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「ありがちひろいんふらぐ…おもいだせ、わたし…」
そんな意味不明の言葉を放ち、倒れた少女。
アリス、5歳。現在地辺境孤児院。
前世はどこにでもいる女子大生。普通の家庭で育ち、普通の容姿、普通の私大に通い、友達も普通にいた。
しかし、周囲の人はこう呼んだ。
”ゲーマー”。
RPGからシミュレーション、パズルや恋愛など全てのジャンルに少しづつ手をつけ、ゲームのためにバイトをし、ゲームのせいで日々寝不足。当然、死因もゲームだ。
そんな彼女が、自身の転生を知ったのはつい先程のイベント。
”五歳になる全ての子どもて国の魔力検査を受けよ”
検査に使われる魔石を握ると、それはもう盛大に光った。
びっかびかだ、びっかびっか。虹色というおまけつきで。
「おうこうきぞくになんてなりたくないのに」
ぶつぶつごちるアリス、6歳。延々と王都行きの馬車に揺られている。
「アーリースーゥ、そんなことを言わないでおくれぇぇ」
「まぁ、アリスは私がお義母さんになるのは嫌でしたの、ごめんなさいね」
対面の男性はシュミラン・トレラント。厳つい顔をくしゃっとさせ涙ボロボロ。
隣に座る女性はシャクリーン・トレラント。扇で口元を隠し小首を傾げている。
「ううん、とっってもすてきなおとうさまおかあさまができたのはとっってもうれしい!でもけっこんいや」
「アーリースーゥ!こんなかわいい娘を嫁になんて出さんからな。よし、ずっと家にいなさい。おとうさまが守ってやるからな」
「あらあら、アリスってばおませさんね」
"とっっても"を強調してはいるが、アリスの本音だ。
ストーリー通りの末端伯爵穀潰しバカではなく有力有望トレラント侯爵家に養子に入れたのは僥倖だった。また出会ってすぐからくっそ甘い溺愛を受け続けている。
シュミラン、シャクリーン夫妻との出会いは最初のイベント後。"とにかくゲームがしたい病"にかかり、リバーシにテトリ○に双六、カルタ、花札、将棋と、とにかく紙で思い付くまま作ったところ大手商会から商品化の話が出た。その商会の最上級お得意様トレラント侯爵家がパトロンとなってくれ、即顔合わせ即養子。孤児院の領主である末端伯爵がのこのこやってきた時には、すでに侯爵籍入りしたアリスに手を出せず。
トレラント侯爵家について少し説明しておこう。
夫婦仲非常に良好。子どもが大好きだが残念なことに恵まれずそろそろ諦めて養子を、と考えていた矢先アリスのパトロンの話が。孤児でもある幼児が開発したというゲームは、頭の回転を良くするだけではなく字や算数を楽しく学べる効果があると見抜き驚く。魔力も豊富な金の卵は悪いモノに狙われると危惧し、即断即決即実行。まぁ、それが無くても「ありしゅでしゅ、よろしくおねまいしましゅ」と上目遣いでとにかくあざと……かわいいアリスには陥落しただろう。
アリス7歳。侯爵家領地侯爵家豪邸。
ボードゲーム事業は軌道に乗り、売れに売れまくっている。
アリスは必要以上のお金はいらない、と人に投資を始める。衣食住を用意することで浮浪者にとって働きやすい環境を作り積極的に雇用。一般向けで安価に提供したいカルタ、トランプ等は利益をあまり考えず孤児院を使う。
ジェ○ガにトレーディングカードゲームの新作はどちらも苦戦。多数を全く同じ規格で作る技術がないためだ。職人育成も加わった。
「アーリースーゥ」
「おとうさま、おかえりなさい!キャー、おひげがいたいのー」
「そ、そうか」
即日、たっぷりの髭が綺麗サッパリ無くなり若くなった養父。
溺愛っぷりは相変わらずだ。
10歳、転機。
思わぬ副産物が発生。金銭的収入も入り優秀な人材を輩出するようになった孤児院は国庫に頼らなくなり、街は浮浪者が激減し清潔さと治安が向上。
……王城からの呼び出し……
目立ちすぎてしまったのだ。アリスは自身のゲーム欲を満たすためだけに動いただけなのだが、侯爵家といえど王族には逆らえず。
「アリス、笑顔を見せちゃダメだよ、絶対に」
「おとうさま、どうして?ぶしつけだよ?」
「もうそんな難しい言葉を知ってるのか、アリスは偉いなぁ。でも大丈夫、アリスの笑顔で虜にしてしまうほうが心配なんだよ、とうさまは」
だからいつもの可愛いドレスではなく大人しめなドレスなのか、と思ったが、外見はそこそこ普通と自負していたアリス。腑に落ちないが大きく優しい手に従うことにする。
「良く顔を見せてくれた。そなたが例の娘か」
「陛下、例の、とはどういうことでしょう。可愛い娘に向かって、例の、とは如何なものでしょう」
「う、うむ……」
「嫌です」
「まだ何も言っておらんが」
「まだ、でしょう。手放しませんよ」
「しかし……」
「無駄です」
「あ……」
「では、御前失礼いたします」
凄いな、おとうさま。
遂にゲームブックも第一作が完成した。ふっはふっは興奮するぜぃ。ファンタジーな世界でファンタジーもどうかと思い、前世幕末が舞台。"ニンジャ"が流行語、”ソウジ””イサミ”が名前ランキング入りだろう。
また、弟が誕生。名前はリョウマ。突っ込み不要。
養父母には幸せになってほしい、と内臓パズルと保健体育の内容から治癒を試したところ、大成功。万が一放り出されても充分すぎるほどの財力もある。
しかし、アリスはこっそり試したつもりの治癒に、気付いていた養父母の溺愛は倍増し(当社比)。
侯爵家の後継ぎからの解放という目的ではない。決して。
「ふやぁぁぁ」
小さくて可愛い弟。優しい笑顔と涙に包まれる侯爵家。
13歳、すっかり忘れていたゲーム時間軸開始と同時に魔法学園に入学。
「アリスぅぅぅ、行かせるもんかぁ」
「もう、あなたってば。アリスにもお友達が必要よ」
「あぶぅ」
「お父様、お母様、だーいすき!行ってきます!」
あざとい?うるさいわ。
授業は余裕。ゲームブックの為に覚えまくった知識、見えない仮面をつければマナーもばっちり。
ゲーム欲が暴走しまくり、シミュレーション要素入りボードゲームに恋愛モノゲームブックと次々開発、ご子息ご令嬢のハートをごっそり鷲掴み。
「おい、婚約者」
「……その様な名前ではありませんし、お断りし続けているはずですが」
「そんなはずはない」
「事実です」
「次期王妃だぞ」
「なりたくありません」
「贅沢させてやる」
「自分で出来ますし、これ以上は不要です」
「ちょっとあなた、デルモント殿下に失礼でしてよ」
「事実しか申し上げておりません、アレキサンナ侯爵令嬢様。次作の執筆に忙しいので失礼させて頂きます」
金髪王子に縦ロール令嬢とのやり取りはほぼ毎日繰り返される。
15歳。
「お前との婚約を破棄する!」
天気の良い日の昼下がり、食堂で金髪王子とそれにベタベタまとわりつく縦ロール令嬢。
びしっと指指す先は……え、私ですか。そうですか。