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3 お局様、社会人スキルを駆使する。

 セレーネのセリフに、ユーナがぎょっとした顔をする。

 アンナまでもが驚いた顔をしてセレーネをまじまじと見てくるが、とりあえず見て見ぬふりだ。


「ユーナ? こたえてくださる?」


 あくまでも優しく言うと、ユーナは目をきょろきょろとさせた。

 ――落ち着きのない子だな。

 もしかして怒られ慣れていないのかもしれない。

 というか、黙って聞いているか、謝るかすればいい怒られ方しかしていないのだろう。

 こういう追い詰められるような怒られ方は初めてなのかもしれない。


「あ、あの、何回かと言われましても、その……」

「おぼえていないの? でもほんとうにはんせいしているのなら、おぼえているのではなくて?」


 棘をひそませて言うと、ユーナがますますぎょっとした顔をする。


「その、あの、申し訳ありません! お許しください、セレーネ様!」

「ユーナ?」

 セレーネは首を傾げ、無邪気さを装う。


「あのね? あやまってほしいわけではないの。あなたが、おそうじのことについて、なんどちゅういをされたのか、おしえてほしいのよ」


 ユーナがぶるぶると震え始める。


「その、何度かと言われると、その……」

「おぼえていないの? それって、はんせいしていないってことじゃないかしら」

「そんなことはありません! いつも細心の注意を払って掃除しています!」

 ユーナが訴えかけるように言う。

「そう。じゃあ、ちゅういされたことはおぼえていて、いつもきをつけて、おそうじしているのね?」

「はい! そうなんです!」

 助かった、という表情で元気よく言うユーナ。

 だが、セレーネはユーナを助けようと思ったわけではない。


 ――よし、言質は取った。


 セレーネは内心にやりと笑うと、表面上はこまったような表情をつくって口を開く。


「そう、おぼえていて、それでさいしんのちゅういをはらっても、きちんとできないのなら、きっとユーナはこのおしごとがむいていないのね」


 ユーナの顔がぎょっとしたものになる。


「えっ……」

「あわないところではたらくのも、つらいでしょう。おとうさまにそうだんして、ユーナにむいたところに、たんとうをかえてもらうわね」


 つまるところの左遷である。

 が、それを明確に言わず、あくまでも「あなたのためなの」を押し出す社会人スキル。

 前世で何度食らったことか……

 よみがえる苦い記憶に思わず顔がゆがみそうになる。


 ――ダメダメ、今は大事な場面なんだから。


「じゃあ、あたらしいはいちは、セバスからつたえてもらうわね。きょうはつかれたでしょうから、ゆっくりやすんでね、ユーナ」


 最後はにっこりと笑う。

 ちなみにセバスとは、ヴィクトリア侯爵家の執事のことである。


 呆然としているユーナの背中を押すようにして、アンナが部屋の外に出す。


 ――たぶん、ユーナ、状況を理解できていないだろうな。


 扉を閉めると、アンナはにこにこと笑いながら戻ってきた。


「セレーネお嬢様、ずいぶんとしっかりなさいましたね。――いつもいつも、セレーネお嬢様は、侍女の失敗を庇って……。ええ、アンナはわかっておりました。ですが、そのお優しさが、いつかお嬢様を傷つけるのではないかと心配しておりました」


 どうやらアンナは、セレーネが使用人のことを庇っていたとわかっていたらしい。


「お嬢様が怪我をなさって、本当にユーナのことは許しがたいですが……こうして、お嬢様がしっかりなさったということは怪我の功名というやつなのかもしれませんね。お嬢様、アンナはセレーネお嬢様が誇らしゅうございます」


 ――ちょうどいい、ここでちょっと伏線を張っておこう。


 玲子の記憶が戻ってしまったから、これまでと同じように無邪気には暮らせない。今回の件で、いろいろと目覚めたことにしておけばちょうどいい。


「あのね、アンナ。わたくし、きがついたの。しっぱいしたじじょがかわいそうで、かばってしまっていたけれど、それだけではひとはせいちょうしないのだと。これから、ときどき、ひとにきびしいことをいうかもしれないけれど、アンナはわたくしをしんじてくれる?」

「ええ、ええ! もちろんですとも! 本当にセレーネお嬢様はしっかりされて……うぅ、アンナは嬉しゅうございます」


 涙を拭うアンナ。


 ――よしっ、これでアンナはオッケー。お父様やお母様、お兄様たちにも同じ手で行こう。あとはこれからの人生設計を考えなくちゃね。



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