STATION VIII ~彼女において~
道路に倒れている蝉をよく見かけます。生死の判別が難しい。
リライドも加わったことで僕等の進行ペースは大幅に上がった。よく疲れてくるとシノンが乗っているのだけれど、一応僕を慕っているんだけどなあ、と思ってしまう。
「すごいわ、この子50kmも出るのね!」
すっかり乗りこなしているようだ。というか、そんなに出したら危ないよ。
(私は最高時速350kmを出せるよう設計されておりますゆえ)
もう高速道路でも捕まるレヴェルじゃん。
「へぇ、時速350kmっていうのがイマイチ分らないが結構速いんだな、それ」
「ええ、この子に乗ると風がブュウッと吹き抜けて、とても気持ちいいわ」
「いいなぁ、まったく。ここは暑いからなぁ」
「ホントに、核融合がお盛んのようね、太陽は」
「え、そんなに暑いかなぁ?」
「「えッ?」」
「あなた南国の出身?そうは見えないのだけれど」
リライドの液晶ディスプレイには、気温30℃、湿度23.1%と表示されている。確かに、涼しくはないけれど、とりたてて暑いと思うほどではない。
「う~ん、僕のいた時代は、夏は35℃を超える日も珍しくはなかったからなあ」
「「ええッ!?」」 「「35℃ぉ!!」」
「そんなのハーゲンダッツが一瞬で溶けちゃうじゃないッ!」
「パソコン絶対耐えられないだろ!」
「いや、涼しい部屋で食べればいいし、ていうか何でイデアはパソコン知ってんの!」
そう言ったせいで、少し暑くなった気が…
時刻は11時42分を指している、そろそろお昼にしようかという頃だ。シノンは“暑いから”と言っているが、どうやら影の中だけ歩くゲームにハマってしまったらしい。まぁ僕は、白線だけ歩くゲームのほうが好きなんだけれど。
「ねぇ、神様なら何か神通力見せてよ。雨を降らせるとかさ」
「いや、俺は今能力のほぼ全てを出せない状態にあるんだ。だから、はっきり言って普通の人間と大差ない」
「ふぅん」
とは言っても、やはりあの変な鎖に繋がれていても生きていたということは神の力が完全に封じられているわけではないのだろう。
「ここら辺だいぶ激しい戦闘があったんだな。何だか初めて会った偽物の楽園を思い出すな」
「いや、こっちの方が無害なぶん万倍マシだろ」
「ま、そうだね」
この辺りは珍しく戦闘の跡が目に見える形で残っていた。倒壊した建物を見ると、確かにこの世界から人間がソックリ逃げ出したわけじゃないことが感じられた。まあ、歩く分にはコンクリートから飛び出た鉄骨に引っかからないことを気を付ければいい程度で、粉塵立ち込めているという程ではなかった。
「え~ホントに何も出来ないの? ビームとか出してよ。こう、ビュバッ とさ」
「ははっ、出来ないって。ほら」
そう言って手をかざした直後に、地面が砕け散った。
「なぁんだ、出来んじゃん」
「い、いやっ、俺じゃ」
何かが近づく音がする。
「逃げてッ」
シノンの声がした直後、瓦礫の中から5体のロボットが出てきた。 はぁ、訂正まったくここも無害なんかじゃなかったよ。
ロボット達を倒そうと前に出た瞬間、身体が張り裂けんばかり痛んだ。何らかのシグナルか?いや、これがそのイオン化パルスなのだろうか?
直後また何かが崩れる音がした。ロボットの一体が放った攻撃が建物に当たったのだ。まずい、瓦礫がッ、
シノンに大きなコンクリート片が落ちる前に何とか間に合った。だが、これをいつまで支えていられるだろうか。骨がきしむ、長くはもたない。この状態で次の攻撃を受ければシノンもろとも死ぬ。せめて、シノンだけでも逃がしたいが外に出ても同じか。だが、突如ロボット達也は俺たちを背にし、集まっていく。まさか、アイツ
俺ははまた、たった一人で戦うのか。一人だと思えばそうだが、そうでないと思えば味方はいたことになる。そう、俺は最初から拒んでなどいなかった、むしろ嬉々として受け入れている。
「リハビリするには丁度いい」
ロボットアームをコンクリートの残骸で殴りつけ、なるべくケープ達に注意がいかないようにする。だが、酷いもんだ。こんな木偶にいいようにやられるとは。何とかケープ達を守ろうと思ったが、奴らの眼に見えない攻撃と鋼鉄のボディには歯が立たなかった。だが、ズタボロになりながらも少しづつ戦闘の勘を思い出してきた、あと一歩、もうあと一歩で、
駄目だ、イデアがこのままじゃ殺される。何とか一体だけでも動きを止められないか…しかし直後ロボット達は一堂に攻撃の構えをした。上下左右、全方位からアレを放つ気だ。強力な振動兵器による攻撃がなされる直前、彼は微かにほほ笑んだ。まるで“まあ見てろ”と言わんばかりに。髪が陽光を真っ白に反射し、瞳が紅く染まる。そして、瞳に映るギアが確かに、ガキンッと音を立てて一段階上がった。輝きを増しながら…
イデアには攻撃は命中した、それは白日の下にさらすことの出来るものだ。だが、イデアはそれらを意に介さずにこちらへ向かってきた。軽々とコンクリートブロックをどけ、俺たちを出してくれた。
「悪いな、重かったろ」
「ああ、大丈夫だよ」
「そうか」
身体が引き締まり、髪や眼の色が変わっても、笑顔を見ればやっぱりそうだと安心した。
「振動が何たるかを見せてやる」
ちらりと振り返り、消えたかと思う程の速度で掌を突き出した。そこから幾重もの衝撃波がギアを模り繰り出された。それはロボットの一体に逃げる考えすら起こさせぬまま直撃し、爆発四散させた。残骸が四方に飛び散り、残りのロボット全てに当たり、一掃した。
「本当に助かったよ、ありがとう」
「あなたがいなければ死んでいたわ、感謝してもしきれない」
「ああ、大したことはない。それより、リライドは無事だったのか?」
「うん、あのロボットは人間しか襲わないみたいだったから」
「そうか、良かった」
「流石は神様ね」
「いや、まだ本領の半分も出せていないな。まあ、月並みな台詞だけど、俺がいる限りはお前らは絶対死なせない!…神に誓ってもいい」
ニヤリッと笑うと元の姿に戻ってしまった。やはり完全に能力を取り戻せたわけではなさそうだ。
心強い仲間がいて安堵する反面、僕のポジションが危うくなる気がしてちょっとモヤモヤする次第…
ちょっとでも足が動いていたら木につけてやります。まあ自己満足がしたいだけなんですけどね…