3 戦いのあと
新章です。
セラクとビスタとの戦いから、一週間後。
晴れた日、屋上のコンクリートに寝転がり、雲が流れていくのをぼんやりと見つめていた。
「また、ここにいた」
屋上のドアが開き、赤茶色の髪を首の後ろで束ねたレクラスが、呆れた顔をして現われた。
「よう」
「よう、じゃないよ!なんで授業をサボるかな?」
「だって、いい天気なのに、教室にこもって勉強とか、もったいないだろう」
レクラスからまた青空に視線を向けて、目を瞑る。
「だからって、屋上で寝転んでいるだけなのも、もったいないんじゃないの?」
「わかってねぇなぁ。風と日差しを感じて寝転んでるのが、気持ちいいんだよ」
ため息が聞こえて、瞼をあげてレクラスを見た。
「でも結局、授業をサボっていることには変わりないよね」
「……」
正論で、返す言葉が見つからず身体を起こして座り直した。
「それで?お前までサボりか?」
レクラスはオレの横に腰を下ろし、同じように空を見上げた。
「ありがとう。キーラ」
「は?」
突然の言葉で、驚いてレクラスを凝視してしまった。
「お前がいてくれたから、俺は闇に飲み込まれて暴走することなく、セラクと向き合えた」
「レクラス……」
苦笑したレクラスは、寝転んで空を見上げる。
「国が滅んでから、ずっとセラクを憎んで生きていた。だけどあの日、セラクと戦って気持ちが知れたのは、暴走せずにセラクに向き合えたからだと思うんだ」
レクラスは、出会った頃からずっと己を責めて生きてきたのだろう。セラクとビスタを引き合わせ、そのせいで国が滅ぶ結果になってしまったことを、ずっと後悔していた。
「それはきっと、あの時キーラが俺が暴走しそうだったのを止めてくれたから」
「約束しただろ?お前が闇に飲まれそうになったら、オレが助けるって」
笑顔を向けると、レクラスもオレを見上げて笑った。
「あぁ。だからありがとう」
「おう」
笑い合って空を見上げる。
「それにしても、こうやって寝転んでると、眠たくなるなぁ」
大きくあくびをして、レクラスは言った。
「だろ?」
得意げになって言うと、背後から冷たい声が飛んできた。
「だろ?じゃない。お前ら授業はちゃんと受けろ」
「っ……!」
慌てて後ろを向くと、そこにはいつの間にかティアとミシダが立っていた。
「げっ!いつからそこに……」
急いで立ち上がり、数歩後ずさる。レクラスも気づかなかったらしく、身体を起こして固まっていた。
ミシダは額に手を当てて、ため息を吐き出した。
「ついさっきだが、お前らこんなところで何している?今は授業中のはずだが?それとも授業より修行のほうがいいか?」
ティアの冷たい視線に、背筋が凍る。
「そりゃ、授業のほうがいいけど、ティア達はどうしてここに?」
笑顔を引きつらせて問うと、ティアはいつもの無表情に戻り、手に持っていた花束を掲げた。
「花を、手向けに」
それを聞いたレクラスは一瞬、瞳を揺らして俯いたが、すぐに顔を上げ手のひらの上に、氷で花束を作った。
「じゃぁ、俺も」
屋上の一角。フェンスから1メートル離れた場所、そこは、ティアがセラクに剣で貫かれ倒れた場所であり、セラクの命がティアに引き継がれた場所。
ティアとレクラスは、それぞれの花束を地面に並べた。
しばらく無言で二人の背中を見つめていると、オレの隣にミシダが並んだ。
「最初に、私たちがここに来たときのこと、覚えてる?」
「覚えてる」
普段は授業をサボるなと言うレクラスが、あの日、オレを屋上に呼び出した。何事かと思うと、レクラスに連れられて現われたのが、ティアとミシダだった。
「あの時、本当はお礼を言いにきたの」
「お礼?なんで」
首を傾げてミシダを見ると、ミシダはレクラスの背中を見つめていた。
「あなたと出会って、レクラスは恨みだけじゃ何も守れないって気づいたの。だから力を制御できるようになった。でも感情のコントロールは今も不安定だけどね」
笑顔で、ミシダは言った。
「レクラスに感情を思い出させてくれて、ありがとう」
「それは、こっちも、ですよ。オレもレクラスと出会って、喧嘩して負けて、命がある幸せを思い出させてくれた」
ミシダと笑い合うと、レクラスの不思議そうな顔と目が合った。
「二人で何の話してるの?」
「レクラスが可愛いって話よ」
含み笑いをしながらミシダが言った言葉に、レクラスは首まで赤くなった。
「はぁっ!?」
慌てるレクラスは、確かに可愛いなぁと思っていると、ミシダとレクラスの言い合いを呆れた顔で見上げていたティアと目が合った。
苦笑を浮かべると、ティアはため息を吐いて首を横に振った。
その後、結局授業をサボって、レクラスと二人で教師に怒られたのは、言うまでもない。
放課後、一人きりの教室で帰り支度をしていると、右手首につけている、小ぶりの天然石で作られたブレスレットから鈴のような音が聞こえた。
ブレスレットは、父の形見。その、それぞれの色の石に、四人の精霊が宿っている。
そして、左手の中指には金色の指輪が嵌っている。
次期精霊王の証である指輪は、他の人には見えないのだそうだ。何故ならそれは、精霊達の祖、セヴィアの力の結晶だからだと、ティアが言っていた。
ブレスレットに視線を向ける前に、付近に誰もいないのを確認してから、ブレスレットに触れた。
一瞬眩い光に目を細めるが、目の前に並んだ四人を見て、笑みを浮かべた。
「何かあったのか?」
赤、青、黄、緑の髪をした、四人の男の精霊は、死んだ父、ラシャンク・リズラスと契約を結んでいる。
オレ、キーラ・リズラスを守るようにと。それ以後、彼らはずっとオレを守ってくれている。
「先ほど、セヴィア様より伝令がありました」
黄色の髪の精霊、ビシードが言った。
「そっか。用件は?」
「コルト様が力を取り戻され、精霊王に就任されるそうです」
「ほんとにっ!?」
コルトとは、オレを産んでくれた母親であり、精霊だ。
オレは、精霊と人間の間に生まれた、ハーフなのだという。
「それで、戴冠式にキーラ様も出席して欲しい、とのことですが……」
「え、オレ、精霊界に行けるの?」
「本来は難しいですが、今回はセヴィア様からの招待なので、問題ないかと」
「ただし、その指輪のことは他言無用。それとお前の出自についても、誰にも知られるな」
青い髪の精霊、アイソトープが言った。
「加えて、あの三人にも出席するようにとのことです」
赤い髪の精霊、ベンプルがアイソトープを睨みながら言った。
「あの三人って、レクラス達?」
「そうです」
「なんで?」
疑問符を三つほど頭に浮かべて、ベンプルを見る。
「コルト様からの、あなたを守っていてくれたお礼、だそうですよ?」
ビシードが苦笑しながら言った。
「そっか。それで、その、戴冠式っていつやるんだ?」
「明日の夜です」
「あした!?」
一週間くらい余裕があるのかと思っていたら、かなり急だったのに驚いた。
「そんな、ちゃんとしたスーツなんて持ってないぞ?」
焦って言うと、アイソトープがため息を吐きながら言った。
「服はこっちで用意する。お前は式の最中、寝ないように気をつけていればいい」
貶しているのか安心させようとしているのか、アイソトープは不器用なのだ。
だけど、オレを心配してくれているのはわかるから、苦笑して頷いた。
次回、精霊界にいきます。たぶん(汗)




