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はじめての魔力

一般人が立ち入れない神殿の奥に、神官たちが仕事をする四階建ての執務棟がある。見た目は神殿の縮小版のような作りの建物は、許可された人しか入れないように魔術がかけられ、結構厳重。


神殿学校の授業はその一階の講堂でやっているらしく、わたしも中に入れるように登録をしたのだけど、やっぱりここでも血。平民が貴族と契約を結ぶときは、何かにつけて血を使うらしい。血の契約と言われ、その契約は簡単には破れないそうだ。


この建物に入れない父は神殿の応接室で待ってもらっている。わたしだけ連れて行かれることに納得できない父が無理やりついて来ようとしたけれど、やんわりとリゲルに制されていた。貼り付けたようなその胡散臭い笑顔に、底冷えするような寒気を感じた。貴族、怖い。


建物を説明してもらいながら講堂まで行くと、今日の授業はもう終わったらしく部屋の中は静寂に包まれていた。一人掛けの机と椅子が整然と並び、多い時で二十人くらいの子が授業を受けるそうだ。

授業は朝の仕事始めと同じ三の刻から昼時の五の刻まで。授業の雰囲気をちょっと見たかったので、残念。


執務棟から続く長い廊下を歩き、渡り廊下で繋がっている隣の建物の中へ入ると、神殿の大広間のような高い天井の広い空間は、ガランとした何もない真っ白な建物だった。


「ここは何ですか?」


何もない建物にわたしの声が響いた。


「魔道具や神具などが保管してある建物だ。魔力が外に漏れないようになっている。」


神殿で使っている魔道具は、ここの続き部屋に保管されているそうだ。特に神具には物凄く大量の魔力が込められているので、かなり厳重に管理してある。わたしの魔力の勉強もこの建物内でするらしい。


「君は魔力の知識がほとんどないっと聞いているが、今後の授業の参考のため現状の魔力を確認しておきたい。これから少し魔力の基礎を教えるのでやってみてくれ。」

「は、はい。」

「では、まず基本の扱い方からだ。」



魔力の基礎その一

身体の中の魔力の動きを感じよう


「君は既に魔力を動かすことができると聞いたが、魔力が体の中を巡っている感覚は理解しているのか?」

「はい。体がくすぐったいので分かります。」

「私も小さい頃はくすぐったい感覚が苦手だったが、魔力に慣れてくればその感覚は気にならなくなる。まぁ最初はそのくすぐったい感覚が魔力の勉強の際には役立つのだがな。」


魔力の基礎その二

魔力を全身に巡らせよう


「では、その魔力を全身に行き渡らせてみよう。君は魔力を箱の中から出し入れするっと表現しているようだが、出す量は調整できるか?」

「うーん。やったことないです。」

「そうか。時間がかかってもいいから、箱から出す量を意識しながら出してみてくれ。」

「はい。ゆっくり、少しずつ。」


リゲルはわたしの首元に右手を添え、「魔力の流れの確認だ。」っと言うと首元に添えられた手がほんのり温かくなってきた。


「上手く流れているようだな。魔力を最大限に使いこなすには、頭から足先まで全身に巡らせておくことが重要だ。慣れないうちは流したい場所を強く意識すれば、自然と魔力がそこへ流れるはずだ。」

「うわぁ凄い。指先までちゃんと魔力が流れてる。」


魔力の基礎その三

魔力を意識した場所に集めてみよう


「次は全身に魔力を巡らせた状態で、魔力を動かして一ヵ所に魔力を集中させてみよう。まず右手へ集め、ある程度集まったらそのまま魔力を溜めるよう意識するんだ。」


難しすぎる。何か物凄く涼しい顔で説明してるけど、こっちは魔力に集中し過ぎて頭がクラクラする。くすぐったい感覚より今は熱があるときみたいに体が熱い。


「集中が切れているな。一度、休憩をいれよう。」

「は、はい。」


その場にしゃがみ込むとギョッとした表情をしたリゲル。

あれ?休んでいいんだよね?


「隣の部屋に応接室がある。お茶を用意させよう。」

「あっ、はい。」


何もないこの場所で休憩っていうから座っただけなのに、まさか休憩できる部屋があったとは迂闊。怒られなくてよかった。


「体調は大丈夫か?」


どういう仕組みが分からないけれど、わたし達が隣の応接室に入ると、それを追うようにお茶の準備をした神官が入ってきた。

手際よく並べられたお茶は、爽やかな香りで清涼感があり美味しい。


「少し頭がクラクラしたけど、今は平気です。」


リゲルは先ほどしたように首元に手を添え、添えられたその手はやっぱり温かい。


「問題ない。これは魔力酔いだ。君は魔力は十分にあるが、今まで碌に使ったことがなかったからその反動だろう。」

「魔力酔い…。」


酔うという感覚がよく分からないけど、リゲルが大丈夫というなら大丈夫なのだろう。お茶を飲み干すと一気に頭の中がクリアになった。


「リゲル様、もう大丈夫です。続きやりましょう。」

「あぁ。」


魔力の基礎その三

魔力を意識した場所に集めてみよう(再挑戦)


「そうだ。そのまま魔力が散らないように右手に集中して。よくできてる。では次は左手に集めるんだ。」

「はい。」


右手から左手に魔力を移動させるとまた体が熱くなる。魔力が集まった場所が熱い。


「問題ないようだ。ただ、一定の魔力を長時間保つのは慣れるまで難しい。魔力を全身に巡らせる練習を重点的に行った方がいいだろう。」


魔力の基礎その四

魔力を意識した場所に集めてみよう(応用編)


「先ほどは一ヵ所ずつ集めたが、次は左右の手、二ヵ所いっぺんに集めてみよう。均等に魔力を集めるように意識するんだ。」

「均等に均等に。」


適当に同じ量くらいと考えて流してみたけれど、多分全く均等じゃない。意識すればするほど意識した側の魔力が多くなる。


「均等に?あれ?どうやったら均等になるんですか?」

「そうだなぁ。同じ大きさのコップを二個想像してみてくれ。そのコップを左右の手に持って、その中に水に見立てた魔力を満タンに入れるイメージで魔力を流すと、均等に魔力が流れているのが分かるはずだ。」

「コップに魔力を入れる感じ…うわっ!?凄い!!同じくらい流れてる!」

「まだ完全な均等ではないが、魔力の扱いに慣れてくれば均等に流れるようになるだろう。」


魔力の基礎その五

魔力を意識した場所に集めてみよう(応用編高難度)


「二ヵ所の次は四ヵ所だ。四ヵ所に魔力を集めることができるようになれば、魔力を扱う上で非常に役に立つ。やり方は同じだが、四ヵ所集中は難しいので練習して習得するしかない。」

「分かりました。さっきと同じようにコップを四個並べて…あれ?あぁどんどん魔力が他に流れてる。」

「今日は君の実力を見たかっただけなので出来ずとも問題ない。練習を続ければ繊細な魔力操作が可能になる。徐々に感覚も掴めるだろう。」


また襲ってきた魔力酔いでぐったり床に座り込むわたしに、苦笑いのリゲルは「お茶を用意するよ。」っと隣の部屋に行くと、新しいお茶のセットが用意してある。いつの間に。

リゲルは自分でティーポットにお湯を注ぎ入れた。


「リゲル様、わたしがやります。」

「そんなフラフラの人間にさせるわけがないでしょう。私がやるので座っていなさい。」


そう言われても、貴族のリゲルにお茶を淹れてもらい、じっと座っているのも居心地が悪い。

リゲルは慣れた手付きでお茶の準備をする。動作の一つ一つに品があり優雅だ。

手ずから淹れてくれたお茶は、周囲にフワッと甘い香りが漂う。わたし好みの甘いお茶だ。


「はぁ美味しい。」

「今日は君の魔力を確認するだけのつもりだったが、無理をさせてすまなかった。」

「大丈夫です。魔力の勉強ができて楽しかったです。リゲル様、ありがとうございました。」

「君は魔力量は十分あるので、慣れてしまえば魔力酔いで体調が悪くなることはないだろう。」


優雅にお茶を飲むリゲルは、あいかわらず貼り付けたような胡散臭い笑顔。でも貴族であるリゲルに最初に両親が心配していたような、蔑んだ態度を取られることはない。

多分、この人は信用していい人だ。


明日から始まる神殿学校のことを考え、無意識にニコニコと表情を緩ませ胸を弾ませるディアナ。

その姿を、僅かに眉間に皺を寄せたリゲルが観察していたことに、呑気にお茶を飲んでいたディアナは気づいていなかった。

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