1 彼のもとへ
奥州妖かし奇譚 恋鼠
新幹線を降りてから、いつものように電車に乗りかえる。
宮城県北部、中山郷行きの電車は一両編成にも関わらず、乗客はまばらで席は空席だらけだ。
私はボックス席の一つに座り、すぐに窓の外を眺める。
薄っすらと雪が積もり、世界を白く染めている。
その景色を見て、私はホッとする。
東京で生まれ、東京で育った私なのにその景色にどこか懐かしさを感じる。きっと私の心がこの街を望んでいるんだ。
この電車が向かう先に『ターくん』がいる。
私が彼と知り合ったのはつい一ヶ月前のことだ。
高校2年の春、SNSの仲間募集サイトでの私の書き込みに彼がコメントをくれたのがきっかけだった。他にも多くの男性からの書き込みがあった中で、私は彼のものに引き寄せられた。それがターくんのものだった。
ネット上とはいえ、男性から声をかけられたことに私は緊張していた。それでも何度かメッセージのやり取りを続けるうちに、私は徐々に彼に心を開いていった。
私は彼に悩み事を打ち明けた。
話の合わない友達のこと、仕事人間で帰ってこない父親のこと、不倫ドラマに心を奪われている母親のこと。
彼は私の話を真剣に聞いてくれた。
そして――
――僕のところにおいでよ。こっちは今、桜が綺麗だよ。
冗談めいたその言葉に私はときめいた。
「それって下心ミエミエだよね」
私の話を聞いて、友達はそう笑った。
それでも良かった。
彼に下心があったとしても、私にとって彼の存在は既に特別なものになっていた。
彼に会いたい。
私の思いは日々、強くなっていった。
もちろん、それを両親に話すことなど出来るはずもない。ただ反対されるだけ。そして、彼と連絡を取ることも邪魔されることだろう。
私は誰にも告げず、家を出た。