*「ありがとう」では足りないけれど
◇◇◇
蜂屋瑠衣さま
お久しぶりです。ライカです。
まず、勝手に住所を持ち帰ったことを謝りたいです。
驚いてるかもしれないけど、郵便物から失敬しました。
ごめんなさい。
理由は、どうしても、瑠衣にお金を返したかったからです。
……なんか反省文みたいになってきた、変だね。
同封したお金は、おれの貯金です。変なものじゃないです。
瑠衣にはたくさん、お金を使わせてしまったと思います。
こんな金額じゃ、足りないかもしれないけど、何かの足しにして欲しいです。
どうせ、使わないし。
いきなり最後だけど、あんま言えなかったありがとうを伝えたいです。
誰だか分かんないようなおれを、助けてくれてありがとう。
名前くれて、ありがとう。
飯、作ってくれてありがとう。
心配してくれて、ありがとう。
怒ってくれて、ありがとう。
優しくしてくれて、ありがとう。
正直に言うと、助けてもらった日、こっそり出て行くつもりだった。
でも、出来ませんでした。
ありがとうってちゃんと言えてなかったからだと思います。
こんな「ありがとう」なんて言葉じゃ、伝わってないだろうなってくらい、
感謝しています。決まりきった言葉じゃ足りない。全然、足りないです。
本当に、ありがとうございました。
思ってることはだいぶしゃべったのに、肝心なことが言えなかった。
帰り際にちゃんと言おうしたんだけど、上手くしゃべれなかったです。
終わろうと思ったけど、まだ書くことあった。
心配してくれてた、家……というか、叔母のことです。
ちょっとどういう風に書いたらいいか分からないくらい怒っていました。
だけど、瑠衣のことは言ってません。
そちらに迷惑がかかることはないと思います。心配しないでください。
どうしても、叔母には素直になれません。理由は自分でもよく分かりません。
理屈ではないみたいです。
あとは。
おれは、普通に暮らしています。
学校行って、帰ってきて、学校行って、帰ってきてます。それも心配いりません。
瑠衣は、そろそろ徳島に帰るのでしょうか。
身体に気を付けてください。どうぞ、お元気で。
あ。返事とか、書かなくていいです。
現金書留って住所と名前、書かないとダメって言われたから、書いただけなんだ
よね。じゃあ。
"ライカ" こと、井沢 彬