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『月刊・魔王』編集部  作者: 井戸正善/ido
機械とダンジョン
15/23

14.機械とダンジョン(4)

14話目です。

よろしくお願いします。

※本日二度目の更新です。ご注意ください。

「やはり、何者かの手によるものか」

 ヒロトからの説明を受けて、魔王ミハマンは納得した様子だった。

「しかし、そうなると誰がやったか、という話になるな」

「誰でもできる、というわけではありません。魔力を動力にした機械人形に関する相当な知識が必要です」


「そうか……」

 魔王ミハマンには心当たりがない様子だった。

 彼自身は本来生物としての魔物を使役する能力はあるが、からくりから機械関係に関して多少はわかっていても、製造どころか改造も不可能なレベルでしかない。

「となると、侵入者によるものか。そういえば、ミハル」


 いわゆる玉座として普段の居場所にしているところから、背後に向かってミハマンが呼びかけた。

 先日もそこからミハルが顔を見せた通り、そこに住居スペースがあるらしい。もちろん、ヒロトは入ったことは無い。あくまでビジネスとしての関係を貫く、とユッカに宣言したこともあった。


「お父様? ……あっ、こ、こんにちは」

 おどおどと挨拶をするミハルに、ヒロトは疑問を感じたがすぐに理由が判明した。

「昨日話した通り、彼が調査をしてくれた。やはり何者かが機械人形を改造しているらしい。困ったものだ……」

「そ、そうなの? 何かのぐ、偶然とか、事故とか、そういうのじゃなくて?」


「うーむ……」

 ここまであからさまに狼狽える姿を見てしまうと、指摘するのも気を遣うな、とヒロトが迷っていると、ユッカがずんずんと歩き出した。

「おい、待っ……」

「そんなにおどおどして、何か気になることでもあるんですか?」


 はっきりと口にするユッカに、ヒロトは頭を抱えた。

 その隣では、ジョージがニカッと笑っていた。

「わ、わたしは何も……何も知りませんっ!」

「ミハル!?」

 娘に対して突然問い詰めたユッカに不快感を見せていたミハマンは、ミハルが突然走り出したことに驚いた。


 そして、二十メートルと走らずに転んだ。

「白だな」

 倒れたミハルは短めのスカートだったこともあり、転んだ拍子に何かがちらりと見えたのだが、ヒロトは黙っていた。

しかし、ジョージは確認するように頷き、ユッカが睨みつける。


「最低ね」

 吐き捨てるように言うと、倒れたミハルに駆け寄り、声をかけながら抱えあげた。

「大丈夫? 変なことを言ってごめんなさい。別に貴女を責めているわけじゃないのよ。何か知っているんでしょう? それを教えて欲しいだけなのよ」

「でも、わたしのせいで……」


 泣き始めたミハルの背中をさすりながら、ユッカは「大丈夫」と繰り返して落ち着かせ、立ち上がらせたミハルの服に付いた砂埃を落とした。

「魔王ミハマン様。良かったらミハルさんのお話を聞くのに、お部屋をお借りしたいのですが」

「あ、ああ……わかった」


 突然のことに呆然としていたミハマンは立ち上がり、裏にある応接のための一部屋へとユッカを案内しようと言った。

「俺たちも……」

「貴方たちは、ここで魔王様と待機していて」

「私もか!?」


 ヒロトの同行だけでなく、自分の同行も断られたことに驚くミハマン。彼に対してユッカは「女同士で落ち着いて聞きたい」と言って断りを入れた。

「そういうことなら、仕方がないな。こういう時に女親がいれば違ったのだろうが……済まんが、頼む」

「お任せください」


 では、と部屋の場所をミハマンに確認し、ユッカはミハルを支えるようにして奥へと消えていった。

「……機械人形の話でもしましょうか」

「……そうだな」

「では、吾輩から新作についてお話させていただくとしよう」


 手持無沙汰の三人は、ユッカたちが戻るまで延々と技術や配置について話し込んでいた。

 それぞれの理論が同調したり相反したりと盛り上がり、いつしか酒も入った三人の話し合いは宴会のようになっていく。

「この男たちは……」

 ミハルからの聞き取りが終わり、泣きつかれた彼女を寝かせてきたユッカが戻ってきたときには三人は完全に酔いつぶれており、床で横になって寝てしまっていた。


「とにかく、このままじゃ帰れないし、話の続きも無理ね」

 そういうと、ユッカはこの部屋に置きっぱなしにしていた魔法杖を拾いあげ、寝ているヒロトの腹に向かって振り下ろした。

「ぐえっ!? ああ、ユッカか……。もう少し穏便な起こし方が……」

「貴方も見たんでしょう?」


 何を、とは聞かなかった。

 酒に強いヒロトは、すぐにユッカが指しているのがミハルのスカートから見えた白い布のことだと気付いたからだ。

「事故だろう? 不可抗力だし……」

「すぐに目を逸らすくらいの気づかいはするべきでしょう」


 それ以上の反論を許されなかったヒロトは、理不尽なものを感じながらミハマンを室内へと運びこみ、ジョージを背負った。

「さあ、帰りましょう」

「結局、ミハルさんがやったのか?」

「違うわ。詳しいことは、編集部で」


 次元転移の門を広げたヒロトは、ユッカのペースになっていることに苦笑しながらも、まあ良いかと考えて、ユッカを先に潜らせた。



 翌日。

「今回は迷惑をかけたな」

 わずかに二日酔いの様子を見せる魔王ミハマンは、眉をひそめてそう言った。

「いえ。まだ完全には解決しておりませんし、今回の件は私どもにも問題が無いとは言えませんし……」


 互いに遠慮がちな謝罪をしているヒロトとミハマンを見て、ユッカは腕を組んで口をとがらせていた。

 結局、ミハルは直接の犯人ではなかったらしい。

 だが、丁度機械人形の不調が始まる少し前にミハマンの書斎から「楽しそう」と思ってこっそりと数冊の雑誌が挟まったバインダーを抜き出して読んでいたことが問題だった。


 雑誌には機械人形の扱いについて書かれており、毎号付いてくるパーツを集めると一つの機械人形が完成するというものだった。ちなみに創刊号だけバインダー付きで半額だ。

 それを読みながら、ミハマンの目を盗んでダンジョンの機械人形を一つ、自分用に改造しようと考えたらしい。

 だが、あまりの難しさに途中で放り出し、ダンジョンの中でバインダーごと紛失してしまったらしい。


 ヒロトが謝っているのは、その雑誌が彼の手によるものだったからだ。

「『週刊・はじめての機械人形』が原因になるとは……」

「ふむ。私もあのバインダーが無くなっているとはまるで気づかなかった」

 ミハルは今、反省して自室にこもっているらしいが、彼女から聞き出した内容をユッカが丁寧に説明すると、ヒロトもミハマンも互いに微妙な表情で顔を見合わせた。


「で、最終的にはその雑誌を拾った“誰か”の仕業ってことになるわね」

「そうなると、やはり外部から入ってきた連中が犯人である可能性が濃厚だな」

 ユッカとヒロトが現状をまとめる。

「あの雑誌には結構重要な技術が載っているんだ。回収しないと後で面倒になるかも知れないぞ」


 そこが問題となって、雑誌は1シリーズ出ただけで廃刊になっている。

 作業が煩雑化したことや、売上が今一つだったことも原因だが、世界によっては革新的すぎる技術であり、“魔王の恐るべき技術”であるうちはまだしも、外部へ漏えいした場合の世界に与える影響が懸念された、というのもある。

「……馬鹿じゃないの?」


「その時は編集長もノリノリだったんだよ……」

 頭を抱えて、ヒロトは解決策をひねり出そうとしているようだ。

「ジョージも深くかかわっているからな。……ミハマン様、今回の件は我々も最大限の協力をさせていただきます」

「娘の不始末だが……」


 遠慮しようとするミハマンに、ヒロトは「気にせず」と言いながらも、メモ帳とペンを取り出して行った。

「ただ、今回の件はミハマン様の名前を伏せたうえで、注意すべき点、失敗例として記事にさせていただきたいのですが」

「わかった、わかった。お任せしよう」


 こうして、解決のためにヒロトとユッカはジョージを連れてダンジョン内で見張りを行うことに決めた。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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