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魔道具の選定

「神殿長室ですか?」


昼食を終えていつものように魔力の授業を行っている建物へ行くと、既に到着していたリゲルは、「授業の前に神殿長室へ行く。」っとこちらを一瞥するだけでそれ以上の説明はなく、さっさと建物を出て行く後ろ姿に踵を返し、慌てて追うはめになった。


ちなみに、貴族として家格の高いリゲルの隣に並んで歩くのは不敬に当たるらしいので、先ほどからずっとリゲルを追いかけるように少し後ろを歩いている。

以前、リゲルが何も言わないので普通に並んで歩いていたら、神官に注意されたことがあった。

貴族の決まり事、難しい。


「神殿長室があるのは神殿の中ですか?」

「いや、この執務棟の中だ。」

「え!?ここですか?それらしい部屋を見たことないです。神殿長にも全く会わないので別の場所だと思ってました。」

「神殿長室への入り口は魔力で隠してあるので、普通に探しても見つからない。ウィルビウス様の仕事内容上、部屋への入室を制限しているからね。」

「凄い!魔力ってなんでもありですね。」


一体どこに神殿長室への入り口があるのかテンションが上がる。廊下を歩きながらキョロキョロしていると、いつの間にか歩く速度が上がっていたらしく、気づくとリゲルの横に並んで歩いていた。

だがリゲルも特に注意してこないし、そもそも今はそれどころじゃない。


「ディアナ。」

「はい?」


グニョン


「うわっ!」


名前を呼ばれた瞬間、突如感じた薄い膜を通り抜けるような感覚。慌てて振り返っても見えるのは歩いてきた廊下だけ。リゲルの顔を見ると顔色ひとつ変えておらず、こちらへ向けていた視線とかち合う。


「リゲル様、いま何か変な感じがしました。今のは何ですか?」

「ほぅ。今のが分かったのか?今のが魔力の壁だ。入室を許可されてない者は、気づかないうちに違う廊下に飛ばされている。」


入室の許可がない人がこの廊下を通ると、建物内のどこかの廊下に飛ばされるらしい。知らずにここを通った人は、気づくと別の階にいたっという不思議なことが起こるそうだ。

知らずに通っても特に問題はないれしいけれど、短時間で何度もこの行き来を繰り返すと、悪意のある侵入者と認識され、この建物の外に弾き飛ばされる。かなり厳重警備。


薄い膜を通り抜けた廊下の先に、今まで見ることのなかった部屋があった。扉の重厚感から見ても、この部屋だけ格段に違うことが分かる。

両開きの扉も一枚が大きく、施された彫刻も志向を凝らした作りだ。この扉にも魔力が込められているらしい。


コンコン


中で仕事をしていた神官が部屋の扉を開けると、見た目はかなり重そうな扉なのに動きはかなり軽やか。これも魔力?


「お待たせ致しました。」

「神殿長、こんにちは。」


神殿長であるウィルビウスはあいかわらす立派な顎髭を蓄え、好々爺然とした風貌だ。洗礼式の日に会って以来なので、会うのはかなり久しぶり。

元々そんな簡単に会える人ではないので、物凄く偉いリゲルが尊敬している人っという以外の情報はない。


リゲルに促されウィルビウスの正面の椅子に座ると、リゲルも隣の席に座った。


「久しいな、ディアナ。神殿学校はどうだい?何も困ったことはないかな?」

「はい!お勉強楽しいです。」


最近授業で習ったことを話して、難しいけど勉強できることが嬉しくて楽しいっと告げると、ウィルビウスは「それはよかった。」っとニコリと微笑んでいる。

うんうんっと頷きながら聞いている姿は、どう見ても本当のおじいちゃんみたいだ。


まだ魔力についてほとんど知識がないわたしに、貴族の洗礼式でも話す『建国と魔力の歴史』を話してくれる。わたしが理解できるように話してくれているけど、知らない言葉が多くてやっぱりまだ難しい。

それでも真剣に話を聞く姿に満足したのか、今後もウィルビウスが特別講義の場を設けてくれることになった。わたしは嬉しいけど、神殿長が直々にそんなことしていいのだろうか?


後でその疑問をリゲルが教えてくれたのだけど、ウィルビウスは人に教えることが好きで、騎士団にいたころも指導役に回っていたらしい。団長自らが新人の指導をする隊はかなり珍しいそうだ。

忙しくなければ神殿学校でも講師をしたいと常々言っているそうなので、気軽に講義を受けてくれっとあっさり決まってしまった。


「オルクス、あれをこちらへ。」


話が一区切りすると、オルクスと呼ばれた扉の前で控えていた神官が、大きさの違う箱をテーブルの上に並べていく。

箱の中から中身を全て取り出すと、目の前に並んだのはあきらかに高そうな装飾品。デザインはシンプルだけど、一つ一つの装飾がとても凝っていて高価なものに見える。


「さて、話は聞いていると思うが、其方は魔力が多すぎるが故に、魔力量に対して体の成長が追い付いていないのが現状だ。」

「はい。」

「そこで、魔道具を使って早急に魔力を抑えたいと思っている。これは其方の魔力量に合わせて用意したものだ。」

「え?これが魔道具ですが?」


お金持ちの装飾品にしか見えないこれが魔道具らしい。よく見ると、魔石と呼ばれる宝石のような石が埋め込まれている。


「あぁ。普段から付けておく必要があるので、デザインも重要視されている。これ等は見た目だけではなく性能もとてもいい。」


無造作に並べられた中から渡された魔道具は、所々に赤と黒の石が埋め込まれ、銀色の蔦が絡み合うようなデザインの二本の金の腕輪だ。この中で一番高価そうに見えていた物なので、傷を付けないように両手で恐る恐る受け取った。


「その腕輪が其方の魔力の波長に合いやすいだろう。両方の手首に付けてみなさい。」

「は、はい。」


言われるがまま手首に付けると、大きくて手首から落ちそうだった腕輪が腕の大きさに合わせて小さくなった。装飾品を兼ねている魔道具はそういうものらしい。

魔道具、まじ有能。


腕輪をウィルビウスが触ると埋め込まれていた石が淡く光り、腕輪全体がほんのり温かくなってきた。腕輪に魔力を流して正常に反応しているのか確認したらしい。


「体内の魔力が溢れそうな時は、その魔道具が勝手に吸い上げてくれる。基本的に溢れた魔力だけを吸い上げるので命の危険はないが、其方の場合はそもそも潜在している量が多いので、一気に大量の魔力を吸い上げられる可能性がある。その場合、急激な魔力の低下は体への負担が大きいので、疲れが強い時はすぐリゲルに言いなさい。」

「分かりました。」

「では、少し魔道具を使ってみることにしよう。魔力の流れを意識してごらん。今までより格段に魔力の流れが分かるだろう?」


言われた通り魔力の流れを意識すると、魔道具を付ける前と全く感覚が違う。魔力の動きがスムーズで、今までより体も身軽に感じる。外側から体内を引っ張られるような感じがするけれど、これが魔力を吸われる感覚らしい。


「魔力が簡単に体中に流れてます。凄い。」

「魔道具は魔力を吸い上げるだけでなく、魔力を使う際の補助道具的な役割も担っている。特に其方のように魔力が多い者は、魔道具を使った方が魔力を扱いやすいだろう。」


魔力を流す度に魔力が吸い上げられる感じがするけれど、体内に溜まっていたモノが取れる感じがして気持ちがいい。腕輪はほんのり熱を持ち、石が光っている。


「魔力がかなり流れているようだな。そのまま体が疲れるまで流してみるといい。」

「はい。」


言われた通り夢中で魔力を流していると、遠くから七の刻の鐘が聞こえてきた。いつの間にかかなり時間が経っていたらしく、午後の授業が終わる時間になっていた。


「ディアナ、体調はどうだ?」


声に気づいて視線を向けると、隣に座っていたリゲルが心配そうに顔を覗き込んでいる。チラッと腕輪を見ると最初は淡く光っていた腕輪が、金色に強く光り輝いていた。


「疲れました。熱がある時みたいに体がだるいです。」


リゲルは顔を強張らせ眉間にしわを寄せると、腰に付けていたポーチから小瓶を一つ取り出し蓋を開け差し出してきた。瓶の中のは透明の液体が入っている。


「これは魔力の回復薬だ。一気に飲み干して。」


口に付けた回復薬はほんのり甘くて飲みやすい。一本飲み干すと少し疲れが取れた。回復薬の即効性が凄い。


「どうだ?」

「少し疲れが取れました。」

「初級だと少しか。では、こちらをもう一本飲んでくれ。」


渡された回復薬は緑色で見るからにドロっとしている。あきらかに不味そうなそれを一気に飲み干すと、想像と違ってかなりの激甘。苦いよりいいけど、これはこれで見た目通り不味い。

でも効果は抜群のようで、残っていた疲れが一気に取れた。


「凄い。疲れが吹き飛びました。まったく疲れが残ってないです。」

「魔力を使いすぎるとまず最初に今のような症状が出る。それ以上の魔力を使うと意識が朦朧として、意識が飛ぶこともある。魔力の限界点は人それぞれ魔力量が異なるので、本人にしか分からない。今の感覚を忘れないように。」

「はい!」

「今後は君用の回復薬も準備させよう。後に飲んだ上級回復薬はまだ君に持たせることができないが、最初に飲んだ初級回復薬でも効果がないわけではない。一人でいる時に体調が悪くなったらまず回復薬を飲むんだ。それで効かない時は、夜中でもいいから気にせず神殿にくるように。いいかい?」


大きく頷くと、対面に座っていたウィルビウスがニコリ微笑み、こちらに伸びてきた手で頭をわしゃわしゃと撫でられた。リゲルはこの一連のやり取りを何とも言えない表情で見ていたけど、やっぱりウィルビウスは気さくなおじいちゃんだ。

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