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真田村の真田さん  作者: 錦織一也
真田村と真田さん
5/10

試してみる真田さん

 咄嗟に村長のお願いを断っても、村長は諦めずに、うちに観光大使のお願いをしてきた。


「観光大使になってくれたら、今ならこの洗剤の詰め合わせを進呈しましょう!」

「ユキ。観光大使になるんや――」


 物で釣られた父さんの横腹をどついて黙らせた。


「うちはやるつもりはありませんから。観光大使なら、この村の出身の人で、有名な人でやればいいじゃないですか」

「画家に観光大使をやってもらうのは、どうも気に引けましてね~」


 数日前にこの村にやって来て、春から高校生になる女子高生なら、気が引けないと言いたいのだろうか。


「もちろん、ギャラはお支払いしましょう」

「そういう話なら、父親である私が承認しましょう――」


 お金が貰えると知った父さんは、うちの承認無しで、勝手にやらせようとしていたので、再び父さんの横腹をどついた。


「父さんは、農業でセカンドライフを送って、家計を支えるんやろ? ちゃんと頑張るんやよ」


 父さんに頑張ってもらわないと、家は超貧乏生活を送ることになる。さっきの真田園に入るお金がないという事なのだから、きっと貯金も枯渇している事だろう。


「すいませんが、お金の問題じゃないです。そんな大役、うちが務まるとは思いませんので、引き受けられません」

「幸村さんの生まれ変わりなのなら、ぜひ引き受けてほしい!」

「それは、彼女が本当やと思い込んでいる作り話なので、信用しないでください」


 うちがそう言っても、村長は引き下がろうとはしなかった。村長に変なことを吹き込んだ上杉さんを、本当に恨む。


「観光大使になれば、さっき真田さんが不満に思っていた、復元大坂城も改良できると思うよー?」


 上杉さんがそう呟くと、村長の目が光った。


「ほほう。あの村の大目玉の観光名所に、何か不満があると言うのなら、是非とも観光大使になってもらってから、まずは復元大坂城から宣伝してもらって、村の改革をしてほしいですな~」


 上杉さんがさらに余計なことを言ったため、更にうちが断りづらくなってしまった。


 あの偽大阪城を変えてみたいなとは思った。見た目は名古屋にあるお城で、中は盆栽展が開かれるぐらいの、展望デッキで小さなイベントをやるぐらいだ。


「そんなら、うちがどんなように変えても、村長さんは文句言わんといてね?」

「そういう事は、観光大使になってくれるという事かな?」

「お試しでいいなら、引き受けます」


 まずは試してやってみるという事になって、なぜか父さんの方が村長よりも喜んでいた。臨時収入だと思っているのだろうか。



 翌日。そして、うちが観光大使に仮に就任した初日の朝。上杉さんが書いてくれた地図通りに家から歩いてみると、うちは真田神社に着いた。

 復元大坂城よりは、豪華な大きな社、大きな鳥居に、大きな参道。恐らくこの村の中では、一番立派な建物だと思う。


「それで、真田さんはどうするのー?」


 面白半分でうちに絡んでくる上杉さん。そして上杉さんに無理やり連れてこられたであろう、武田さんの姿もあった。うちがどのような行動をするのかが気になるようで、うちに絡んでくるらしい。もしかすると、店番をサボるためにいるのかもしれへんけど。


「まずは聞き込みかな……」

「なるほどねー。いろんな人に、自分は幸村さんの生まれ変わりですけど、あなたは信じますかって感じでー」


 上杉さんの話は無視して、うちは話を続けた。


「あのお城の印象を聞くの。あんな村の中心部にあるのにも拘らず、ほとんどの人が利用していないのも気になるし、どんな感じでイメチェンしたらいいのかのヒントになるかもって思って」

「なるほどねー。それなら、商店街に行ってみる?」


 この村にも商店街があるようなので、村でも人がたくさんいるはずの商店街に向かうことにした。


「……人、全然いないんですけど」


 真田村の中心部にある真田商店街。地元にもあった商店街みたいに、たくさんの人やお店があると思ったのだが、人がうちたち以外歩いていなくて、お店はほとんどが閉まっていた。


「数年前にスーパーが出来たから、みんなそっちにお客を取られたんだよ」


 まあ、スーパーがあるならみんなそっちに行くよね……。武田さんの話に納得だ。


「真田喫茶に行く?」

「人がいるなら、どこでもええけど……」


 とりあえず、この村の人の声が聴きたい。上杉さんの勧められた真田喫茶に行くと、喫茶店のマスターと、一人の常連と思われるおじいさんがコーヒーを飲んでいた。


「ああ。あのお城か。私は、特に何も思わないかな」


 喫茶店のマスターは特に何も思っていないらしい。


「俺にとっちゃあ、あの城は邪魔だな。昼頃になると、うちが日陰になって、日当たりが悪くなんだよ。そもそも、あの建物はバブルの時に建てられたんだよ。当時の村長が、村の活性化につながるって、信じて賛成したのに、今はこのありさまだよ。村以外の人間以外、この村に訪れようとはしないね」


 常連のおじさんが愚痴るように、うちたちの質問にそう答えた。


「あのお城で、イベントでもやっていたら、行きたいと思いますか?」

「前は盆栽展、その前は生け花の催し。その繰り返しだ。俺たちみたいな老人全員が、盆栽に興味があると思ったら大間違いだって、言いたいぐらいだ」


 やはり、あの偽大阪城でやるようなイベントではないようだ。


「そんなこと聞いて、嬢ちゃんは何かするんか?」

「そうなんだよー。この子、実は真田むぐっ……」


 変なうわさが広がらんように、上杉さんの口を手で押さえて、うちはすぐに喫茶店を出た。

 喫茶店の後は、近くにあった精肉店と、八百屋の人に話を聞いて、あの復元大坂城の事を聞いてみると、みんないい印象が無いようだ。あのおじいさんの言う事とほとんど同じ意見で、見た目が立派なのに、中は何もなく、村が開催している盆栽展や、いけばな展が繰り返し行われているだけで、当初の展望デッキとしての機能はしていないようだ。


「何か分かったの?」

「とりあえず、あの建物をさっさと取り壊して、更地にするのがいいみたいやね」

「えー。私は、大阪城が気に入っているのにー」


 あの偽大阪城を喜んでいるのは、上杉さんぐらいだ。ほとんどの人が、ただの邪魔な建物。バブル時代の負の遺産となっているようだ。


「更地にするのは冗談やけど、とりあえず盆栽展は辞めて、いろんな人が行きたくなるような企画にした方がいいと思う」

「万人受けする企画を考えるなんて、そう簡単に思いつかないぞ」

「うちは、さっきの商店街を歩いている時に思いついた」


 うちの頭の回転の速さに、武田さんは驚いているようだ。


「真田さんは関西の人だから、きっとあの展望デッキで、お父さんと漫才してくれるんだよねー?」

「そんなことするぐらいなら、うちは展望デッキから飛び降りるから」


 うちに対して、期待した目で見てくる上杉さん。絶対にうちの反応を楽しんでいる……!


「うちがこの真田村で初めて行う改革。それは、あの偽大阪城の最上階を喫茶店としてオープンさせる事っ!」

「無理だろ」

「無理だねー」


 武田さんと、上杉さんに即行で却下されてしまった。


「確かに、盆栽展みたいに限られた人しか来ないみたいな事はないと思うが、俺たちの力だけで喫茶店をやるのは無理だろ」

「うちたちだけでやる訳じゃない。さっき訪れた喫茶店のマスターに協力してもらうつもり」


 武田さんは否定的だけど、上杉さんは違った。


「幸村さんの生まれ変わりの真田さんが、どんな革命を起こしてくれるのか。私は気になるから、真田さんについて行くねー」


 上杉さんはただ面白そうという考えで、うちに協力してくれるらしい。


「最近、つまんないと言っていた暦には、楽しいイベントじゃない? 真田さんに協力してみたら?」

「……分かったよ。……学校始まるまで暇だから、俺も参加する」


 上杉さんと武田さんも協力してくれることになり、うちはさっき訪れた真田喫茶に行くことにした。


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