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4 お局様、人生計画を決める。

 アンナは、「お医者様は、意識がもどられても今日一日ゆっくり休むように、っておっしゃってましたよ」と言って、セレーネを再びベッドに押し込み、部屋を出ていった。


 だが、さんざん寝たせいだろう、まったく眠気が訪れない。

 ちょうどいいから、これからの人生設計を立てようと、セレーネは決めた。

 どんな仕事も、ある程度の予定を立てないと、だいたいスケジュールも計画も破たんするものである。


 セレーネは玲子の記憶を探る。


「魅惑の学園 ~平民乙女の夢物語~」はその名のとおり、平民であるヒロインが、実は男爵家の落としだねであることが発覚。貴族たちだけが通える「貴族学園」に入学して、エリートイケメンと恋に落ちるという乙女ゲームだ。


 正直、ヒロインがエリートイケメンと恋に落ちるのは問題ない。好きなだけイチャついていただきたい。

 ただ、仮にヒロインが王太子ルートに進んだ場合、セレーネにとってマイナスに働きそうな要素もある。


 まずは、セレーネがヒロインに嫌がらせをし、王太子に婚約破棄をされること。


 今のところセレーネは王太子になんら特別の感情を持っていない。そもそもいまだ会ったこともない人物だ。そのため、ヒロインに嫌がらせをする理由もないし、婚約破棄などされても、精神的には痛くもかゆくもないのだが。


 ――婚約破棄をされた女って、完全な事故物件だろうな。


 王太子の婚約者になっていながら、それを破棄される。

 それは、女性にとって不名誉なことこの上ないだろう。

 仮に、セレーネ自身に何ら責がなかったとしても、世間の人々は好き勝手に噂をする。

 そうなったら、修道院に行くか、脂ぎった親父の後妻にはいるかのどちらかの道しかないに違いない。


 そして、なによりもセレーネにとっても困るのは、ゲームどおりに進むと、実家の不正が暴かれ、爵位剥奪のうえ、国外追放、一家離散となることである。


 すべてを奪われ、国外追放となった貴族の未来など、真っ暗だ。

 セレーネも、おそらく野盗に襲われ、娼館に売られるのがいいところだろう。

 さすがにそれはつらい。


 そうならないためには、波風の立たない人生を送るべく、大人しく、目立たないように生きるのがベストなのだろうが……


 ―― 一度しかない人生、大人しく生きるだけに使うのはもったいない。


 ある意味、二度目の人生だが、そこは見ないふりをする。


 ――私は、自分の力の及ぶ限り努力をして、そしてその努力が認められる人生を送りたい。


 セレーネの心に沸々と湧き上がる、切望ともいうべき感情。


 玲子として生きているときには、努力が認められることはなかった。

 能力を誇示し、それでもたどり着けた地位は「お局様」。

 自ら決めた立場だったが、どんなに能力があったとしても、それ以上は認めてもらえないという辛さはあった。


 玲子にも、そして転生後のセレーネにも特別な能力があるわけではない。

 物語にありがちな、転生ボーナスだってない。

 おそらく、セレーネはごくごく平均的な人間だ。


 でも、だからこそ。

 できる限り努力して、後悔のない人生を送りたい。


 おそらく、前世よりはうまく生きられるだろう。

 なぜなら、セレーネには玲子の経験と、知識がある。

 玲子の時には不器用で、上手く世渡りができなかったが、数々の苦汁をなめた経験があるからこそ、生まれ変わったセレーネは様々なことに対応できるはずだ。


 男性社員に「可愛くて、いい子」と言われていた女の子たちにも、今ならば対抗できる。このお局スキルで!


「よし、決めた! 私、この世界で精いっぱい生きる! なるべくまっすぐに、でも要領よく!」


 拳を振り上げ、決意する。

 が、ふっと我に返って恥ずかしくなり、コホンと咳払いをした。


「まずは、基本方針よね」


 なんだか気分を出したくて、ベッドを抜け出すと、書き物机から紙とペンを取り出した。



【大前提】

 悔いなく生きる。精いっぱい努力する。



 子供のような目標だが、そういったシンプルさが大事なのだとセレーネは知っていた。


【最終目標】


 次の項目で、早くもセレーネは考え込む。

 この世界で、女性の最高位といえば、やはり王妃だ。

 だが、確かにセレーネは精いっぱい努力をして、自分の実力でいけるところまでいきたいが、それは決して王妃になりたいというわけではない。

 というか。


 ――王妃の仕事って、やりがいはあるかもしれないけれど、楽しくなさそうだよねぇ。


 ある意味国を動かす仕事である。

 やりがいは恐ろしいほどにあるだろうが、全国民の命を背負って働くなど、荷が重すぎる。やりがい以前に、責任感で自滅しそうだ。

 仕事を蔑ろにすることができない自分には向かないだろう。


 それでは、自分がやりたいこと、できることとは、なんだろう? とセレーネは再度考えた。


 ――嫌いじゃないのは、計算、書類作り。前世の職場環境は最悪だったけれど、仕事自体は、うん、嫌いじゃなかった。


 しばらく考え込んだあとで、セレーネは大きくうなずき、再びペンを動かした。


【最終目標】

 自立した女役人。実力で出世し、官僚になる一歩手前まで。



 やはり現場で働きたい。パワーゲームに入り込むと、泥沼になりそうだ。


【そのためにすべきこと】

 1.実家を更生させる。

 2.王太子と婚約しないようにする。あわせて、結婚の自由を手に入れる。

 3.ヒロインと出会ったとしても、いじめない。

 4.事務能力を磨き、職場を確保する。その力を周囲に認められるように立ち振る舞う。

 5.人に虐げられないようにする。踏み台にされるぐらいなら、踏み台にしろ!!



「どれも、ちょっとハードルが高いかな……でも、やらないと、きっと後悔する」

 セレーネは自分が書いたものをじっと見つめながら、うなずいた。


「よし! じゃあ、今回の人生、楽しく過ごせるように頑張るぞ!」



 ★★セレーネの人生計画★★


【大前提】

 悔いなく生きる。精いっぱい努力する。


【最終目標】

 自立した女役人。実力で出世し、官僚になる一歩手前まで。


【そのためにすべきこと】

 1.実家を更生させる。

 2.王太子と婚約しないようにする。あわせて、結婚の自由を手に入れる。

 3.ヒロインと出会ったとしても、いじめない。

 4.事務能力を磨き、職場を確保する。その力を周囲に認められるように立ち振る舞う。

 5.人に虐げられないようにする。踏み台にされるぐらいなら、踏み台にしろ!


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