2 出会い
家出なんて初めてのことだ。
いや、それどころか親に逆らったことだってどのくらいあっただろう。
――小百合ちゃんは良い子ね。
子供の頃から何度も聞かされた言葉。
その評価はきっと間違っていない。両親の願いどおりに行動することは、私にとって決して苦に感じるものではなかった。
でも、それは本当の私じゃない。
良い子でいるのは、それ以上になりたい自分がいないから。だから、良い子でいるしかなかった。
だけど、今はもう違う。
良い子じゃないけど、その自分が誇らしい。だって、それは何よりも大切なものを見つけた私なのだから。
そう、何よりも大切な人。
無意識のうちにポケットの中を探る。だが、そこには何もいない。いつも大切な何かがそこにあったように思えたからだ。自分が何を探しているのかわからず、私は首を捻った。
彼に会えることに興奮しているのかもしれない。
携帯電話を操作して、これまで彼から届いたメールを読んでいく。
何よりも幸せな時間。
電車が動き出して、5分もたたないうちに電車が止まる。
小さな無人駅の看板が窓から見える。
ほとんど誰も席を立とうとはしない。
一つのドアが開いて一人の若い女の子が入ってくるのが見えた。同時に冷たい風が吹き込んでくる。あれは地元の女子高生だろうか。毛糸の帽子を被り、ベージュのハーフコート、襟元にはしっかりとマフラーが巻かれている。彼女は扉を閉めてから、まるで友達を探すかのように電車内を見回している。
私は再び窓の外へと視線を向けようとした。彼女は私とは無関係の人間で、二人の物語などはじまるはずもないのだから。
電車が再び小さく揺れながら走り出す。
だが、彼女はゆっくりと通路を歩いてくると――
「ここ、いいですか?」
そう声をかけてきた。
「え? ……ええ」
私は戸惑いながら答えた。
彼女は小さく頭を下げてから私の前の席に腰を下ろした。
まだ車内はガラガラで多くの席が空いている。それなのになぜ、彼女は私のところまでやってきたのだろう。
可愛らしい女の子。少し幼く見えるけど、きっと男性の目から見ればこういう守りたくなる女の子っていうのはきっとモテるんだろうな……なんて思いながらも、すぐに視線を窓の外へと戻そうとする。
すると――
彼女はにこやかに言った。
「ご旅行ですか?」