7 本当の私
「水田小百合さん、それが今のあなたの姿です」
ハッとして振り返る。
その声の主はここに来る途中の電車であった女子高生だった。
「どうしてあなたが?」
「私は二宮瑠樺と言います。あなたを助けるためにあなたを待っていました。途中、逃げられちゃったけど」
「何のために?」
「あなたが真実を知るために。いえ、あなたが真実を受け止めるために」
「何を言っているの?」
「本当はここに来るまでにあなたに気づいて欲しかったんです。でも、それはさすがに無理だったみたいです。だから、ここで全てを終わらせなければいけないんです。ずっと続いてきたこの不幸を」
「わからない。わからないわ。私はターくんに会いたかっただけよ」
「あなたが彼に最初に会ったのはいつですか?」
「今日よ。たった今」
そう答えながら私は戸惑い始めていた。
「違います。あなたは半年前に彼に会っています。あなたが家を出たのは半年前――」
「嘘よ。私がここに来たのは今日が初めてよ。その途中に……電車であなたに会ったのよ。あなただって見たでしょ」
「そうですね。でも、あなたが初めてあの電車に乗ったのは半年前のことです。けれど、あなたはそれを忘れてる。それを忘れて、もう一度、彼に出会うところからやり直そうとしている。あなたは毎日のようにそれを繰り返しているんです」
「やめて……」
私はその場に蹲る。頭が痛い。私は助けを求めて彼に手を伸ばす。「助けて……ターくん」
「何なんだよ? おまえは誰なんだ?」
彼は悲鳴に似た声を出した。
「あなたは黙っててください」
そう言うと、彼女は左手をターくんのほうへと差し出した。途端に電流に弾かれたように彼がその場にガクリと崩れ落ちる。
「ターくんに何をしたの?」
「ちょっと眠ってもらっただけです。そんなに心配ですか?」
「私の大切な人だから」
「あなたを殺した人ですよ」
「え? 殺した? 私を?」
「あなたはもう死んでいるんです」
「嘘よ……そんなこと……嘘よ」
「今のあなたはあなたじゃない。小百合さんは死に、あなたはその小百合さんの魂を受け継いだ。あなたは――」
「止めて!」
思わず私は叫んだ。
それを聞いたらすべてが終わる。
頭が痛い。
「鼠です」
その言葉にビリリと体に電流が走る。
「ね……ねずみ?」
「そう。あなたは小百合さんが飼っていたハツカネズミ。小百合さんがポケットの中に入れて連れてきたんです」
「ち……ちが……」
違う……そう言いたかったが、その言葉は出なかった。
「目をそらなさいで」
「来ないで……来ないで」
私はその場にいられず、彼女の脇をすり抜けて部屋から出ようとドアに飛びついた。
だが――
バチリと体が弾き飛ばされる。
「無駄よ。結界が貼られているから逃げられないわ」
いつの間にかドアの前に一人の女性が立ちふさがっている。それはここまで案内してくれたメガネをかけた女性だった。
「どうしてこんなことするの? どうして私は彼に会いたいだけなのに」
「違うわ。それを願っていたのはあなたじゃない。それを願い続けてもあなたは幸せにはなれない」
二宮瑠樺がそっと震える私に近づいてきた。
「私をどうするつもり?」
「大丈夫。何も怖くないわ。あなたを浄化してあげるだけ。私に任せて」
彼女は私に向かって右手を差し出す。
再び一枚の羽が私の目の前を舞う。
記憶が蘇ってくる。




