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『月刊・魔王』編集部  作者: 井戸正善/ido
機械とダンジョン
20/23

19.機械とダンジョン(9)

19話目です。

よろしくお願いします。

「どうなっているんだ!?」

 戻ってきたヒロトとユッカ。その後ろから腕を組んで出て来たジョージとミハルを見て、魔王ミハマンは悲鳴のような声を上げた。

「落ち着いてください。とりあえず、事件は終息しましたよ」

「これが落ち着けるか!」


 普段の物静かな様子はどこへやら、ミハマンはミハルとジョージを指差して叫んだ。

「いや、ですから……」

「ミハル! まさかその男と……!」

「ええ。わたしは自分の道を自分で進みます! ……ジョージさんと!」

 ジョージの腕を掴み、ミハルは堂々と宣言した。


「えっ?」

「えっ?」

 一人はヒロト。もう一人はジョージ本人だった。

「まままま待ってくれたまえ! 吾輩はそんなことは……」

「きぃさぁまぁ~!!!」


 怒り心頭の魔王ミハマンは、ぐるりと振り返って状況を見ていたアレクシたち挑戦者パーティへと振り返った。

「アイツを討伐してくれ! 私の娘をたぶらかした大悪党だ!」

「そういわれても……ヒロトさん、どうします?」

 困り切ったアレクシに水を向けられ、ヒロトも肩をすくめた。


「とにかく、落ち着きましょう。一から順番に説明します。えーっと……」

 自分に視線が集中していることに気づき、ヒロトは唇を舐めて周りに笑顔を振りまいた。

「お茶にでもしましょうか?」

「用意するわ。さあ、みんなも手伝って」

 ユッカに指示され、アレクシたちは持っている敷物を広げた。


その後、焼き菓子を摘まみながらお茶を飲む会が開催され、ヒロトが状況を説明していく。ミハルからも父やジョージへしびれ薬と睡眠薬を盛ったことに対して謝罪があり、ミハマンも自分の迂闊さについてミハルへと頭を下げた。

「すまなかった。男手一つでどうにか育てたつもりだったが、お前の気持ちを慮ることができていなかったとは……」


 すっかり落ち込んでしまったミハマンは、泣いているミハルの顔をまっすぐ見る。

「もう一度聞こう。ミハル、お前はこれからどうしたいのだ?」

「わたしは、わたしが考えるダンジョンを作ろうと思ったの! ……失敗したけれど、でも、やりたいことは決まっているんです」

「どんなダンジョンだ? 怒っているわけじゃない。聞かせてくれ」


 再び涙がこぼれ始めたミハルは頷き、目を閉じて紅茶を飲んでいる父ミハマンに理想のダンジョンを語り始めた。

「機械人形と機械兵で組織して、罠を張り巡らせる……そういう意味で、今のダンジョンはある意味理想です。でも、それだけじゃダメなんです。わたしは自分でダンジョンを整備して、しっかり管理をしたい」


 その言葉には、部下や取引先にダンジョンの設定とメンテナンスを丸投げする父に対して非難する色も含まれている。

「そうか……それで、具体的にはこれからどうするつもりなのだ?」

「お父様の許可がいただければ……」

「そんなことは考えなくて良い。とにかくお前がやりたいことを教えてくれ」


 目を見開いたミハルは、ちらりとジョージを見た。

 左腕をしっかりと掴まれたまま、ミハルから視線を離したジョージは見るからに困惑していたが、誰も彼に救いの手を差し伸べようとはしない。

 ヒロトやユッカも視線を外し、焼き菓子を食べながらじっとミハルの方だけを見ていた。

「裏切り者め……」


 唸るような声が聞こえるが、ミハルは力強くジョージの腕を握りしめて離そうとしない。

 力づくでやれば振りほどけないことも無いだろうが、ジョージの性格的に女性に対して乱暴はできず、父親の前でそれもやりづらい。

 そして、ジョージとしてもミハルがまっすぐに自分を見る目や機械人形に対する感情は嫌いではなかった。


「わたしは、ジョージさんに弟子入りして一から機械人形を勉強したいと思います。そしていつか、彼と共に理想のダンジョンを作って、立派な魔王になります」

「ちょ、勝手に……」

 ジョージは反論しようとしたが、その前にミハマンが大きく頷いた。

「そうか……いつの間にか、ミハルも大きく成長していたのだな」


「わ、吾輩の話を……」

「ジョージ君。いや、ジョージ・ザ・ラッド君と言ったな。私はどうも、君のその化粧をする習慣や人狼という出自は、正直あまり良くは思っていない」

「であれば……」

「しかし、君が作る機械人形や機械兵はとても気に入っている」


 ミハマンは深々とジョージに向かって頭を下げた。

「えっ、ちょっと……」

「ジョージ君。娘を頼む。どうやら私は失敗したらしいが、父親として娘の邪魔をするつもりは無い。できるだけ娘の生きたいようにしてやりたい。手助けをしたい」

「お父様……ありがとう……」


 目を潤ませるミハルは感動に打ち震え、父としっかり握手を交わした。

「吾輩の意見は……」

「良かったじゃないか。弟子ができたぞ。それも敬愛だけじゃなく情愛もくれる弟子が」

 ニヤニヤと笑いながらヒロトに肩を叩かれ、ジョージはがっくりとうなだれた。

「嫌なら、きっぱり断ったら?」


 ユッカの言葉に、ジョージは首を横に振った。

「それはできん。これだけの情熱をもって機械人形に臨む人物はそうはおらん。……覚悟を決めて、しっかりと教育する。いずれ、吾輩からも興味を無くすだろう」

 ジョージはそう言うが、ユッカは逆だろうと思った。機械人形の技術を知れば知るほど、その出どころであるジョージへの尊敬は増大するだろう。


 ユッカはそれを伝えるべきか迷ったが、ヒロトが立ち上がり「では、あとは親子水入らずで」と宣言したので、伝える機会を失ってしまった。

 ミハルに捕まったままのジョージもさりげなく置き去りにされる。

「いやはや、お待たせしました」

 わけもわからずお茶会に参加していたアレクシたちを促し、次元転移門を開いたヒロトは爽やかに笑顔を見せた。


「こちらはお礼です。どうぞお受け取りください」

「ありがとうございます。大変でしたが、良い訓練になりました」

 ヒロトが差し出した飴を受け取り、アレクシは嬉しそうに笑った。

「おかげさまで、魔王ミハマンのダンジョンはより良いものになるでしょう」

 と、ヒロトが仕事ぶりを褒めると、アレクシは照れくさそうだ。


「お役に立ててなによりですよ」

 ヒロトはアレクシとしっかり握手を交わした。

 そこには、魔王の手助けをしたという事実などすっかり忘れて爽やかに笑うアレクシがいた。だが、他のパーティメンバーは複雑な表情だ。

「……結局、これって何だったの?」

 魔法使いのシグネが呟き、全員が顔を見合わせたが、誰も答えは持っていなかった。



「今後も継続して我が編集部の通販部門に協力してくれるそうだ。だが、研究所はこの世界ではなく、魔王ミハマンのダンジョンで製造と実験を行うそうだ」

 一度こちらへ戻ってきたジョージと話した編集長は、ヒロトとユッカを呼び出して最終的な状況を伝えた。

「……魔王ミハマンは、最終的にジョージを婿にして後を継がせたいそうだ。本人は微妙な……いや、面白い顔をしていた」


 あっはは! と編集長はトロール特有の大きな口を開いて笑う。

「よ、良かったですね」

 デスクを挟み、編集長の前にヒロトと並んで立っていたユッカが感想を述べると、編集長は突然真顔に戻り、太い人差し指でデスクを叩いた。

「本当に、そう思うかね?」


「うぅ……」

 実のところ、ユッカも今回の件はあまり良い取材だったとは考えていなかった。最終的にジョージを生贄にしてミハマンとの関係は壊さずに済んだが、一歩間違えれば大きな顧客を失うところだったのだ。

「編集長、終わりは良かった。グチグチと失敗を考えるよりも、将来の記事について考えましょう」


 口ごもったユッカに変わり、ヒロトが身を乗り出して編集長のデスクに手を置いた。

 その手には、取材で得たメモと写真がしっかりと掴まれている。

「機械兵を使ったダンジョンについて連載記事が六号分は書ける。通販の宣伝にもなるし、やっている技師は知った相手。やりやすいでしょう?」

「やれやれ……」


 椅子に巨体を預け、大きな軋みを鳴らした編集長は嘆息と共に苦笑する。

「今回の件はもう良い。その代わり、良い記事を書け」

「もちろん。それが俺たちの仕事ですから」

 どうだ、と言わんばかりにウインクするヒロトの脛をユッカは思い切り殴り飛ばした。

「何を“やりとげた!”みたいな顔しているのかしら?」


 偶然のそう収まっただけでしょ、とユッカが出ていくと、脛をさするヒロトに編集長が声をかけた。楽しそうに弾む声で。

「随分仲良くなったようだな」

「ええ、お陰様で……頼れる相棒ですよ」

 ユッカを追いかけるヒロトを見送り、編集長は眉間を押さえた。

お読みいただきましてありがとうございます。


機械とダンジョン編はこれにて終了です。

数日空けて、次エピソードを掲載しますので、よろしくお願いします。


※変な短編「デュラハンごはん」を掲載しました。こちらもよろしくです(^^)

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