博愛主義者
長老が帰った後、ケイは虹色の水晶を手に嬉しそうだった。
「あんたがわからん……」
と、ロイ。
別に覗くつもりはなかった。
ケイの具合が気になり様子を見に来たつもりが、長老とのやり取りを見てしまった。
「最高だよ。あの長老が最高位になれるかもしれない期待と、死の恐怖を味わいながら、この水晶を見つけたんだろう。こんな興奮することはないよ」
「……真性サドが」
ロイは毒づく。
「最高だよ、長老、かわいいよ、興奮するよ……」
うっとりした表情のケイ。
これが長老に暗殺されかけた人物のセリフだろうか。
正直、ロイは長老には不信感がある。だがその長老ですらケイにとってはかわいいのか……
博愛主義で残忍――それがこのケイという男なんだと、ロイは改めてそう思った。
そのぐらいの広くて深い器の持ち主じゃなきゃ、ルウ族の最高位なんて務まらないのかもしれない。
* * *
その日、ロイ――紫水晶の環境維持ロボがせっせと泉の水の浄化作業に当たっていた。
「ちょっと待って」
とロボットを呼び止めたのは、五番隊隊長のランズ・ルカーだ。
「いつもいつもありがとう」
ランズは収穫作業に精を出していた。
手を止め、膝まずきロボットに祈りを捧げている。
そして……
「うちの畑で収穫した大根。お供えです」
ルウの地では、大根が収穫される。
ランズは、ロボに収穫した大根を紐で結わえ付けた。
大量の大根を紐で括りつけたロボは不格好だったが、ロイは少し誇らしかった。
紫水晶のロボはそのまま中央の神殿へと向かった。
慕ってくれる民もいるのがわかって、少しは胸のもやもやが取れた気分だった――
終
読んでいただきありがとうございました。令和元年五月一日。