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『月刊・魔王』編集部  作者: 井戸正善/ido
機械とダンジョン
12/23

11.機械とダンジョン(1)

ではでは、第二エピソードを開始します。

よろしくお願いします。


――――――――――――――――――――――――――――――――


今月の『月刊・魔王』は!

・グラビア:クール系? キュート系? バラエティ豊かな女幹部特集! 第三弾

・一手御指南:ダンジョンにあえて宿を作る意味とは

・決戦バト論:テーマ『本拠地の魔物は統率すべき? 放牧でOK?』

・フィニの直撃インタビュー:ゲスト『とある世界の魔王挑戦者』

・連続小説『追憶 第39話:出会いの果て』

  etc…

 ユッカは三日間の休みをもらい、久しぶりの出社だった。

 地獄のような編集作業のあと、コポポの印刷作業を見学し、転送魔法を使った配送作業を終えて休暇を貰ったのだ。

 ヒロトは大口の顧客へ直接手渡しでの配送を行うため、休みなく出社している。

「おはようございま……何これ?」


「ああ、おはよう」

 編集部内の一部を占領している応接セットが壁面に寄せられ、床にはいくつかの金属の塊が広げられている。

 そこに座り込んでいたヒロトが顔を上げて挨拶すると、手に持っていた金属を床に置いた。


「雑誌の後ろの方に、通販のページがあるだろう? そこにあった機械兵のパーツの一部なんだが……今日取材に行く魔王から新しい入荷分を頼まれていたから、チェックをしていたんだ」

「機械兵? 前の号でも特集を組んでいたあれね」

「その通り。あれを見て発注してくれたんだが……」

 苦い顔で頭を掻いたヒロトは小さくため息を吐いた。


「何かあったの?」

「発注した魔王から、実地試験の協力を頼まれてる。それは検証記事になるから構わないんだが、理由がわからない問題が起きているらしい」

 言いながらヒロトが『ぺちっ』と叩いた金属の塊は、ヒロトの魔力に反応して小さな犬の様な形に変化して部屋を走り回ったあと、丸まってまた塊に戻った。


「可愛い。けど、可愛いんじゃ駄目でしょ」

「今は試運転モードだから、これで良いんだよ。モードを切り替えれば、近くに来た相手を無条件で襲うようになっている。頑丈だし、小さくてすばしこいからなかなかやっかいだぞ」

「じゃあ、何が問題なの?」

「それが……一部の機械兵が敵を襲わなくなったらしい」


 最新号と商品を届けるついでに、ヒロトがそのダンジョンを探索して確認するらしい。

「そういうのは作った人が行くものじゃないの?」

「だよなぁ……だから、今は編集長がそいつのところに行って話をしているんだが、あのアホは極端な出不精だから、時間もかかる」

 顧客を待たせて二次クレームになるよりは、先に状況確認だけでもしておこう、ということになったらしい。


「それでヒロトが行くわけね。貴方なら多少強力な機械兵でも平気ってことで」

 ユッカはヒロトの戦闘力について評価しているのだが、まだ詳しいことは知らないままだった。

 そのことを思い出したユッカは、良いことを思いついたとばかりに笑みを浮かべる。

「私も行くわ。取材も兼ねているんでしょう?」


「でもなぁ。この前の魔王グラファンの城とは比較にならないくらい危険だぞ?」

「任せて! わたしはそれなりに強いし、回復魔法だって得意なんだから。ヒロトが失敗して怪我しても、すぐに治してあげるわ!」

 出発の時間を早々に決めたユッカはデスクにバッグを置き、靴を履き替えていそいそと準備を始めた。


「回復魔法か。それも俺には効果が無いんだが……」

 どうやら他にアピールポイントが少ないらしいユッカのことを考え、ヒロトはその言葉を飲み込んだ。

「さて、そうと決まったらさっさと準備しますかね」

 注文された物が揃っていることは確認できたので、大きなカバンを持ってきてどんどん詰め込んでいく。頑丈なので衝撃はあまり気にする必要は無い。


「魔王ミハマン。……あの地下ダンジョンか。湿気が強くて不快指数高いんだよなぁ」

 ボヤくヒロトの前に、準備万端のユッカがやってきた。

 スーツの上からローブを羽織り、短い杖を握りしめている。

「久しぶりに着たわ。どう?」

「魔法使いっぽい」


「ぽい、じゃなくて本当に魔法使いなんだけれど」

「はいはい。じゃあ早速行くか」

 次元移動の門を開いたヒロトに続き、不満げなユッカは表情に反して軽やかな足取りで門をくぐった。

「ダンジョンって久しぶり!」



「こんなのダンジョンじゃないわ!」

 と、ユッカは薄暗い洞窟の中で叫んだ。

「うるさい」

「だって、これ……」

 ユッカが指さしたのは自分が立っている足元の地面だった。


 周囲が湿っている地下ダンジョンだが、ユッカの周囲だけはより水気が増し、地面はぬかるんでいる。

 そして、今も周辺で一体の機械人形が水を撒き続けている。

「……これも?」

「うちの雑誌で通販しているやつだな」


 機械人形の頭を捕まえて、ヒロトはじたばたと暴れる人形の後頭部にあるスイッチをオフにした。

 ガックリと脱力する機械人形を、ヒロトはじっくりと見て回る。

「どうしたの?」

 つま先立ちでぬかるむ地面から脱出したユッカが、ヒロトの肩越しに機械人形を見つめる。


「……本来、こいつはもっと強力な溶解液を流して深い泥沼を作る機能があるはずなんだが。粘性の高い泥沼で、一度落ちると一人ではまず抜け出せず、そのまま窒息死する」

 さらに、時間が経てば元通りの地面に戻るので、救助が来ても沼は跡形も無く、被害者は地面に埋まったままになる。

「こわっ!」


「そう。本来はそれだけ強力で怖い機械人形なんだが……」

 首をかしげつつ、ヒロトはユッカと共にさらにダンジョンの奥へと進んでいく。

 足元を転がるように動き回り、脛を斬りつけて機動力を奪うはずの機械人形は刃があるはずの尻尾をもふもふの毛に変えられてただくすぐったいだけになっていた。

 そして、猿のように洞窟内を飛び回って死角から襲うタイプの機械人形は、単に荷物を奪って逃げるだけだった。


「観光地のサルか!」

「それ、どういう意味……きゃっ!?」

 後ろから悲鳴が聞こえ、ヒロトが振り向く。

 そこにはユッカの腰から上が地面から生えていた。

「お腹苦しい……」


 どうやら回転するタイプの落とし穴に嵌ったらしい。回転速度が速すぎたのか落とし穴の範囲が狭すぎたせいか、穴の淵と板に挟まって引っかかっている。

「苦しい、で済んでよかったな。首を挟まれていたら即死だ。それに……」

 片手でユッカのスレンダーな身体を軽々と引き上げたヒロトが、穴の中を指差す。

「うわぁ……」


 穴底には、鋭利な刃物が上を向いて哀れな被害者を待ち受けていた。

「こんな……」

 ごくり、とユッカが喉を鳴らす。

「これが、沢山の犠牲者を……」

「いや?」


 よく見ろ、とヒロトは笑った。

「綺麗な刃だ。周りにも土以外何も無いだろう? 恐らくは誰一人として底まで落ちた奴はいないな」

「なによ、もう!」

 真剣な表情で慄いていた自分が馬鹿らしくなったのか、ぷりぷりと怒ったユッカは、どすどすと足音を鳴らしながら先へと進む。


「おい。気を付けないと……」

 致死性が低いものばかりではあるが、罠がそこかしこにあることには変わりない。

 油断させたところで即死するような罠を仕掛けている可能性もあるのだ。

「うきゃっ!?」

「ユッカ!」


 注意しようとした矢先、何かのスイッチを踏んだらしいユッカに、壁からガスのようなものが噴き出した。

 慌てて駆け寄ったヒロトの前で、ふらふらと揺れたユッカは、すぐに力なく倒れた。

「おっと」

 どうにか間に合ったヒロトが抱き留めると、ユッカはぐっすりと眠りについていた。見る限りではそれ以外に異常は無い。


「やれやれ……」

 ユッカを肩に担ぎ、落ちていた杖は鞄に放り込む。

「とにかく、魔王ミハマンに会おう」

 足早に歩き始めたヒロトは、以降も次々と罠や機械人形を発見するのだが、どれも一言で『ポンコツ』だった。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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