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STATION XII ~レイトショウ~

 原子力発電所から戻ろうとしたが、シノンがもう少しと言ったので、僕とイデアは外を散策することにした。

「なあ、ケープ良かったらでいいだが、ちょっとトレーニングの相手をしてくれないか?」

「いいけど、急にどうしたんだ?」

「ああ、なんというかみんなのところに戻った時に、弱いまんまだと恥ずかしいからな」

「そうか、まだまだ本調子じゃないんだっけ」

「ああ、もうちょっとで取り戻せそうだからな」

そう言われると、僕たち三人はずっといられるわけではないんだなと、少し悲しくなった。

そんな、こんなで砂浜でイデアと組み手の様なものをすること、一時間。気づけばシノンが砂浜に座って、こっちを見ていたから帰ることにした。

 月面エレベーターの初動に必要なエネルギーを溜めるためには、8時間くらい必要とのことだった。それまで暇をつぶすために何をするか話し合った結果、まずは服を変えることにした。思えばこの3週間以上、こまめに洗濯をしていたものの、ずっと同じ服を着ていたため、もうだいぶ繊維が傷んできていた。加えて、僕の服は戦闘のせいでそこかしこに焦げや穴が出来ていた。駅の中にかつて栄えていたであろう大手衣料品店があったので、そこへ入る。この時代まで、この企業は生き残っていたんだと思うと、時空を超えた感じがして何だか胸熱だ。おのおの服を選び始める。ガランとした店内は戦争の影響で服なんて陳列していないかと思ったけれど、不思議にもそれらはきちんと並んでいた。灰色とまばらに混じる赤褐色で出来たブロックのはまる壁、そこに張り付けられる、モデルの大写真。2mぐらいの棚には僕がどうやってもできない折り方で服が並んでいる。当然、僕らが来るまでは、ここには客なんて一人もいなかったろう。まして、レジになんか人を置く必要なんてない。だけど、ここは服だけは並んでいる。いや、“服だけは待っていた”。もう誰一人として残っているかわからないこの世界で、ただひたすらに、“ここにいた”。だから、こうして僕らが来たことで証明された。

 今着ている白ワイシャツと似たようなのと、濃い紫のズボンを買うことにした。イデアは真っ白な神衣の様な服に袖を通したようだ。よくそんなのあったな。シノンはどんなのにしたんだろうかと見てみると、ライトグリーンのシャツに合わせるボトムスを悩んでいるようだ。

「どれがいいかな、これなんて」

ズボンを手に取るあたり、分かっていない。おそらくこういうファッションには時代が時代だけに疎いのだろう。さっき服屋に来たのなんて3回目と言っていたくらいだし。ここはひとつ教えてやらねば。

「そうだなぁ、これがいいんじゃないかな」

ニュートンが顔を真っ赤にして、万有引力の方程式を見直したくなるようなスカートだ。

「えっ、こういうの?神経疑うわ」

「まあまあ騙されたと思って」

「その手には乗らないわ、地球の重力は強いのよ」

「それじゃあ絶対にタイタンになんか行けないな」

「行きたいと思う人間なんかいないわよ」

随分恥ずかしいらしい。

 そうは言っても結局は履いてくれて、これでど、どうかなとかあれば完璧なんだけどなぁ。まあ、でも紺色に白いチェックの入ったスカートは本当によく似合う。

「なあ、ところでさっき襲ってきた奴らは何だったんだろうな?」

「あれは、元は人間だった者たちね」

「人間?」

「恐らく機械の軍勢に勝つために原子力発電所のエネルギーを使って、新たな戦士を生み出そうとしたのでしょうけど、失敗してあんな姿になってしまったようね」

「でもそれだけだったなら、大掛かりすぎない?」

「?」

「だってロボットを壊すだけなら、アーマーみたいなのを作った方が早い気もするんだ。だから、もっと“別の目的”がある気がしないでもないんだよなぁ」

「まあ、そうかもしれないわね」

「何だか、そんなの映画の中のお話だけだと思ってたよ」

「「映画!?」」

「もしかして、映画観たことない?」

うんうん、と頷く二人。

「じゃあ、せっかく駅の中に映画館もあることだし、観ていこうか」

 とは言ったもの、機材が壊れていたらどうしようかと思ったが、幸い何ともなく、モニターも映るようだ。なんの種類の映画が観たいか二人に尋ねても、よくわからないようだったので、結局僕は少年たちが線路の上を歩いていく作品に決めた。それは何だか今の僕らとも重なるようだったから。ピコピコと上映設定をしている間、わざわざ二人はこちらを向いてソワソワと待っている。

「そんなに、緊張しなくても。むしろこれから行く宇宙の方が緊張しない?」

「断然映画だな」

「ええ」

そんな期待されてもなあ

「前に友達と丁度今ぐらいの時間の映画を観に行ったんだけど、そのとき受付の人に年齢を聞かれてさ。まずいから4歳も上の年齢を言ったら、笑いながらも通してくれたのを思い出すなあ」

「へーぇ、それじゃあ俺以外は観れないなぁ」

「あ、そういうこと言っちゃう」

僕もこんな風に誰かと旅をして過ごすのは初めてで...

 館内には3人しかいない。別に映画が人気ないわけじゃない。言いようもないほど、ガラガラだ。でも、僕の隣にある温かさは確かなもので、それだけで大盛況だ。

ポップコーンもコーラもないけれど、十分だった。こうしていられるだけで十分だった。ちゃんと一緒にいられる時間はどんどんと。僕らはもうずっと一緒にいられない。この映画が終わるまで...


が降る。

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