神殿への召喚状
洗礼式の翌日、改めて今後のことを話し合いたいっという主旨が書かれた神殿への招待状が届いた。
招待状と言えば聞こえはいいが、貴族からの招待状は拒否できない召喚状と同等だ。
多分、気が変わらないうちにさっさと話しを進めるぞっということなんだろうが、両親は青い顔をし、父は「やっぱり逃げられないか」っと小さく呟き項垂れていた。
召喚日当日、招待状という名の召喚状を手に父と二人で神殿へ向かった。一応、相手はお貴族様なので洗礼式ほどではないが、わたしも父もかなり気合の入った服を着ている。
ちなみに母は、インディの子守りがあるから今日は家でお留守番だ。
招待状を門兵に見せると、あっさり中に通され、初めて来たときと同じ応接室に案内された。
神官たちが手際よくお茶とお茶菓子を準備している様子をみると、お客様枠での呼び出しで間違いはないらしい。
コンコン
「お待たせしました。ウィルビウス様の側近をしておりますリゲル・アークツルスです。今日は私の方から今後についての説明をさせていただきます。」
「ディアナです。よろしくお願いします。」
神殿長が来るのかと思っていたけれど、部屋に来たのは彼の側近。さすがに最高責任者が、毎回毎回現場には出てこないようだ。
「ではまず勉強の進め方ですが、神殿学校で他の生徒たちと文字や計算、歴史などの一般常識、立ち振る舞いなどの所作、楽器を使った教養などを学んでもらいます。」
「楽器も習えるの!?すごい。」
「えぇ。この神殿学校の目的は商人の大店の子たちの教育です。商人は貴族と関わる事が多いので、貴族の前に出せるだけの様々な知識と教養、そして貴族の嗜みである楽器の経験も必要です。」
勉強だけじゃなく楽器も習えるなって最高だ。実は洗礼式で神官たちが楽器を演奏いているのを見て、とても興味がわいた。説明を聞いて益々、勉強が楽しみになった。
そして、今後わたしの勉強の管理は、リゲルがしてくれるらしい。神殿の事、魔力の事、貴族の事、何も知らないわたしには側で教えてくれる人が必要っということだ。
「わたしも貴族の人と関わらなければダメなのですか?」
「君は魔力持ちだから商人の子たちより貴族に関わることが多くなるでしょう。教養はしっかり学んだ方がいい。」
やる気に満ちているわたしとは逆に、隣に座る父の反応は物凄く悪い。父の顔を横目でそっと覗き込むと、眉を顰めて何か考え込んでいる。
「ディアナの魔力は仕事を探す時に有利だと聞きました。教養を学べば貴族とも対等に仕事ができるということでしょうか?」
「対等は難しいでしょうね。ですが、いい待遇を得ることは可能です。魔力を持っている以上、貴族と関わらない生活は避けることは出来ません。それも含めて学ぶことは大事です。」
貴族と関わるってそんなに大変なことなの?魔力を使う仕事は稼ぎがいいって聞いたけど、それはそれで苦労しそう。
リゲルの説明を聞きながら、父はあいかわらず渋い顔で考え込んでいる。やっぱりここで勉強するのが反対?
「先日、養女にすることは考えてないと言われましたが、俺たちは本当にその言葉を信じていいのですか?娘を貴族に取り上げられる事はないと断言してほしい。本当に娘に不利益はないと言い切れますか?」
「その件に関しては、私の口からは何も申し上げることはできません。ただ、一つ私が言えることは、ここで学ぶ事にディアナの不利益にはならないでしょう。」
リゲルはニコリと笑顔で話しているけど、張り付けたような笑顔で何を考えているのか分からない。
多分その胡散臭い笑顔が父は気に入らないのだろう。
「お父さんはやっぱり反対?」
心配してくれるのは嬉しいけど、わたしは勉強がしたい。真っすぐ父の目を見た後、しょぼんと伏し目がちに視線を落とすと、分かりやすく狼狽える父。父はわたしに甘い。激甘だ。このしょんぼり悲しそうな顔作戦は使いたくないけど仕方ない。
「反対じゃない。ディアナが本を読むのが好きだと知ってるからね。ただ、貴族が関わってくると俺たちじゃディアナを守れなくなる。目に届くところにいないのが心配なんだ。」
わたしの頭を優しく撫でる父の顔は、眉尻を下げ悔しそうに顔を歪めていた。
お金も権力も魔力もある貴族は、平民を視界に入れる価値もないと思っている節がある。住む場所を分けた高い壁は、ある意味、平民にとって命の安寧の象徴だ。その壁をわたしは一人で越えようとしている。一度越えてしまうと多分もう後戻りできない。
「あなたの心配は理解しました。ですが、ディアナが教育を受けるのは、自分自身を守る為の力が必要だからです。貴族社会は後ろ盾も必要ですが、知識と魔力が強い武器になります。ディアナの魔力ならとても強い武器になるでしょう。そしてその魔力は、私たち貴族でなければ使い方を教える事ができません。」
「自分自身を守る力…。」
「お父さん。わたし、勉強したい。魔力を使えるようになりたい。ダメ?」
「俺の負けだよディアナ。娘をよろしくお願いします。」
頭を下げる父を見て、許可してくれた安堵と、父なりに色々考えてくれていたことに嬉しさが込み上げてくる。
そして、それ以上にとても心配してくれていた事に、申し訳なさで涙が出そうになったのは内緒だ。




