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真田村の真田さん  作者: 錦織一也
真田村と真田さん
6/10

試してみる真田さん2

 

「……うまくいくと思うたのに」


 あの偽大阪城でやるイベントを、まずはあの喫茶店のマスターに協力してもらって、喫茶店を開催しようと思ったが、すぐに却下された。

 マスターの理由は、ただ趣味でやっているだけで、今みたいに客が来なくても、コーヒーを入れるだけで幸せらしい。村で一番、そして日本で一番になって有名になりたいなどの、大きな野望は無いようだ。


「……それなら、八百屋の店主に協力してもらって、朝市みたいに――」

「そういう問題じゃないぞ」


 うちの意見に、武田さんは反対した。


「それだと、盆栽展と変わらないぞ。年寄りが好きなような企画やっておけば来るみたいな感じで、真田さんが考えている、喫茶店なら誰でも寄ってきそうと思ってやっても、意外と人は来ないんだよな」


 そう言われるとそうかもしれない。うちが育った関西の街中には、多くのカフェや飲食店があって、うちはいつもそこで会話しながら、写真映えする料理を撮って食事していたっけ。うちらの世代は、暇さえあればカフェや雑貨屋に入る。この村の人もそうなのかもと思って、うちは喫茶店をやっておけば人が来ると思っていた。


「真田さんはあのお城をどう変えたいんだ? まずはそこからだな」

「……そうやね」


 うちも一度考えをリセットして、もう一度考え直してみることにした。

 あの偽大阪城。本当は復元大坂城。お城の周りには小さな水路があって、中に入ると、最上階の展望デッキに直通するエレベーターがある。

 最上階の展望デッキは、それなりに大きな部屋。けど、外の景色を見られる窓はすごく小さい。窓に顔を近づけて覗き込まないと、何も見えない。

 それなら展望デッキとしてではなくて、違うことで利用した方がいい。けど、このお城は、この村の景色を見渡せるように作られたに違いない。やっぱり外の景色が見えるような事を――


「思いついた!」


 うちは喫茶店ではない、違う方法であの偽大阪城を活用できる方法を思いついたので、とっさに役場に向かって走り出した。




「それで、真田さんが思いついた方法はー?」

「ふふん。聞いて驚かんといて」


 うちたちは真田村の役場にやってきた。それで、役場の一角にあるフォトギャラリーの所で、着いてきた上杉さんと武田さんに説明することにした。


「うちは、あの偽大阪城を展望デッキとして利用することにした」

「けど、真田さんが見たとおりに、外の景色を見るのはお勧めできない場所だよー?」

「うちは、それを逆手に取る」


 窓が小さいという事は、つまりまっさらな壁の面積が広いという事になる。壁には特に何も施されていない。


「展望デッキの壁の空いているスペースで、この西尾さんが撮った写真を展示して、あの展望デッキを観光案内板みたいにする。つまり、この復元大坂城をフォトギャラリー兼、リアル観光案内板作戦っ!」


 全方位に窓があるなら、この偽大阪城を観光案内板にしてしまえばいい。そうした方が、どの方向にどの名所があるのかも分かると思うし、将来的にはここを観光案内所にすれば、盆栽展しか開けないような、バブル時代の負の遺産にはならずに済むだろう。


「具体的には?」

「どこに何があるのか、うちはまだ分からんけど、役場ならあっちの方向とか、神社ならこの写真を使って、この方向に神社がありますよとか、そんな感じで、あの偽大阪城を使えばいいんじゃないのかと思うんやけど、どうかな?」


 うちの意見を聞いた武田さんは、フォトギャラリーに展示された写真を眺めながら。


「まあ、いいんじゃないか。それぐらいなら俺たちでも出来そうだし、村長もそれぐらいなら許可するだろ」

「そうなったら、次は撮影者の許可だけ。上杉さん、西尾さんの連絡先って知ってる?」

「確認したら、大丈夫だってー」


 上杉さんは、いつの間に確認したのだろうか。スマホの通話をスピーカーにした状態で、うちの方に画面を向けた。画面には、西尾桂馬の名前が書かれていた。


『……喜んで協力する』

「あ、ありがとうございます!」


 西尾さんの許可が取れたら、さっそくうちの初めての改革を実行だ。なんだか、この村に来て初めて楽しいと思える瞬間だった。



 翌日。うちは上杉さんの家、上杉電気店にやってきた。うちの家にはない、パソコンもプリンターもあるという事なので、使わせていただくことになった。

 パソコンで西尾さんが撮った写真を確認すると、四季折々のいろんな名所の真田村の景色が写っていた。


「……これが冬の真田温泉の写真」

「いい感じだねー」

「……これは、夏の元祖真田温泉から出てくるお客さんの写真」

「ちょい待って」


 上杉さんと西尾さんは普通に写真の選考をしているが、うちにはついていけなかった。


「……何で温泉が二つあんの?」

「私が小さい頃があるから、よく知らないねー。真田温泉は、前の道をまっすぐ行けばあるけど、あまり利用しないねー。けど元祖が付くなら、元祖の方が歴史があると思うよー」


 こんなビジネスホテルのような建物が由緒ある温泉とは思えんのやけど。


「……これは、村のみんなでお花見をした、真田中央公園の写真」

「あったねー」

「一応聞くけど、それは真田幸村と何の関係がある?」


 この村の施設には、大体は真田幸村と何らかと関係している。まさかと思うけど、真田幸村が整備した公園とか言わんよね?



「これは、普通の公園だよー。特に幸村さんとは関係ないかなー」


 真田幸村と関係ない施設もあるようだ。


「……これは、小学校の生徒が、真田キャンプ場で遊んでいる写真」

「みんな健気で可愛いねー」


 キャンプ場は、さすがに真田幸村が関係していないだろう。絶対に最近に整備されたものだと思うから、これは展望デッキに書かなくてもいいかもしれない。


「さすが幸村さんだよねー。400年後には、野外で遊ぶことが流行ることを見抜いて、山肌にこんなキャンプ場を作ったのだからー」

「それは絶対に嘘やろっ⁉」


 江戸時代にキャンプ場があるとは思えない。恐らく、あの西尾村長が勝手に言い出したのだろう。


「けど、真田さんも観光大使を目指しているなら、この真田村の名所はちゃんと知っていた方がいいだろうな」


 武田さんに言われて、うちもそう思った。出鱈目で、変な知識が入ってしまうかもしれんけど、ずっと過ごす羽目になるのなら、多少は知っておくべきかもしれない。


「ほらよ。一応、こいつに頼まれて作った。ちゃんと目を通しておけよ」

「私に感謝してねー」


 この真田村の名所をまとめた物を武田さんが作ってくれた。それをお願いしたのは上杉さんのようだけど。


「一つ聞かせて。二人は、どうしてうちに協力してくれるの?」


 出会って数日しか経っていないのに、上杉さんと武田さんは、うちに協力してくれる。こんな面倒で大変なことを、まだ日が浅い関係の人に協力するのが不思議だった。


「散々真田村にクレームつけている真田さんだけど、結局クレームを出す人って、その事をちゃんと見ていて、相手のために思っているんだよな」

「そうそう。他所の人が、こんな小さな村の事をしっかり見てくれて、現状をよく思っていない真田村を変えようとしてくれることに、私たちは感動した。すごいよね、さすが都会の人だなって思ったよ。それで真田さんだけに任せっぱなしはダメかなっと思って、この村の若者代表として、私たちも真田さんに協力しようと思ったんだ」

「俺は、巻き添えだけどな」


 上杉さんは、ただうちをからかうのが面白いからついてきているんじゃなくて、うちの行動力に感心して、協力している。武田さんは、上杉さんのせいで強引に参加しているようだけど、やっぱりこんな仲間がいる方が、うちも安心して行動出来て、この村を本気で変えようと思えてくるのだろう。


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