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バスが来ない  作者: 隈山田
登校編
1/1

誰にだって未遂ってあるでしょ

もう冬ですけどね。全然秋じゃないですけどね。

普通に寒いんですけどね。


朝の少し冷たい風が肌を撫でる。

さっきまで雨が降っていて曇っていたはずの空には、白んだパステルカラーが広がっている。


季節は秋。肌寒くなってきた頃。


この時期は、寝やすい空気、温度になっているから、かなり寝心地がいい。

意識は覚醒しているが、体が言うことを聞かない。そんなの日常茶飯事。

小・中学校に比べ、学校開始時間が35分延びた事により、睡眠に余裕が持てた分、魔が差す頻度が増えた。



俺は未だ動く事を拒否する体に鞭打って、どうにか起き上がるが、暖かい布団(いとしいこいびと)の誘惑に負けて、二度寝をキメる。



当然だろう。


目の前の愛しい恋人が、「置いて行くの?」とでも言いたげな悲しそうな顔をしてこっちを見ているのに、放っておけだなど無理な話だ。

俺には耐えられない。




夢見心地の中ゆっくり目を開け、気づいた頃には時すでに遅し。頭上の針は8時を回っていた。


俺に残された時間は10分。急いでベッドから跳ね起き二階から一階へスタートダッシュ。顔を洗い歯を磨き制服を着る。ここまでの流れはいいぞ。残すは朝食を食べて家を出る、それだけだ。


だがしかし問題発生。


そのまま食パンを咥えて走り出したい勢いだった俺の目にとまったのは、香ばしくて魅力的な卵焼きだった。

なんでだ。


確かに俺は朝食は飯派だが、母よ、昨日「明日はパンね」と言っていたではないか。


両親は離婚していて、俺は母方に引き取られたため、父とは一緒に暮らしていない。

今住んでいる家には、俺と母と祖母と伯父の4人がいる。


母は夜勤でまだ家に帰ってきていない。伯父は朝4時から仕事に出ていて既にいない。と言うことは、あの卵焼きの犯人は祖母だ。

母の言葉を聞いていたのではなかったのか?

明日はパン、に同意したのではなかったのか?

朝食を用意してくれるのは嬉しい。だが今日に限って卵焼きとは、ツイていない。

折角用意してくれた朝食を無下にはできず、食べる事にした。


元々卵焼きは好きなのだが、如何せん祖母の卵焼きは硬い。まるで黄色い何かをプレスしたかの様な平たい物体。

まさにその通り。もはや卵の面影はない。


こんなもの食えるか!

とひっくり返してやりたい衝動を抑え、ちょっとした意趣返しに、これでもかという程醤油をかけてやる。せいぜい驚くがいい。


今日もまあ随分と貧相な卵焼きで。と内心毒突きつつ完食し、朝の連続テレビ小説の主題歌を聞きながら急いで家を出る。


思いの外時間が掛かってしまった。次の卵焼きは、もっとふっくらになっている事を祈る。いつもは爽快なBGMに眠気マックスで不機嫌が溢れ出ているが、今日はイヤフォンを装着する間も惜しんで走る。


目的地は十字路の先、バス停。

二度寝するなら再度アラーム

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