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奥州妖かし奇譚・恋鼠  作者: けせらせら
7/9

7 本当の私

「水田小百合さん、それが今のあなたの姿です」

 ハッとして振り返る。

 その声の主はここに来る途中の電車であった女子高生だった。

「どうしてあなたが?」

「私は二宮瑠樺と言います。あなたを助けるためにあなたを待っていました。途中、逃げられちゃったけど」

「何のために?」

「あなたが真実を知るために。いえ、あなたが真実を受け止めるために」

「何を言っているの?」

「本当はここに来るまでにあなたに気づいて欲しかったんです。でも、それはさすがに無理だったみたいです。だから、ここで全てを終わらせなければいけないんです。ずっと続いてきたこの不幸を」

「わからない。わからないわ。私はターくんに会いたかっただけよ」

「あなたが彼に最初に会ったのはいつですか?」

「今日よ。たった今」

 そう答えながら私は戸惑い始めていた。

「違います。あなたは半年前に彼に会っています。あなたが家を出たのは半年前――」

「嘘よ。私がここに来たのは今日が初めてよ。その途中に……電車であなたに会ったのよ。あなただって見たでしょ」

「そうですね。でも、あなたが初めてあの電車に乗ったのは半年前のことです。けれど、あなたはそれを忘れてる。それを忘れて、もう一度、彼に出会うところからやり直そうとしている。あなたは毎日のようにそれを繰り返しているんです」

「やめて……」

 私はその場に蹲る。頭が痛い。私は助けを求めて彼に手を伸ばす。「助けて……ターくん」

「何なんだよ? おまえは誰なんだ?」

 彼は悲鳴に似た声を出した。

「あなたは黙っててください」

 そう言うと、彼女は左手をターくんのほうへと差し出した。途端に電流に弾かれたように彼がその場にガクリと崩れ落ちる。

「ターくんに何をしたの?」

「ちょっと眠ってもらっただけです。そんなに心配ですか?」

「私の大切な人だから」

「あなたを殺した人ですよ」

「え? 殺した? 私を?」

「あなたはもう死んでいるんです」

「嘘よ……そんなこと……嘘よ」

「今のあなたはあなたじゃない。小百合さんは死に、あなたはその小百合さんの魂を受け継いだ。あなたは――」

「止めて!」

 思わず私は叫んだ。

 それを聞いたらすべてが終わる。

 頭が痛い。

「鼠です」

 その言葉にビリリと体に電流が走る。

「ね……ねずみ?」

「そう。あなたは小百合さんが飼っていたハツカネズミ。小百合さんがポケットの中に入れて連れてきたんです」

「ち……ちが……」

 違う……そう言いたかったが、その言葉は出なかった。

「目をそらなさいで」

「来ないで……来ないで」

 私はその場にいられず、彼女の脇をすり抜けて部屋から出ようとドアに飛びついた。

 だが――

 バチリと体が弾き飛ばされる。

「無駄よ。結界が貼られているから逃げられないわ」

 いつの間にかドアの前に一人の女性が立ちふさがっている。それはここまで案内してくれたメガネをかけた女性だった。

「どうしてこんなことするの? どうして私は彼に会いたいだけなのに」

「違うわ。それを願っていたのはあなたじゃない。それを願い続けてもあなたは幸せにはなれない」

 二宮瑠樺がそっと震える私に近づいてきた。

「私をどうするつもり?」

「大丈夫。何も怖くないわ。あなたを浄化してあげるだけ。私に任せて」

 彼女は私に向かって右手を差し出す。

 再び一枚の羽が私の目の前を舞う。

 記憶が蘇ってくる。


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