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『月刊・魔王』編集部  作者: 井戸正善/ido
機械とダンジョン
16/23

15.機械とダンジョン(5)

15話目です。

よろしくお願いします。

 編集長への報告を済ませ、ジョージ・ザ・ラッドを呼びつけたヒロトは、再び魔王ミハマンのダンジョンへとやってきた。

 ユッカも以前と同じローブに魔法杖を抱えた装備で、気合い充分の表情だ。

「あの本か……」

 原因となった『週刊・はじめての機械人形』に関わったこともあり、ジョージは渋い表情だった。


「だとしたら、吾輩の技術が不法に流出したことになるな。これは大問題だ!」

 そうして、ジョージは抱えられるだけの機械兵を連れて参加していた。

 全員が息巻いて参加しているとはいえ、地道な待機が続くことになるのは必然だった。誰が犯人かわからない以上、機械人形に手を付ける相手が誰かを見極める必要があった。

 そのため、ダンジョン内の機械人形を入れ替えたうえで、最奥部に近い場所でキャンプを張る。


「お湯を浴びたい」

「わかった。じゃあ、二十分後に」

「短い。一時間後に迎えに来て」

 ヒロトが開いた転移門を通り、ユッカが自宅へ戻っていく。

「……なんて緊張感の無さだ」


「お前も人のことは言えんぞ」

 悪態をついているジョージだが、彼の周囲には機械兵の部品が広がり、彼の手には工具が握られている。

「吾輩は仕事をしている」

「嘘つけ。じゃあ、今作っているのは何をする機械兵だ?」


「……兵じゃない。運搬のための機械人形だ!」

「ほれ見ろ」

「早とちりするんじゃないぞ、ヒロト。これは吾輩が外出する際に荷物運びをするのに必要で……」

「外出なんてめったにしないだろうが」


 似たようなやり取りを繰り返しながら、三人は三日の間、適度に外に出て太陽の光を浴びながら健康的なダンジョン内待機をしていた。

 そしてようやく、目的の人物が現れた。

「来たみたい……」

 足音を察知したのはユッカだった、


 ユッカは眠っているヒロトたちを起こし、全員で待ち構えることにした。

 肩を揺らされて起きたヒロトは、すぐに状況を知り、地面に耳を当てる。

「……体重が違う足音が五つある。五人いる」

「では、予定通りにやるぞ」

 ジョージが待機させていた機械人形を一体起動した。これは相手の出方を見るための罠だ。通常通り戦って勝つならそれで良し。そのまま魔王ミハマンのところへ向かわせる。


 しかし、そうはならなかった。

 ヒロトが察知した通り五人パーティでダンジョンを踏破してきた者たちは、機械人形が現れたと見るや、手慣れた様子で担いでいた網を投げた。音からして、何かの有機的なものを素材にしているらしい。

「……ふむ。手慣れているな」


「感心してないで、よく観察しろ。お前が一番詳しいんだ」

 ヒロトが注意すると、ジョージはふふん、と鼻を鳴らした。

「その通りだ。吾輩以上に機械人形やその上位互換である機械兵に詳しい者などおらん」

 ヒロトたちと共に岩陰からパーティを観察していたジョージは、瞬きすら惜しいといった雰囲気でしっかりと目を見開いた。


 その表情は興味深いという様子から、じわじわと怒りの表情へと変化していく。

「……ジョージ? おい、ジョージ」

「どうしたの?」

 ヒロトたちの声かけにもジョージは反応しない。

 どういうことか、とユッカがパーティへと目を向けると、無理やりに四人がかりで機械人形を押さえつけ、残った一人が機能停止のスイッチを探していた。


 四人は戦闘慣れした体格と装備だったが、機械人形を触っている男だけは、小柄で痩せている。武器らしきものも持っていない。

「おい、早くしろ!」

「くそっ、結構力が強いな……」

 機械人形を押さえている男たちがぼやいているのを、小柄な男はへらへらと笑って流していた。


「まあ、待っていてくださいよ。ええっと……」

「高い金を払っているんだ。頼むぜ」

「はいはい」

 文句を言われながら、ようやく機械人形の機能を停止させた小男は、背負っていたザックからバインダーを取り出してめくり始めた。


「ようし、これで……」

 無理やり機械人形の一部をこじ開け、ファイルを見ながら小男は機械人形を改造していく。

「思ったんだが、その書物があれば俺たちにもできるんじゃないか?」

「冗談でしょう。こいつは単なる文字だけじゃない。からくりがわからねぇと……いや、からくりに精通してねぇと読んでもちんぷんかんぷんでさぁ」


 笑いながらバインダーの中身を見せられ、文句を言った男は舌打ちして目を逸らした。

「だがよ。止めたならそれで良いじゃねぇか」

「それじゃあ、すぐに魔王の部下が見つけて起動しちまう。一見普通に動いているように見せて、なおかつ挑戦者様方の邪魔にならねぇように、ってするのがキモなんでさぁ」

 会話を盗み聞きしながら、ヒロトは素早く話の内容をメモした。


 もしかすると同様のことが他の世界のダンジョンでも行われているかもしれない。注意喚起の意味も込めて記事にする価値がある、と直感したのだ。

 ふと見ると、ユッカもメモを取っている。

「ふっ」

 同じ直感を覚えたのか、それとも習慣づいてきたのかはわからないが、ユッカのその姿はなかなか記者らしいものだった。


「どうしたの?」

「いや、何でもない。それよりも、この状況で……」

 最後まで確認してから、と言おうとしたヒロトだが、先にジョージの方がぶち切れた。

 スイッチになった言葉は、小男の「こうして綺麗にふさいでおけば、中をいじったのは早々バレませんって」という言葉だった


「下手クソが! お前には機械人形に触れる資格はなぁい!」

 岩陰から飛び出したジョージは、真っ赤なルージュを引いた口から鋭い牙を剥き出しにして、筋骨隆々の身体に灰色の毛を伸ばしながら風の様な速度で駆けた。

「ああ、プッツンきたか……」

「何あれ、ワ―ウルフ? にしては、顔があんまり変わってないわね」


 一言で言えば、化粧をした中年男性の人面犬バージョンの人狼といったところだろうか。

 もっと短く言えば、“化け物”だが。

「う、うわあああ!?」

「なんだありゃ!? 攻撃、攻撃だ!」

 男たちの誰かが魔法を放ったのだろう、ダンジョン内に突風が吹き荒れたが、ジョージはものともせずに突貫する。


「け、剣を……!」

「遅い! スパナナックル!」

 あっという間に一人の前に肉薄したジョージは、スパナを握りしめた拳で相手の頬を思い切り殴り飛ばした。

「爪とかじゃないの?」


 ユッカの言葉に、ヒロトはゆっくりと首を縦に振る。

「爪が割れると作業に支障をきたすから、ジョージが戦う時は主に拳か蹴りだな」

「……スパナを握る意味は?」

「固いものを握ると、パンチの威力は上がる。常識だぞ?」

 どこの世界の常識だ、と呆れているユッカの目の前で、機械人形を押さえつける役だった四人のパーティメンバーは次々に殴られ、蹴り飛ばされて気を失った。


「……さて」

「ひいっ!?」

 目の前に立ちはだかる、化粧をした大男の人狼。

 尻もちをついた小男は、股間を濡らしながら声も出せずに震えている。

「お前が犯人か。覚悟はできているな?」


「は、犯人?」

 ジョージの視線から、バインダーのことだと気付いた小男は、素早く拾い上げて砂を払い落とし、両手で丁寧に持って差し出した。

「ひ、拾っただけなんです! 本当です! た、助けてぇええ!」

 もはや悲鳴に等しい懇願であった。


 だが、ジョージは許さない。

 ちらりと倒れている機械人形を見たジョージは、その頭部にある開口部が金属でがりがりと削られた跡を残しているのを認め、首を横に振った。

「報いを受けよ! スパナシュート!」

 両手に握ったスパナが曲がるのではないかという程に力が入ったジョージの蹴りが小男の腹を捉える。


 悲鳴を上げることもできず小男は天井に激突するほど跳ね上げられ、床に戻ってきた時には完全に気を失っていた。

「あれはスパナを握る意味あるの?」

 ユッカの質問に、ヒロトは「知らん」とだけ答えた。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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