5 青い屋根の家
私と彼女はタクシーに乗って街外れまでやってきた。
彼女は車内では何も喋ろうとはしなかった。電車で会った女子高生のようにいろいろ聞かれるかもしれないと身構えていた私は少しホッとしていた。むしろタクシーの運転手が彼女へ話しかけていたが、彼女はほとんど相手にしようとはしなかった。
それでもなぜだか彼女は電車の中で会った女子高生と同じタイプの人のように思えた。
タクシーは周囲に何もないような場所で止まった。周りは畑なのか田んぼなのか、ほとんど雪に覆われていてわからない。
(こんなところ?)
タクシーを降りると、後から降りてきた彼女は少し先に見える青い屋根の家を指さした。
「あそこですよ」
雪一面のなか、雑木林の中に一軒だけポツンと平屋建ての家が建っているのが見えた。
なぜ、彼女がターくんの引越し先を知っているのか、それはわからなかった。そんなことよりも少しでも早く彼に会うことのほうが私にとっては大切なことだった。
私はお礼もそこそこで教えられた家へ向かって歩き出した。
雪に足が取られて歩き辛い。それでも、私の心は弾んでいる。
既に周囲は暗くなり、家の中には明かりが灯っている。
私は玄関に辿り着くと、迷うことなくインターホンのチャイムを押した。
すぐにドアが開き、彼のお母さんが顔を出す。
一瞬、ギョッと驚いたような顔で私を見つめた。
「あ……あなたは……」
「私、水田小百合と言います」
「そう……ですか」
彼女は私の顔をまともに見ようとしない。少し青ざめたような顔をして、目を伏目がちにしている。急に知らない若い女性が訪ねてきたのだから驚いても仕方ないかもしれない。
でも、それは私にとっては都合の良いものだった。
家出をしてきたなんて聞いたら、いくらターくんのお母さんだとしてもいい顔はしないだろう。
「ターくん……あ、いえ、達也君いらっしゃいますか?」
「え、ええ……」
「上がっていいですか?」
「いや、達也は外です」
「外?」
「すぐ隣にプレハブが建っているでしょ。達也はそこに」
確かにすぐ家の隣に小さなプレハブが建っている。
「わかりました。ありがとうございます」
私が頭を下げるとすぐにドアがすごい勢いで閉まり、その向こう側でバタンと何かが倒れるような音が聞こえた。