13 お局様、家庭教師を選考する。(1)
勉強したいので家庭教師をつけてほしいと言うと、父・パトリックは、ものすごく喜んだ。
どうやらこれまでセレーネはおねだりをしてきたことがないらしい。
初めてのおねだりに、パトリックは「必ずやセレーネが満足する家庭教師をつけてやる!」と張り切った。
ちなみに母・エリザベスは「勉強なんて、もっと大きくなってからでいいのに……。お母様は、セレーネちゃんともっと遊びたい!」と泣き、兄たちは「セレーネはお兄様が一生大事にするから、何も心配しなくていいんだよ」とたしなめた。
家族の愛が、実に重い。
――っていうか、これ本当に悪役一家なの?
実に愛情豊かで、まっとうな家族に見える気もするが、どうだろうか。
――この重すぎるセレーネへの愛が、どこかで暴走しちゃったりして。
セレーネはぶるりと震えあがる。
あまり考えないことにしよう。
少なくともユーナの件について話したときの父親は、驚くほど真っ当だった。
だから、大丈夫だろう、たぶん。というか、大丈夫であってください。
願わずにはいられないセレーネだった。
***
1週間後。
「セレーネ様。明日、家庭教師候補の方がいらっしゃいますので、顔合わせをお願いします」
と、セバスに言われたセレーネ。軽い気持ちで頷いたのだが……
――なんだ、これ!?
セレーネはおののいた。ワサワサといるのである、その家庭教師候補とやらが。
そもそもセレーネが連れていかれた場所が、おかしい。
ヴィクトリア侯爵家が小規模なパーティーを開くときにつかう、中ホールである。
100人は軽く入る空間だ。
「え……セバス、このかたたち、みなさん、わたくしの家庭教師候補なの?」
おそるおそる尋ねたセレーネに、セバスが重々しくうなずく。
「はい、セレーネお嬢様。お好きな者をお選びください」
――選べって、この中から!?
のけぞりかけたセレーネは、ハッと気が付いた。
もしかして、これは父・パトリックがセレーネに与えた課題なのではないだろうか。
先日、侯爵令嬢としての在り方を問われた。
それをまた、問われているのではないかと考えたのだ。
――だとしたら、真剣に選ばなくては……
セレーネはキランッと目を光らせた。
お局様眼鏡があれば完璧なのに、それがないことが悔しくてならない。
――まずは、何をチェックすればいい?
めまぐるしく頭を回転させるセレーネ。
その隣でセバスが遠くを見るような目でつぶやく。
「セレーネお嬢様の初めてのおねだりに、旦那様がひどく張り切ってしまわれて……。大々的に告知を打ったら、このありさまでございます。既に、身元の照会と学力の確認試験は済ませております。それを突破した者だけを残したのですが、それでも人数が多く……あとはお嬢様のお好みでお選びください」
「えぇ~~……?」
どうやら気張らなくてもよかったらしい。
ほっとしつつも、セレーネもまた遠い目をする。
家庭教師として問題がない人物を選んで、この人数……どれだけの応募があったのか、考えたくもない。
――っていうか、お父さま、はっちゃけ過ぎ!
セレーネは深くため息をついた。
とはいえ、この中から選ばなくてはならない。基本的に問題のない人物たちばかりのならば、それこそ顔で選んでもいいということだ。
各自の能力に多少の差があったとしても、基本的にセレーネはこの世界についてほとんど知らない。初期の家庭教師を選ぶのに、それほど神経質にならなくてもいいだろう。
――なるべく付き合いやすそうで、できればイケメンのほうがいい。せっかく侯爵令嬢として転生したんだから、そのぐらいの楽しみがあってもいいしね!
セレーネは大きくうなずいた。




