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STATION XIV ~君の声がきこえてくる~

最近雨が多くて、

 両腕を左右に広げ、天を仰ぐ姿で舞い降りてくる。仰々しく後光まで射しながら何かが降りてくる。スーッと減速し、ビルの上の方で静止する

「ぁぁ、折角戻れたってのに。クソッ」

「あの“ともだち”みたいなことしてるやつを知ってるのか?」

「俺がこの惑星(ほし)に来ることになったのも、あいつのせいだ」

「へぇ、知り合いならなんとか出来ないのか」

「お前はそれを自国の長にも言ってみるんだな」

「もういないよ、ここには誰も」

「そうか、それじゃあ一人増えたな」

「あー、アイツ一人にならなきゃいいんだけど」

遥か上空から舞い降りた“アイツ”不敵な面で口を開く。

「何だ、まだ片づけていなかったのか。愚図が...」

何か言っているようだが、遠くて聞き取れない。そしてなにより、隣のリザードマンの怯えぶりが気になる。

「おい、アイツは二人がかりでも倒せないのか?」

「...ぁぁ」

「どうした、新刊発売に間に合わなかったか?」

「...」

言葉も発せられないほど、とんだ恐怖君主らしい。上空へ視線を戻す。辺りを見回しているのか。

傀儡(くぐつ)にするには丁度いいか」

両腕を振りかざしたため、身構える。その指の一本一本からは光の糸が延びる。十本の線がそれぞれビルに繋がれる。まさか、ビルを...そう疑った途端、大地が大きく震える。それらが集まり、四肢と成り、胴と成り、そして頭と成る。やがてそれは巨人をの体を表す。体高100mといったところだろうか。巨人というより、ゴーレムだな。窓ガラスを凝縮して出来た逆三角形の眼が曇天を映す。誰が見たってわかる。この状況は絶望的だ。

「お、おい。逃げるぞ、あんなの出されたらここら一帯おしまいだ」

「...逃げないと、逃げないと、逃げなきゃまた、殺されるのに」

「そうだ、逃げないと死ぬぞ。だから早く立て!」

「駄目だ、駄目だ、駄目だ。どうやったて、無理だ!」

リザードマンの精神は明らかに崩れていた。

「大丈夫だ、お前はアイツの仲間なんだろ」

「はッ、い、いや、駄目だ」

「どうして?」

こうしているうちにもシティゴーレムは地鳴りを響かせ、刻一刻とこちらへ向かってきている。

「出来なかったから。任務を、遂行できなかったから」

こいつ、さっきはあれだけ無表情だったのに。自分の主人を見ただけで。いや、こいつの首が掛かっていたということか。

「じゃあ、一生そこでぼやいてろ。まあ、もっとも何もしなきゃ直に殺されるんだろうが」

「え?」

「無理だと思って、敵わないのと、死ぬ気でやって、敵わないの。どっちがいい?」

「そりゃ...」

「そりゃあ、諦めるほうだろうな。まだ全力じゃなかったと思えば、保険を掛けられるからなぁ」

「...」

「...でも、俺は保険を掛けるのは大っ嫌いだ。スリルがなきゃ、つまらないだろ」

「!」

それだけ言って、ゴーレムの方へ向かう。リザードマンがの助力が得られない以上、一人でやるしかない。高層ビル群の上の駆け抜け、ゴーレムの頭に飛び移る。掃い除けようとした手を躱す、しかし余りの衝撃波と風圧で吹き飛ばされる。向かいのビルへ突っ込む。痛みに悶えながら、ジタバタと起き上がる。外へ出ようと、大穴から顔を出した途端、ゴーレムの一振りが直撃する。100m^2くらいの拳がビルを粉砕する。破片は粉末状に成り爆風に乗って嵐となる。大地を削る溝の終端部分に俺がいた。まったく、こんなに綺麗な線が引けるなら、定規要らずだよ。

頭が朦朧とする。関節は繋がっているのだろうか。起き上がれない、二度と起き上がれない気すらする。こんなことなら目覚ましセットしとくんだった。ゴーレムの踏み付けが来る、さあもう頭の中ですらジョークを言っている場合じゃなくなった。緊張が走る。濃厚な死の恐怖が駆け巡り、神経を震わせる。なんとか踏みつぶされる前に、横ばいに飛びのく。振動が骨の髄まで響く。よろよろと立ち上がり、走り出す。隣り合ったアパートの壁面をジグザグジャンプの要領で蹴る。ズリッと、足が滑り、落ちる。非常階段に体を打ち付ける。こんなことをしてる場合じゃない、けれども思ったように景色が進まない。ようやく住宅街の裏路地を抜けて通りに出たと思ったのに、埃を掃うかの様にゴーレムの裏拳が迫る。とっさに右腕でそれを押し、身体を持ち上げ、側転しながら躱す。だが、またも風圧からは逃れられない。ビルに突っ込む。

舞い上がった煙が収まると、ゴーレムがビルに開いた大穴を覗き込む。この瞬間を待っていた。俺と眼を合わせたことで、ゴーレムはその動きをピタリと止める。それを確認してからゆっくりと体を起こして、穴から出る。ゴーレムの頭に飛び乗り、その身体に流れる電子の流れを操る。下を向いたせいで、鼻血がポタポタと零れる。掌の部分にあるレンズに光を集約させる。そのまま得体のしれないアイツの方を向く。鼻血はもう止まった。

「高みの見物してるようだから、見やすいように明るくしてやるよ」

ゴーレムの掌に溜めた光をレーザー状に解放つ...筈だった。その光は急速に失われ、消えてしまった。

「なっ、に?」

「ハハッ、当然だ。お前の様な下等な生命体に本当にそんな能力(ちから)をだせると思ったか」

あんなに離れているのに、脳に喋りかけられたように鮮明に聴こえる。

「その能力はお前の物じゃない。アレだ」

そう言って更に遥か空の上を指す。そんなこと言ったって、今日は夕立で出来た薄い雲のせいで星すら見えないぞ。いや、まさか...

「それはあの“人工衛星”の恩恵だ。そして私が今その演算領域をジャックしている。流石にここまで言えば、理解できたか?」

莫迦な、俺の能力が人工衛星によるものだと。いや、待て。セントラルのコンピューターは演算能力を少し前から全て使用しているとか。そして今、アイツが人工衛星をジャックしている。つまり、マスターキーを集めても...走馬燈の様に思考が加速する。体中の力が抜けていく。絶望のあまり倒れそうになるが、血だらけの脚で、誰に見られるわけでもないのに格好つけで立ち続ける。

「楽園に行く手土産に教えてやる。我が名は“オウス”、全知全能の神なり」

そう言ってその手には槍が現れる。それは光を帯び、雷槍と化す。もう諦めのあまり脱力し、恐怖すら感じない。いいじゃないか、誰にも死に際を見られず、死んでいく。シノンを逃がせた、彼女のなかで俺は最後までヒーローであり続けられた。イデアの奴もそろそろ戻るだろう。そしたらきっと何とかしてくれる。オウスが肩を振り上げる。眩しさに眼を細める。結局最後は一人で...

「ケープッ!」

「はぁッ!?」

残念ながら、結局俺は最後までヒーローでも、格好つけてもいられなかった。やっぱりその顔を見るだけで、満足だった。リライドに乗って、手をこっちへ伸ばす。オウスが手を離す。はあ、ちゃんと逃げてよ。

「ダメじゃん、これじゃあ」

シノンに少しだけ微笑むと同時に、辺りは真っ白な光に包まれた。


とても嬉しいよ。

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