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『月刊・魔王』編集部  作者: 井戸正善/ido
弱気竜と美人秘書
21/23

20.弱気竜と美人秘書1

今月の『月刊・魔王』は!

・グラビア:侵略候補地No.1? 温泉グラビアと女性兵士たち。

・一手御指南:食事の内容が作る部下たちのやる気と力

・決戦バト論:テーマ『勇者を仲間に勧誘するべきか否か』

・フィニの直撃インタビュー:ゲスト『ラーガン暗黒王』さん

・連続小説『追憶』は作者急病のため休載とさせていただきます

  etc…

「マジでヤバイ」

 と、若者口調ではあるが重低音の渋い声で語るのは魔王大竜と呼ばれるホーネンという巨竜だった。

 身の丈十メートル近い巨体には人一人は軽く両断できそうな鋭い牙が並ぶ大きな口があり、先程からヒロトへ向かって懸命に窮状を訴えている。


「あいつらマジなんスよ。ガチで殺しに来るっつーか。なんつーか目がヤベぇ」

 全身に蒼く輝く麟を持ち、太くがっしりとした腕や足、そして巨体をさらに大きく見せる広い翼を持ちながら、内容が薄くて軽い話を繰り返すドラゴンに、ヒロトの横で聞いていたユッカはめまいすら感じ始めていた。

 最初にホーネンを見たときは感動すら覚えたものだが、ヒロトを見るなり開口一番「ちょいお願いしたいことがあるんスけど」と言われた時は、翻訳魔法がおかしくなったかと思ったほどだ。


 ヒロトが言うには、魔王大竜ホーネンは出会った当初からこういう話し方であり、口調同様に性格も軽いらしい。

「まずオレ、やっぱ魔王とか向いてないんスよ。戦いとか超こえーし」

 ラブ&ピースがどうとか言い出したあたりで、ヒロトは話を止めた。

「まあ、まあ。ちょっと待ちましょう。お父様から引き継がれた肩書きが重荷なのはよく存じておりますが、ここで辞めても部下のモンスターたちが路頭に迷うことになりますよ」


「そうなんスよねぇ。やらないわけにいかないっつーか」

「……頭痛がひどくなってきたから、話をまとめてくれる?」

 ユッカがヒロトに要求すると、大竜ホーネンが「頭痛ッスか」と言って迷いなく自分の足の鱗を一枚剥ぎ取った。

「うぇえ?!」


「竜の鱗ってめっちゃ効くんすよ。少し表面を削って飲むだけでスッキリ! あ、ちゃんと水浴びしてるから、綺麗ッスよ」

 そういう問題じゃないと思うけど、とユッカが戸惑いながらも目を向けると、ヒロトは呆れ顔で頷いていた。

 小さなナイフを取り出して表面を削って水と共に飲み込むと、先程までの頭痛がすっかりと治る。


「これって……」

「大竜の鱗。一枚で豪邸がいくつも建つと言われる秘薬中の秘薬」

「ひえっ……」

 ヒロトの説明にひきつった声をあげたユッカ。

 だが、当の大竜ホーネンはあっけらかんとしている。

「すぐ生えてくるから、気にしなくて良いッスよ」


「あ、ありがとうございます……」

 助けあいッスよ、と語るホーネンに、ヒロトは話を続けましょうと声をかけた。

「頂いたお手紙では危険な状況にあるということでしたが、具体的にはどのような状態なのでしょう? 一見して、戦闘が激しくなってきたのはわかりますが」

 そう言ってヒロトが見回したホーネンがいつも待機している広間だった。


 あちこちにかけられた前衛芸術とホーネンが呼ぶガラクタの山は無惨にも破壊され、壁や天井のあちこちに黒い焦げのようなあとや傷がある。激しい戦闘が繰り広げられたようだが、ひとつだけ違和感があった。

「……血の跡がありませんね」

「よく気づいたッスね。流石はヒロトっち」

「ち、って……」


 ユッカの呟きをさっくりと無視して、ヒロトは小さくため息をついた。

「やっぱ人を殺したりとかしたくないんスよ。今回の勇者はすげぇ強かったんすけど、天井や壁に炎吹きまくって部屋の温度をめっちゃ高くしたら退散してくれたッス」

 やり遂げた感たっぷりに話していたホーネンだったが、ふと何かを思い出したようにがっくりと項垂れる。


「ただ、今回の襲撃で部下たちがたくさん死んだんッスよ。で、オレ考えちゃって。またあいつらが来たら今度はもっと沢山殺されるんじゃないか、オレが敗けたらあいつらも……」

 そう思うといてもたってもいられず、ヒロトに応援を頼んだのだという。

「部下の報告では、近くまでまたあの勇者が来ているそうなんス。なんで、超強いヒロトっちに助けて欲しくって。あ、でも殺しちゃ駄目ッスよ。ひとつしかない命、大事にしなくちゃ」


 どうにも魔王らしくない言葉を吐くホーネンに対し、一人のゴブリン型のモンスターが駆け寄る。

「……どうやら、もう来ちゃったみたいッスね」

 チラチラと助けを求めるようにホーネンから視線を向けられ、ヒロトは仕方ない、と諦めた。


「とにかく一度は撃退します。全滅されてしまっては講読者が減ってしまいますからね」

「ワオ! はっきり言うね!」

 大袈裟に驚いているホーネンのリアクションは無視して、ヒロトは続けた。

「一つは部下のモンスターたちに私の指示が絶対であると伝えること、そしてもう一つ」

 ヒロトは人差し指を立てた。


「一連の話について、次号の記事にさせていただきます」

「さすがはヒロトっち。しっかりしてるなぁ」

 そう言って、ホーネンはヒロトの提案を了承した。



 ヒロトがホーネンの部下たちに命じたのは、

「一度攻撃してすぐ逃げろ」

 というシンプルな内容だった。

 まずは魔王大竜ホーネンの軍勢がどれほどのものかを知るためだったのだが、結果としては散々だった。


「これはひどい」

 そう呟いたユッカが見ていたのは、この世界の最深ダンジョンでありホーネンがいる火山洞窟への入り口だったのだが、その時点ですでにホーネン側の軍善はグダグダだった。

 まず戦闘に対してモンスターたちはホーネン同様にやる気がない。武器を持つ手も怖々といった感じで、鋭い爪や牙を持つものたちも、短く切って危なくないように丁寧にやすりがけしている有り様だ。


「ひええ!」

「えいっ、このっ!」

 などと可愛らしい掛け声をあげながら逃げ惑ったり、届かない距離で武器を振り回したりしている。


「はぁあ……」

「私、このままこの魔王軍は解散した方が幸せなんじゃないかと思うのだけれど」

 信じられないレベルの軟弱さにため息を吐くヒロトにユッカが呆れ声で言う。

 のんきに会話している間に、防衛戦を突破したーーーもとい、逃げ惑うモンスターを無視して突撃してきた勇者たちの一団がヒロトへ迫る。


「む、人間か」

「もう一人は違うようだけれど……」

 ヒロトとユッカの正体が掴めずに困惑している勇者たちは全部で六人。男性四人女性二人の構成で、全員が人間のようだ。


「とりあえず、今日は帰れ」

 ヒロトがそう言い放つと、勇者たちはすばやく身構えた。

 彼らの動きは洗練されたもので、ヒロトが見たところ隙は無い。今ではすっかり逃げ散ってしまったモンスターたちとは対照的に、自分達の得意な動きをしっかりと把握していてチームとしての動きに慣れているようだ。


「敵というわけか。人間じゃないのか?」

「一応は人間だけれど、今日のところはお帰り願いたい。言うことがきけないなら、少し痛い目にあってもらう」

 リーダーらしき男の問いに、ヒロトは前に出ながら答えた。

 ユッカはやや下がった場所で待機している。勇者たちの実力を見て、ヒロトがそうするように言ったのだ。


「……後悔するなよ!」

 リーダーが声をあげると同時に、その背後から援護射撃のようにして魔法による氷の槍が飛来する。

 ヒロトは前へ出ることで魔法攻撃をやり過ごし、真っ直ぐリーダーへ向かって拳を向けたが、その攻撃は横から滑り込んで来た大盾を持つ屈強な戦士に防がれた。


「良い動きだなぁ」

 それに比べて、モンスターたちはどうしてああも弱気なのだろうか、とヒロトは再び疑問を抱きながら、拳を開いて盾の上部を掴んだ。

「えっ? わわっ……」

 ヒロトの痩せた見た目から想像もつかない怪力で盾を引き剥がされた戦士は、鎧で固めた腹に前蹴りを受けて転倒した。同時に、後ろにいたリーダーも巻き込む。


 もんどりうって倒れる二人を飛び越えながら、後方にいた女性が持っていた槍を蹴り折った。

 その直後、着地したヒロトへと火炎放射のような魔法があびせられる。

「ヒロト!」

「問題ない」

 炎に包まれたヒロトだったが、腕をひと振りするだけで、業火はあっさりとかき消えた。


「うっそでしょ!? 最高ランクの魔法なのに!」

 槍持ちを気絶させ、驚愕する魔法使いの女性も顎を軽く叩くことで気絶させた。

 残りは弓矢持ちと魔法杖を持った男性の二人だけだ。

「抱えて帰るのに二人いれば充分だろう。逃げるなら追わない。全滅を選ぶより賢い選択だと思うけれども?」


 選択肢を提示された二人は、ヒロトの勧めに従って気絶した仲間たちを背負って撤退することを選んだ。

「攻撃しないの?」

「あのなぁ……」

 苦労して男女一人ずつを運んでいく勇者たち一行を見送り、ユッカが呟いた質問にヒロトは頭を抱えた。ひょっとすると、魔王の在り方や考え方に染まりつつあるのかも知れない。


「俺たちは魔王として活動するのをサポートするのが役目なんだよ。代わりに敵を倒していたら、傭兵と変わらない。それに」

「それに?」

「敵がいなくなったら、魔王たちが月刊・魔王を買ってくれなくなる」

 それはそれで黒い考えではないのか、とユッカは疑問を持ったが、敢えて口には出さなかった。

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