エピローグ
エピローグ
私は妖かしとなる前の姿に戻り、二宮瑠樺と名乗った少女の手のなかにいた。
その温もりで私を包んでくれている。
「警察には?」
「通報済です。すぐに彼女の遺体は発見されるでしょう。あの男も、手を貸した両親も逮捕されますよ。それより強制排除しなくて良かったのですか?」
「どうして?」
「人に害を為す妖かしは強制浄化することになっていましたので」
「人に害を? あれはただ恋する人に会いたいという主人の願いに従っただけよ。殺されてから半年間、毎日のようにあのアパートに通い続けるなんて……。蓮華さんはどう思いますか? 強制浄化するべきと?」
瑠樺が私を手のなかで抱きしめながらそっと言う。
「いいえ、あれはあの男が悪いのですから。ただ、彼女、結局、最後まで騙されていたことを自覚出来なかったみたいですね」
蓮華と呼ばれた女性が答える。
「殺されたことを思い出すのは辛かったでしょうね」
「好きになった男に殺されたのは確かにショックだったと思います。けれど、殺されたことを隠すことは出来ませんよ」
「それでも小百合さんはあの人のことを好きだったのよ」
「あんなクズのような奴、ちゃんと殺されたことを理解してその感情を捨てたほうが良いに決まってます」
「蓮華さんらしい考え方ね」
「間違ってますか?」
「いいえ、ただ、魂となってまで人を憎んだりするのは違うような気がする。私なら、ただ、安らぎを持って逝きたいと思って。それにこの世のことはこの世の人たちが解決してくれるじゃないですか」
「それも否定はしませんが。死んだ後までも、あんな男が好きだなんて、ちょっとかわいそうに思えますね」
それならきっと大丈夫……と私は小さく声をかける。
――アレルギーなんだよね
彼がそう言っていたから主は私のことを隠していた。けれど、あんなふうに腰を抜かして怖がる姿を見て、きっと主も気持ちは変わっただろう。
それよりも、彼女たちは知っているのだろうか。あの男たちを狙っているいくつも目が光っていることを。
私はあの部屋で主と同じように恋をした。
天井裏に潜んでいた野ネズミ。そして、妖かしとなった私の肉体は土の中で子供たちを産んだ。その子供たちが私の敵を討つために、今、あの男を狙っている。今までは私の主の思いを汲んでいてくれていたようだが、もう待つことはしないだろう。
そんな私の心が理解出来るのかどうかはわからないが、瑠樺はそっと手の中にいる私を覗き込み――
「一緒に行こう」
そう言って私の頭を撫でた。
了