STATION VI ~逆流する逢遭~
年賀状とかで(家族が増えました)て自慢する人の気持ちがわかりません。
自分でも全く理解ができない。とめどない力が溢れてくる。そして、電子の流れが視える。それは、今この状況にとって、とてつもなく好都合だった。
地下5mの底からたった一回のジャンプでさっきの場所へ戻る。もう何処へ行けばいいのかは、はっきりとわかる。体を屈めグンッと加速する。そして、徐々に起き上がり、更にペースを上げる。赤外線探知機が広がるのが見えるが、走り抜けるのと同時にそれらを打ち消した。それが、どうゆう原理なのかはわからないが、少なくとも今の俺にはこういった機械の類を機能停止させる能力があるのはわかった。そひて、すぐに前方から何かが飛んでくるのがわかる。それを躱す為、壁の側面を垂直に走る。前方から飛んできたのは鉛玉だった。えらく遅いな。ここまでしてよける必要もなかったか。目を凝らさずとも暗闇の中をすっかり見渡すことが出来る為、むしろこの暗さはこちらに利がある。
見えた、階段だ。段差が始まる手前でジャンプし、踊り場の壁を蹴って折り返す。人生初の階段を一段も使わずに昇り切った瞬間だった。この調子で一つの階を十秒足らずで、駆け上がり、いよいよ四階、最上階となった。
「いやぁ、またお会いしましたね。ご無事で何よりです。」
「そうだな、まずはこの再開を祝おうか」
「ええ、」
そう言うや否や、ルー=マッカは襲い掛かってきた。右手には、ジャックナイフの様な鋭利な刃物を持ち、刺しかかってくる。その攻撃を難なく躱し、目にもとまらぬ速度で一歩を踏み出す。右サイド・クロスカウンターが完璧に顔面にはいった。片方の黒い丸グラスは完全に砕け散り、マスクは破ける。だが、この感触。やはり、
破れたマスクから覗く顔に肌色の温かみはなかった。
「どうりで声が似ている訳だ。そりゃあ、“同じ音声データ”を使ってるからなぁ」
「まあ、そんなに怒らないでください。ほら、見てくださいよ、楽園の入り口ですよ。もうすぐです」
指さした襖には悪戯書きの様な文字で朱く“ようこそ、楽園へ“と書かれていた。まったくもって怪しい。しかし、俺の注意を他へ向けさせることが目的だったらしく、背後からディス=マッカが襲い掛かってきた。だが、振り返るまでもない。拳銃型の装置から射出されたチェーンを躱し、掴み、逆に手繰り寄せる。そのまま振り返りざまに左上段回し蹴りを浴びせ、よろついたところに腹部に右膝蹴りをいれ、鎖を巻き付け両腕を封じる。すれ違いながら、背中にもう一発蹴りをいれ、2ステップ踏み、飛び上がる。そして、バック宙をしながら後ろへ戻り、渾身のかかと落としを決めた。ディス=マッカは頭部から真っ二つに両断され、着地と同時に崩れ落ちた。欠けた頭部の装甲からは脳が覗いている。それを見たルー=マッカは仲間のことなど気にせず一目散に走り出した。
「待てよ、お望みの場所はこっちだぜ」
脇目も振らず、逃げ出す奴を一瞥する。それだけでもう金縛りに掛かったかのように動かなくなる。
「もうすぐそこだぜ」
「ええ、ですから私を離してください」
「ああ、お望み通り送ってやるよ”楽園”へ」
「何、を?」
「行けるかどうかはお前次第だが。また会えるといいな、何処かで。 “神の御加護”があらんことを」
「ッッ!」
断末魔を上げさせる間もなく、上段蹴り一発で首を跳ね飛ばした。
いよいよだ、楽園に繋がる襖を片手で開け放つ。金蘭屏風の放つ光が、暗い回廊を照らし出す。それに、目を細めながらも前を向く。
「やあ、待っていたよ。君が来るのを、ずっと、ね。ようこそ、ここが楽園だ」
「遅くなってゴメン、シノン。迎えに来た」
「酷いなぁ、いきなり無視するだなんて。それに誰だい、シノンって子は?そんな人間ここにはいないよ」
目の前にいる満面の笑みの笑みを浮かべた、福笑いみたいな男が喋りかける。
「安くするのは、その笑顔だけにしとけ。時間の無駄だ、さっさとシノンを出せ」
「まぁ、ま」
「早くしろ」
すごいオーラだ。さっきの戦闘といい、この子は上物の被検体になる。
「まあ、待ちなよ。ここは楽園だ。何かしたいことはないのかな?」
「シノンと帰る、それだけだ。それに…これのどこが”楽園”なんだ?」
壁のように囲み、部屋を形作る襖を一枚叩けば、ドミノ倒しの容量で他の襖も一斉に倒れた。そこから見えるのは、元は人であったであろう肉片や赤いシミ、白骨の欠片、ボルトやネジが転がっていた。そこは、さっきまで走ってきた回廊と同じ暗闇で、その奥には蒼く光る培養水槽の様なものと、むせび泣くシノンの姿があった。
「シノンッ」
一っ跳びで駆け寄り、拘束具を外す。幸い目立った外傷はなさそうだ。
「怖い思いをさせて、ゴメン。ちゃんと傍にいてやれなくてゴメン…」
「また一人になるんじゃ、ないかってッ、ほんとに、心細かったぁ」
「もう一人にしない、約束する」
抱きしめたシノンの体からは優しい温かみが伝わってきた。もうこの手を離すまいと、そう思わせるほどに。
「感動の再会を邪魔して悪いねぇ」
そう男が言うと、奥からぞろぞろと近未来的フランケンシュタインの様な奴らが出てきた。
「流石の君もそこのお嬢ちゃんをかばいながらこの八人の相手は出来ないだろう」
「離れないで」
「…ん」
見渡しただけでそいつらはもう動くことはなくなった。
「素晴らしすぎる。その能力何としても我が手に」
「お前、ちゃんと考えられるのか?」
「え?」
そう言って動きを止めた。案の定そいつも機械の体だったらしい。
こいつ等の間じゃサイボーグ化がブームなのか?
「おーぅい、ちょっとこっちへ来てくれ」
何だ、水槽の方から声がする。シノンの手を引き行ってみる。
そこには、白金色に光る鎖にぐるぐる巻きにされたボールの様なものがあった。
「悪いんだが、ちょっとこの鎖を外してくれないか?」
人だったらしい。
「構わないよ」
シノンを後ろに立たせ、鎖に手を伸ばす。
しめた。意識を取り戻した男がほくそ笑む。あれにはスーパーストリングスの一端が使われているんだ。うかつに手を出せばはじけ飛ぶ。
しかし、ケープはそんなことにはならず、割とあっさりと鎖を断ち切った。
「すごいなぁ、お前。スーパー・ストリングスが使われた鎖を外すなんて、大したもんだぜ」
「そういうお前もよくあんな高エネルギーに囲まれて生きてたな」
「あぁ、まあ俺はちょっと違うんだ」
「ふぅん」
「ああそうだ、そこのお前。どうやらここへ人を騙して誘いこんでは実験をしていたなぁ。正直お前が楽園の名を悪用するのにはほとほと我慢ならなかったんだ」
「ならば、私を殺すのか」
機械の男は何を考えているのか不気味に笑う。
「いや、違うよ。だから、そんな大好きな楽園を死ぬまで見せてやろうと思ってな」
先程助けた長身の男はそう言って、強引に頭部を取り外し、暗闇の方を向かせて置いた。
「お前、頭さえあれば半永久的に活動できるんだもんな。よかったなずっと眺めていられて」
あの痩せ細った腕によくそんな怪力があったものだと驚き、頭だけになったあいつの末路を想像して身震いした。
「じゃあな、最後に一つ教えといてやる。俺は”本当の楽園”を知っている」
外に出た時には時刻はもう二十時半を示していた。
「助けてくれてありがとうな、本当にこの恩は必ず返す。困ったときはいつでも呼んでくれ」
「いいって、そんなこと」
「まあよかったな、お嬢ちゃんも無事で」
「ええ、あなたにも感謝しているわ。あの男が私になるべく関心を向けないよう、ずっと喋りかけていてくれたこと」
「お喋りなだけだよ」
そうはにかんだ男は小麦色の髪と相まって少年のように見えた。
「じゃあ、俺は北へ向かうから。お前らも元気でな。」
「うん、じゃあね」 「ええ、さようなら」
そうして僕らは男と反対の方向へ歩き出した。だけどやっぱり、言い残したことがあって振り向いた。
「言いたいことがあるんだけど…」 「奇遇ね、私もよ」
真っすぐに歩く背中を見ると思わずためらいそうになったけど…
「そっちは南だぞ~~~~!!」
「あらッ」
仲間が増えました...
僕も何か自慢をしたいです。