0『ある日 森の中』
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ん、ぅ…?…いつから寝ていたんだろう。
重たい瞼をゆっくりと開き、周囲を確認する。 …やけに視点が低いのは寝ているからか。
湿った土の感触が、やけに心地良い…
どうやら、私が横たわって居たのは知らない森のようだった。 周囲は暗く、天高く伸びる木々の隙間から、満月が顔を覗かせている。
私の周囲は開けており、大地は少し黒く湿った土だ。
シンと静まり却っており、周囲に何かが居る気配も無い…どうしよう、もう一度眠ってしまう?
…いや、その前に、その前に…
「わふ(何この状況)」
「…わぅ?(…何、今の声)」
おかしい。
私の独り言に合わせて獣の鳴き声が聞こえる。 …位置は丁度私の位置、つまり…
…いやいやいや!?無い!あれ私の声!?嘘待って、でも視線を少し下げると視界の端に…鼻…犬っぽい…
推測は合ってしまったらしい。
つまり、今の私は犬…じゃない、狼っぽいか。 身体を起こそうとしても安定しない訳だ、四足歩行動物が二足に起き上がろうとしたんだから。
腹這いになり、自分の身体を振り返ってみれば、そこには白い毛並みの身体…と、フサリと長い尻尾が見える。
…模様は無いけれど、この白は…ちょっとくすんでるというか…白っぽいグレーに訂正しようか…
で。
なんでこんな事になったのか、記憶を遡っても理由が分からない…いや、確か遭難したんだっけ。
山の中で遭難して、食料尽きて、怪我して、狼見つけ…混濁してるな。 日本の狼は絶滅した筈…いやでも噛まれたというか喰い殺された記憶…うーん?
…絶対考えても分からない、謎が多すぎる。 誰かに話を聞いて、じゃあその為に人を探して…
……私今狼じゃんかよぅ! 絶対話出来ないよ、ただ独りぼっちも寂しいし…ぅー、襲われないと良いなぁ…
とにかく動かないと始まらない、少し考えてるうちに眠気も全部散ってしまったし、とりあえず散歩。 狼スキーな人間が大当たり、狼キライな人間が当たり、狩人は当たらないでって事で。
慣れない筈の四足歩行、だけれど身体は知っている様で、少し小走りでも全然問題無さそう。 段々調子に乗ってきて、駆けた。
頬を撫でる風が心地よく、木々は視界の端へと流れていく。 段々木々が深くなって来るが、この身体ならば避ける事は訳ない。
アテも無く、ずっと直進していれば…
…やがて行きついたのは、暗い洞穴だった。