を立ったタイミングでリゲルの補佐をしている神官に呼ばれ、そのままリゲルの執務室へ行くことになった。


案内してくれる神官の話では、食事作法の勉強も兼ねて一緒に昼食を取ろうっというリゲルからのお誘いらしい。特に断る理由もないので二つ返事で頷いたけど、どんな貴族の料理を食べれるのか楽しみ。絶対に美味しいだろう。


執務室では、仕事をするリゲルの傍ら、お世話をする側使えの人たちが二人分の食事の準備を始めていた。


部屋の中は広く、入ってすぐに執務室があり、その奥に個人の部屋がある。

基本的に神殿住まいの神官達には、執務室とそこに併設した個室が与えられる。貴族での階級や役職で部屋の広さが変わってくるらしく、リゲルの個室は寝室以外にも、書斎に衣裳部屋、さらに魔力登録した者しか入れない部屋があるらしい。


「勝手に座ったらダメだよ。リゲル様がエスコートして下さるまで待って。」

「エス?エスコート?あっ、すみません。」


食器が並べられた方の椅子に座るのをやんわりと制し、ソファに座るよう促される。言われるがままおとなしくソファに座って、何気なくテーブルに並べられていく食器類を見ていると、どうも様子がおかしい。


大きさが微妙に違うたくさんのフォークやスプーン。何個も並んだ形の違うコップ。食べる時に自分で使い勝手がいいのを選べってこと?


ボーっとテーブルを眺めていると、準備ができたことをリゲルに伝える側使えの声が聞こえた。リゲルは仕事の手を止め、その視線がこちらへ向けられる。


「さて、君には食事作法を一通り教えようと思っている。食事作法は神殿学校でも教えるが、貴族と商人が会食する際の作法と貴族同士の会食では食事作法が異なる。君は商人ではないので、貴族同士の作法を覚えた方がいい。」

「わたしが貴族の人と食事をすることってあるのでしょうか?」

「あぁ。君は魔力があるので今後は貴族と関わることが増えるだろう。所作に関しては貴族令嬢と同じだけの知識を学んでもらうつもりだ。」


分かりましたっと頷くとリゲルは立ち上がり、わたしの前まで来ると左手を差し出す。立ち上がって差し出された手をギュっと掴むと、僅かに眉間に皺が寄ったので何か違ったらしい。


女性側がエスコートしてもらうとき、手は相手の手に添えるようにそっと置くのが基本の形。説明してくれないと分かるわけがない。差し出された手はしっかり握るのが普通じゃなかろうか。


置いた手を優しく握り返され、席まで案内してもらう。席には給仕に案内してもらうか、エスコート相手と行くのがマナー。椅子に座る時も同様、自分で椅子は引かず、エスコート相手か給仕が椅子を引くのを待つ。


「動きは硬いが何度も繰り返していくうちに違和感なく動けるようになるだろう。歩き方と姿勢は所作の授業で矯正するように伝えておく。それでは食事を始めよう。」


ワゴンに乗せられた料理が運ばれてくる。

花が添えられた彩り鮮やかな野菜。オシャレに飾り切りした野菜に添えられた花は、観賞用なのか食べれる花なのか、どれを食べてどれを食べないのか謎だ。とりあえずフォークを持って食べれそうな野菜をつついてみる。


リゲルの方を伺うと、まるでお手本のような美しい所作で食事をしている。フォークで野菜を食べているだけなのに、その動きは流れるように優雅だ。


「今は字の勉強をしているのだろう?君の字が綺麗だと褒めていた。」

「本当ですか?うわぁ、嬉しいです。今は基本の文字と数字の練習が終わったので、単語集を見ながら文章の読み書きをしてます。」

「そうか。練習をするなら図書館の本も有益だろう。君も貸し出しができるように手配しよう。」

「いいのですか?ありがとうございます。神官以外は本を持ち出せないって聞いたので嬉しいです。」


目の前に置かれた具が入っていない澄んだスープ。小さな固いパン屑がパラパラっと乗っている。六人家族の我が家でもさすがにスープは具だくさんだ。

これはスープ?何かの嫌がらせだろうか?


「貴族の教養は見た目の所作だけではなく、芸術鑑賞も教養を養うためには大事だ。君が望めば嗜み程度には絵を学ぶ事もできるが、絵に興味はあるか?」

「絵を描くのはあまり好きじゃないです。それに姉たちにもわたしは絵が下手だと言われるので、得意ではないです。」

「字が綺麗だから絵も上手いと思ったが、絵は得意ではなかったのか。」


給仕の人が自然な流れで置いたパン。篭に入ったパンは、いつも食べている黒パンと違って見るからに柔らかそう。お貴族様もパンは手で食べるの?手で取って千切って食べていいんだよね?


「他の子たちとも上手くやれていると聞くが、何も問題はないか?」

「はい。みんな優しいし勉強も教えてくれます。」


あれ?骨が付いたままのお肉がきた。ソースが付いてるけどこれも食べるなら手だよね?えっ?手じゃない!?ナイフで切り分けてるけど、そんな上手いこと切れるの?


「姉たちが神殿へ呼ばれたと聞きました。魔力を調べたのですか?」

「あぁ。君に魔力がある以上、他の家族も魔力持ちである可能性がゼロではなかったので調べさせたが、魔力は全くなかった。洗礼式前の弟からも魔力感知はできなかった。」

「魔力なかったんだ…。」

「君があの両親と親子関係であることは間違いない。もちろん兄弟とも血は繋がっている。君の出生や家族のことを調べたが特に怪しいことはなかった。そのことを心配していたのだろう?」

「…はい。もしかしたらわたしだけよその子なのかなって。でも本当の家族って分かってよかったです。」


あっ!果物だ。わたしでも悩まずに食べれるやつきた!皮が付いてるけど食べていいよね?いつも食べてるけど食べていいよね?

え!?皮を手で剥いてる?


「料理はこれで最後だ。食べる量が分からなかったので料理人に任せたが、丁度よかったようだな。」

「はい。とっても美味しかったです。」

「食べ方に集中して食事を楽しめていないようだったが、味が分かったのならよかった。明日も授業終わりに講堂まで迎えに行く。先ほども言ったが、こればかりは実践を織り交ぜながら回数をこなして慣れるしかない。」


多分、わたしの顔は盛大に引き攣っていたはず。リゲルには美味しかったと言ったけど、本当のところ味なんて分かるわけない。味がしない食事は初めて。リゲルの手元に集中しすぎて何を食べたかあんまり覚えていない。

確かにお腹はいっぱいになった。これは嘘じゃない。頭もいっぱい。


リゲルの食事の仕方はわたしでも分かるほどに優雅で美しかった。座っているだけなのに佇まいは凛として、動きの一つ一つが丁寧。本当に見本のような完璧な食事風景。


わたしもいつかそんな風に食べれるようになるのかな?


うん。無理。

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