STATION VII ~風物詩~
夏休み中、道で友達と会うとテンション上がりますよね。
アスファルトに引かれた白線…は無いけれど、地面からの反射光が眩しい正午前、僕等は北東へ歩いていた。
「なあ、本当に何であんなところにいたの?」
昨晩助けた男は、少し難しい顔をしてから、こちらに視線を向ける。
「ん~、まぁ。信じられないかもしれないけど、俺は“神なんだ”」
「見たところまだ大丈夫」
「大丈夫ってどういう?」
「あなたの毛量は至って少なくないということ」
「“髪ないんだ”て言ったわけじゃないから、難聴芸やめてくれるぅ」
シノンって案外お惚けちゃん?
えほんっ、と咳をついてから、再び
「俺は“神”なんだ。神話の神と書いてカミと呼ぶ」
「それで、何で神様があんな場所に鎖でグルグル巻きにされてたの」
「追放されたんだよ、“楽園”を」
「「楽園!?」」
「あの本当の楽園を知ってるて言ってたこと?」
「そう、俺はそこに住んでいた。だが、戦争に負けてああなったんだ」
「戦争、へぇ~神様もやっぱり争いをするんだ」
「神様なんて大層なものじゃない。俺たちはこの宇宙を取り囲む一つ外の箱にいるだけ。言わば宇宙の調整人ってとこなんだ」
「何で戦争を」
「妹を守ろうとしたんだ」
「妹?」
「俺達は物心つく前に親は死に、遠方の親戚に引き取られることになったんだ。たった一人の妹を連れて乗った雲のは北へ向かった。あの時の吹雪の寒さだけは今でも憶えてる」
「それで北に」
「うん。そして、親戚のもとにたどり着き幾年か過ぎた。そこでの寒さは厳かった、妹が14歳の時、あいつは病気になってしまった。親戚の方達もよく面倒をみてくれて二、三年良くなったり、悪くなったりを繰り返していた。この調子なら治りそうだと思った矢先とうとう奴の耳に入ってしまった」
「「奴って」」
「全知全能の神 オウス」
「それの何がまずかったの」
「神は病気になることはないし、寿命で死ぬこともない、本来はな。だが、妹は病気になった。宇宙の調律をする者が病気になるということ。すなわちそれは、何らかの次元の重大な歪を意味していた」
「そ、それで」
「オウスはそれを治すべく、妹を殺そうとしたんだ。だが、あくまでその病気は歪の表れでしかない。根源を治さねば意味がないのに。だから俺はオウスを説得することにした」
「で、どうだったの?」
「奴は聞く耳なんか持たなかった。両親を死に追いやったのも…あいつなんだ!!」
怒りに震える横顔は酷く悲しそうで、辛そうで
「俺は奴と戦うことを決めた。奴の送ってきた十万の神兵との闘いは三日三晩に及んだ」
「たった一人で十万人を…」
「それが、」
「そう。さっき言った戦争だ」
昨日、僕は十人くらいの敵と戦った。それでも決して楽じゃなかった。
昨日、シノンは三人に囚われた。それだけでも耐えられないほど心細かった。なのに、目の前にいる君は…
「十万の兵に勝ち、いよいよオウス直々の登場となった。俺は死力を尽くしたが、奴にはかなわなかった。結局妹は捕らえられ、俺もあの状態でここへ飛ばされたってこと」
想像を絶する重さに、僕等は軽々しく口を開けなかった。それはもう、神を信じる、信じないの次元じゃない程に。
「あぁ、いや悪いな。暗くするつもりは無かったんだけど。まぁ、要するに。言いたいことは、また誰かの隣にいられて寂しくないってこと」
あぁ、優しいな、君は。僕なんかよりずっと。
「私も嬉しい、貴方といられて」
「んっ、うん」
笑った顔はやっぱり明るく、
「僕も、君に会えて嬉しいよ」
「うん、お前には特に感謝してる」
誰かと話すっていうのは、やっぱり楽しいな。
お昼の休憩をとっている最中、僕はそこらへんを散策していた。すると、廃ガレージを見つけた。中に何か燃料でもあるのかと思って入ってみると、一台のデスクトップタイプのパソコンと、クロスバイクがあった。一体この時代のWINDOWSは幾つなんだろうとワクワクしながら、待っていると何やら真っ黒な画面が立ち上がった。ブラックバックに黄緑の文字が並んでいるところをみると、どうやらプログラミング画面らしい。見た感じベーシック言語に似ているため、何となくはわかる。一通り目を通した感じ、この自転車は三つのクリーン発電機能とパラジウム恒久バッテリー、そしてジャイロセンサーがついていることが分かった。そして何気なく、エンターキーを押すと。
「お帰りなさいませ、マトライト様」
という文字が、ハンドルの付け根にあるパネルに映し出された。
僕はとりあえず、パソコンで
「僕はレインウォーカーで、君の御主人でないよ」
と打つと、自転車は意味ありげに
「いいえ、私にとって貴方様はマトライト様なのです。“リライド”という名を授けて頂いた日から仕える、マトライト様なのです」
と返してきた。まあ僕は何となくこの子のいうことがわかったから
「じゃあ、僕を今日から名前で呼んでくれないか。ケープって」
と打った。
(かしこまりました、ケープ様。私に接続したコンピューターを外した後も、ハンドルを握っていただければ、ご意向が分かります)
とのことだ、ひとまずガレージから出して皆のところへ持っていく。
「ふーん、素敵な自転車ね」
「へぇ、これが下界の乗り物かぁ。かっこいいな」
と、すんなり受け入れられた。
(じゃ、これから荷物運びよろしくな。リライド)
(かしこまりました、ケープ様)
いやホントに格好いいデザインだよ。蒼を基調としたボディに明るめのオレンジラインが入り、真っ白なテーピングが巻かれたハンドル!そして、それらを締めるかの如く置かれた、漆黒のサドル!!いやぁ、本当に格好いいんだけどさ…でも、
「コレ絶対熱くなる奴だよね」
日光で熱くなった金属を「絶対熱いって」て言いながら触るの、よくやりますよね。