4 冷たい風のなかで
小さな駅の小さな待合室には誰の姿も見えなかった。
窓口から、駅員さんが事務室の奥でのんびりとお茶を飲んでいるのが見える。
振り返って、彼女が追いかけて来ていないことを確認してから私はホッと息をついた。
今日は彼に会う大切な日、誰にも邪魔されたくない。
駅舎を出ると、さらに雪は強く降っていた。その雪を見ただけで体が冷えてくる感覚に襲われ、私は思わず肩をすぼめた。
私は駅前からバスに乗り、彼のアパートへと向かう。
バスの中も乗客はまばらだ。
わずか20分、バスを降りると、すぐ眼の前に見慣れた2階建てのアパートが見えた。
彼の住むアパートだ。
少しくすんだクリーム色のアパートの壁に『コーポ橘』という文字が見える。
私ははやる気持ちをおさえながら、アパートへ近づいていき、1階の一番奥の部屋のドアの前に立つ。
大きく息を吸いこんでから、私はドア横のチャイムを押した。
部屋にチャイムの音が響く。けれど、反応はない。もう一度、押してみるがやはり反応はなかった。
その後、何度チャイムを押しても誰も出てこない。
冷たい風に包まれて、体が冷えてくる。
(おかしいな)
私は小さく足踏みをしながら首を撚る。
すると――
「そちらの部屋、空き家ですよ」
背後からの声に私は体をビクリと震わせた。一瞬、電車の中で会った女子高生が追いかけてきたのかと思ったが、それは違っていた。振り返るとそこに一人の若い女性が立っている。銀縁眼鏡をかけた知的な顔をした若い女性。
「空き家? そんなはずないんですけど」
私は彼女に携帯に書かれた住所を見せる。「これってここですよね」
「そうですね。そういえば引っ越したって聞きました」
「引っ越した?」
愕然として足が震えそうになる。
「私、引っ越し先、知ってますよ」
「本当ですか?」
「案内しましょうか?」
「お願いします」
私は深々と頭を下げた。