得体の知れない請負人
戦闘描写って奴は難しいですね。
街を出て街道から外れた荒野でザックとエリーは対峙した。
「ルールはあるか?」
「貴方が一発でも私に攻撃を当てられたら勝ちでいいわ。」
ザックが訪ねるとエリーがそっけなく答える。
それを聞くとザックは持ってきていた鞄を地面に置いた。
ヴァンパイアであるエリーに勝てる人間など聖職者を除けば数えるほどもいない。
それ故にエリーにはザックの態度と恰好が不可解だ。
ザックは防具を装備しておらず、右側の拳にだけ銀色の鋲が付いたグローブがはめられており、他に何か武器を持っているように見えないのだ。
術者というタイプにも見えない。
「装備はそれだけ?」
「見ての通りだな。」
そっけなく答えるザックにエリーがムカっとする。
(なによ!からかって終わらせてあげるつもりだったけど、少し痛い目に会わせてやる!)
元々藁にも縋る気持ちであったエリーはザックの戦闘での実力にはそこまで期待していない。
今回に関しては酒場でのザックの態度が気に障ったという点が大きい。
結果に関係なく連れて行くつもりだ。
しかしザックのさらなる舐めた態度が吸血鬼の令嬢のプライドに火を付けていく。
お互いの距離は15メートル。翼を出さずともエリーの脚力なら一足飛びで間合いだ。
左手で右手の甲をさすりながらザックが何かを呟くがエリーには聞き取れない。
エリーの右手の指の爪が伸び、五本合わせて一本の剣のような形になる。
それを確認したザックが言う。
「どこからでもどうぞ。」
ザックの余裕しゃくしゃくの上から目線が更にエリーを怒らせる。
「じゃあ、怪我しても文句は言わないでよね!!!」
そう言った瞬間、エリーの姿が陽炎のように揺らめく。
突風がザックの方に向かって吹いたかと思うとザックの目の前まで迫った前傾姿勢のエリーがザックの左膝目がけて爪を薙ぐ。
実はエリーの歳は100歳未満と同族ではひよっこだ。
普段は見栄を張ってイメージを作っているに過ぎない。
だが、他者の魔術によって吸血鬼化したタイプで高位カテゴリーの真祖に属する。
切断しようとは思っていない。
軽く切れ込みを入れてやる程度だ。
怒っている割に甘いが彼女がそうすると決めたら人間が抗うのは無謀だ。
だが、
斬り付けたと確信したエリーの爪の先にザックの脚が無い。
一歩分だけザックが後退しているのだ。
エリーは混乱する。
(瞬きはしていない!予備動作も無い!なんなの!?)
まるで瞬間移動したようにザックの位置が動いているのだ。
困惑でするエリーの左目にはザックのグローブが己の左頬に突き刺さる直前で静止しているのが見える。
「!!!!????」
目を白黒させてエリーはへたり込んでしまった。
拳が迫っただけで外見相応の少女のように恐怖するのは未熟故か。
「う…グス…うぁあああああん…。」
人間に寸止めされた悔しさも相まってエリーは泣いた。
ザックは予想外の事態に固まる。
「あ、えっと…その…ごめんな。もしかして当たってたか?」
エリーの頭にポンと手を乗せて撫で続けるが泣き止む様子が無い。
ザックはバツが悪そうに言う。
「ごめんな。ちょっとズルをしたんだ。」
「…?」
エリーが反応したためザックが続ける。
「実はお前の攻撃は最初に喰らっていたんだ。」
「…え?どういう事?」
「お前の攻撃を喰らった直後に攻撃を喰らう直前に巻き戻してかわしたというか…。」
よくわからない。時間を操る魔法なのだろうか。
エリーは考える。だがヴァンパイアでもそんな魔法を使えるなんて話は聞いたことが無い。
もしそうなら時間を止めて自分を簡単に殺せるのでは無いのだろうか。
などという考えがエリーの脳内に渦巻く。
「まあ、俺ならストリゴイ相手でも大丈夫ってことだ。納得してくれるか。」
「…。」
コクリとエリーは頷いた。
「ということで依頼は受けるぞ?いいな?」
「…うん。」
暇虫です。こんにちは。
ザックさんは内部描写が少なかっただけでそんなチートでは無いです。




