夕暮れの訪問-1-
ふと、キョウの家のドアが開いた。
「見回り、ご苦労様」
と顔を出したのはキョウだった。
「あ、ガイル。久しぶり」
その姿にガイルはぎょっとした。
金色のあざやかな髪は、彩りのない死んだような灰色に変わっていた。
「なんか、こっちのガイルに会うのは久しぶり」
キョウはガイルに近寄ってくる。
「もう一人のガイルとはよく会ってるのに」
もう一人のガイル――レファイ家に雇われた異世界からやってきたとかいう胡散臭い魔導士クスナ・ク・ガイルのことだ。
最近、よくそのクスナ・ク・ガイルとつるんでるらしいというのはそれとなく部下から聞いていた。
「体調は大丈夫なのか?」
とガイルが尋ねると、キョウは笑顔で「うん」と答える。
「そういうガイルこそ、なんか顔色悪くない?」
「あ……あぁ、そうか?」
顔色が悪く見えたのは体調のせいではなく、キョウの変化に驚いたからだ。
「髪? 切られたんだっけな」
ファウを誘拐したのは男で、キョウの髪を切ったという。
大勢の兵士たちをものともせず次々と倒し、女を攫い、その目的が男の髪の毛。
――とんでもなく強くて恐ろしい変質者だ。
ガイルはそう思っていた。
「まあ、この髪は自分で切ったんだけどね。もう終わったことだし、その話はいいよ」
キョウはあまりその話題に触れたくないようだ。
ガイルは、そんなキョウに違和感を感じていた。
幼馴染でもある。
キョウの姿に何かが足りないような気がしていた。
「まあ、立ち話もなんだし、中にどうぞ」
キョウは玄関の中へと招く。
「休憩がてら、お茶でも飲んで行けば? 部下さんもどうぞ」
* * *
「なんか、美味そうなにおいがするな」
出されたお茶を飲みながら、ガイルはそんなことを言った。
「ああ、さっき、クッキー焼いてたんだ」
と、キョウ。
「どこの女子だ」
ガイルのつぶやきにキョウは苦笑いした。
「父さんの鍛冶作業場、利用しない手はないだろ」
と、キョウは奥からクッキーを持ってきた。