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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

私は私ー最期の音楽室ー

作者: 村川葵

私の名前は、二井芳江。38歳。職業、小学校の音楽教師。旦那は、画家。娘が二人。この日は、私が勤める、深志野小学校の卒業式。ああ、この後、卒業アルバムの写真撮影か。疲れ、あり。私は黒いブーツを履き、緑色のワンピースで撮影に臨む。職員室で、缶コーヒーを飲む。私の同僚、しつこく、私に声をかけ、口説いてくる、平野という、スパルタ教師に、こう、言われた。

「二井先生、今日もおきれいですね。そのワンピース、すごく、素敵ですよ」

「ああ、ありがとうございます」

正直、鬱陶しい。この、煙草臭い、この平野という名の狂った男。金八の影響が強いと口癖のように何度も繰り返す、平野。私は、トイレで小便を済まし、写真撮影の場所、校門の前へと、とぼとぼと歩く。


「さあ、先生方、撮りますよ。はい、カメラを優しく見てください」

カメラマンにこう言われ、優しく、少し気だるく、カメラを見た。

約十分で撮影終了。私も私で煙草に火を点けた。そして、卒業式の会場、体育館にゆったりと向かった。その時だった。

「二井先生、撮影が終わりましたね。今日のワンピース、すごくお似合いですわ。私も二井で嬉しいです」

私が、私の前に立っていた。えっ何。どうしたんだ、意味がわからない。

「あなた、誰ですか」

私は私に言ってみた。どういうこと。ほんとにどういうことなんだ。

「だから、私、二井芳江です。あなたであって、私はあなたです。二井先生。音楽室へ行きましょう。今日はめでたい卒業式だから、二井先生の皆さんがたくさん、お集まりですよ。さあ、私、二井と手を繋いで音楽室で女子会、しましょう。二井先生しか、そこには存在しませんわ」

「あの」

「はい。どうされました。二井先生」

「あの、あなたは私なんですよね」

「はい。音楽室には二井先生がわんさか、いますよ。それもあなたです」


私は、もう一人の私に手を握られ、汗だくになって、音楽室へと走った。私は、二井芳江。音楽室の扉を開けると、すごかった。私が、40人ほど、音楽室に所狭しと、おそろいの緑のワンピースを着て、ワインを飲んでいる。

「二井先生。おきれいですわ」

「二井先生もです。私も二井で最高だわ」

「二井先生。待ってましたよ。卒業式は、さぼりましょう。ここで、二井の皆で、飲みましょう。さあ、二井先生が大好きな、赤ワインですよ。二井先生、さあ、お疲れ様でした」

まあ、いいか。私は40人の私達と、酔いつぶれた。そのうち、一人の二井先生がピアノを弾き始めた。


飲んだ。飲んだ。楽しかったよ。二井のみんな。私に、語り掛ける、二人の二井先生。声が響き。。。

「この後、遊園地に行きませんか。絶対、楽しいわよ」

「遊園地ですか。久々に行ってないよね。行きましょう」


私、音楽教師。二井芳江。

遊園地にはおそろいの緑色のワンピースを着こなす、私たちが、楽しんでいた。

酔った私。

二井芳江は、二井芳江にキスをした。


もう、何もかも終わった、私しか存在しない、この惑星で。

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