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終点 ~THE LAST TERMINAL~

遂に...

 「もう...行っちゃうのか」

「ああ、あんまり長くいると、別れるのがどんどん辛くなるから」

「もっと、悲しんでけよ」

「ハハッ、俺は涙腺が緩いんでね」

「イデア、ちゃんとまた来てね。その、忙しいと思うけど。たまには」

「おーお、泣くなよおシノン。今生の別れじゃないんだ、また会えるさ」

「...ぅん」

「それじゃあな、リライドもありがとな」

(寂しくなります)

そう言ってイデアは光の中に帰って行った。

「...あんまり早く来るなよ」


その後、僕とシノンは駅まで喋りながら歩いていた。お互い、別れることは口にしなかった。駅についてからもベンチに座って話を続けた。だってこれはもう二度とできないことなのだから。でも、もう時間だ。立ち上がり、ホームに隣接する窓口のタッチパネルに手を伸ばす。

「それでね、リライドから光が出てきてね」

マスターキーでログインする。

「うん」

動作確認が進む。

「..私を守ってくれて」

「うん」

操作を進めながら返事をする。

「...それ、で、ね...本当(ほんと)に帰っちゃうの?」

「...」

「かえ、らないでよ。もう一人にしないって」

「...」

「あなたが、いないと、暗い道を歩けない」

「あなたがいないと、笑えない」

「あなたがいないとッ、私の時間は進まない...だからぁ、お願い...」

背後からでも泣いているのが伝わってくる。でも言わなきゃいけない、僕は。僕が、彼女の最も好きな僕である僕でいるために。

「ごめん...行くんだ。この電車で」

「ぅん」

「でも、」

まだ熱気の残る風を立てながら、電車が減速してくる。

「...」

ライトに照らされて、シノンの顔がはっきりと見える。

「帰るわけじゃない。約束する」

「...ん」

「これ、持ってて」

ポケットから取り出したのは僕の身体を取り巻いていた不思議な金属と光から構築した手のひらサイズのタイプライター。シノンが赤い目で不思議そうに眺めて、受け取る。

「ずっと、これを持っていてほしいんだ」

「ん...」

「まあ、えーと、だから...

涙を拭ってあげてから、震えるそうになる声をこらえて精いっぱいの笑顔で言う。

「行ってきます」

そう告げて、僕は電車に乗り込んだ...


 はあ、夜の景色はものすごい速度で移り変わる。段々目が追い付かなくなっていく。力が抜ける。結局僕の青春はこんな形で終わりを迎えた。まあある程度は分かっていたことなんだけれど。でも、やっぱりあの時告白していれば彼女はイエスと答えてくれただろうか?多分そんな気がする。でもこれでいいんだ。これで、いいんだ。僕にとってこの二週間は想像もつかない程の輝かしい日々だった。それで十分だ。後になって振り返ることが出来るくらいで、僕の青春時代は確かにそこにあったんだと、そう思えるだけで...珍しい黒い蝶で、非日常の冒険の日々を生きるのは彼女で。僕はありふれた黒い蜻蛉かげろうで、決められたレールの上を歩いていく。そんな彼女を僕なんかが引き留めてしまったら、それこそ彼女の存在を毀してしまう。

あの陽光に包まれた途端、景色は夜から夕方へと移り変わった。車内には二週間前と同じであろう面々がいて、やっぱりあの女子高生も座っていた。何となく独り言を呟く。

「随分変わったんよー、俺も」

なんてね。しかしその瞬間、目を奪われる光景を見た。

通り過ぎていく午後四時半。空に浮かぶ要塞を見た。よく知っていたつもりになっていた。しかし、現実はあまりに大きかった。その超質量が浮かんでいるのが信じられなかった。包容力溢れる白色は温かみを帯びているかのようだ。でも、その影は今にも落ちてきそうな畏れがあった。明日からの凡庸な日々に嫌気がさしていた僕に再び好奇心と想像力を張り巡らせるのに十分だった。夏が来る。夏至の翌日。積乱雲の麓にて。陽炎をいく。

 駅に着いたみたいだ。二週間ぶりの下車だ。外に出て、公園のベンチに座る。ドアを開けるのはもう少し、空を眺めてからにしよう。


 ちょっとだけエピローグ

「リリー、起きて。リリー」

「なあに、お母さん?まだ六時前だよぉ」

「タイプライターが動いたの!」

「タイプライター?」

お母さんが小さな女の子の様にはしゃいでいる。

「朝起きる前から分かっていたの!朝露が滴る匂いですぐに気づいたわ。カタカタカタってね、タイプライターが一人でに打ちはじめたの!」

「ほんとお!」

「うん!ほらッ」

そう言って差出たメモ帳大の紙には、確かに文字が刻まれていた。


       CAPE RAINWALKER WILL BE BACK.



完結

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