舞台の上で ~七夕劇~
おはこんばんちは。どうもTitanです。今回のお話に出てくる二人は、『花火の下で』の二人でもあります。良かったらそちらもどうぞ。
ちなみに今日(投稿日)、8月7日は月遅れの七夕祭りでもあるんですよ!
ある小学校の教室では、次の次の劇に出る人を決めている最中でした。黒板には『七夕劇 織姫 彦星 ……』と横に書かれています。
梅雨の時期だからでしょうか、天気はどんよりとした曇りです。
「だから! 井田には無理だって!」
「井田には、ってどういうことだよ! あんま井田いじめんなよ!?」
「あ、あのー、私、井田じゃなくって……市……」
少女の言葉は周りの少年たちによって遮られてしまいました。二人の少年が声を荒げて言っているのは、実はこの少女――井田 詞織のことです。
詞織は今にも泣き出しそうなくらい目に涙を浮かべて、
「もう止めてよぉ……」
泣き出してしまいました。
「織姫はもういいからっ、ケンカしないで……」
詞織の泣き顔を見ると、少年はすぐさま駆け付けました。
少年の名前は諸星 冬彦といいます。
冬彦は詞織のことをよく守っています。
冬彦は別段、詞織のことが好きというわけではありません。ただ、人を助けることでの優越感、自己満足感に浸っている……というと言い過ぎですが、だいたいこんな物なのです。なにせ、口癖は『人を助けてメリットは無いかもしれないけど、デメリットもない』ですから。
その恩恵を知らず知らずのうちに受け取っている詞織もまた、冬彦に好意を抱いてる訳でも、特別な意識を持っている訳でもありません。……いえ、気付いていないだけ、ということもできます。
冬彦は詞織を守るとき、今回のように表立って守ることもありますが、陰から守ることもあります。
今回の詞織を守る理由は、“七夕祭りの演劇”の役決めによるものでした。この二人が通っている小学校の五年生は代々、七夕祭りで演劇をやることになっているのです。
毎年、役決めにはそこまで時間がかからず、練習に時間をかけるのですが、今年は違いました。
なぜなら、詞織が織姫役に立候補したからです。
余談ですが、詞織がよくいじめられるのは、“可愛い”からです。ようは、少年らは好きな子だからこそちょっかいを出したくなってしまうのですね。
立候補したあとの教室は大沸騰。
「井田に織姫なんか務まるわけねーよっ」
「そ、そうだそうだー!」
「無理だよ!」
素直になれない少年たちの、詞織に振り向いてほしいからこその嘘でした。哀れですね。女の子には優しくした方が嫌われないということを知らない少年たちよ……。
哀れ、本当哀れ。ぷーくすくす。
「そんなことないよ、井田かわいいじゃんか」
「ふぇ?」
冬彦が不意に言いました。それを上手に聞き取った詞織は、顔を赤くして、
「な、なに言ってるのっ!?」
また、同じく聞いた男子たちも、
「諸星は井田のことが好きなのか!」
「相合傘書こう!」
「書こう書こう!!」
自分たちの気持ちを押し込めていいました。
(諸星くんが私のこと......? あり得ないよ、私みたいな子......)
ぶんぶんと頭を振る詞織。それでも冬彦が自分のことを本当に好きだとしたら......と、つい考えてしまいます。
「しーちゃん、良かったねー!」
友達もそう言うので、詞織はすっかり上機嫌になりました。
「それじゃあ、役はこれでいいわね?」
隣のクラスの先生が聞きやすい声で聞きました。
詞織に反対していた男子も、冬彦の発言でそれどころではありませんでした。
なにせ、運動も勉強もそこそこできる、クラスの人気者があんなことを言ったのですから。
けれど、とにかく、役決めは終わりました。
これでやっと練習が始められます。
しかし......。問題が起きました。
台本を読み進めていくと、なんと、『彦星が織姫を抱きしめる』というシーンがあったのです。
「......あの、諸星くん? これって」
「うん? ......へ!?」
台本を確認した冬彦は固まりました。声にならない声を発しながら、台本と詞織を交互に見ました。
「こ、これ、どういうこと......!?」
「分かんないよぅ」
「それじゃあ、一回中断して、先生に聞きにいく?」
「そうしよっ」
「先生! これどういうことですか?」
冬彦が台本の、問題のシーンを見せながら問いました。後から息を切らしながら詞織が追い付きます。
先生は少し考えて、
「いいですか? この台本は代々引き継がれているものよ、これを変えるなんてことは出来ないわ」
「それじゃあ、私たちはこれをやらなきゃいけないんですかっ!?」
やっぱり先生は少し考えて言います。
「そういうことになるわね」
言われて二人は顔を見合わせました。
(私が、諸星くんと?)
(おれが、井田を?)
((ムリだよ!!))
二人の気持ちは綺麗に同調しました。
けれど、二人の気持ちがどうであれ、劇はやらなくてはいけません。そもそも詞織は、自分から立候補したのですから。
「あの、その、えっと......。よろしくお願いします!」
顔を赤くしながら詞織が言って、恥ずかしさのあまり、その場から逃げ出してしまいました。
「えっ!? 井田!?」
◇ ◇ ◇
(ふぇーん! あんなの......私にはムリだよぅ――っ!!)
詞織は走りました。周りが見えていなくて、何度か人に当たりましたが、構わず走り続けました。そうして走って走って走るうちに、体育館の生徒立ち入り禁止エリアに入ってしまいました。
(あれ? ......あ、ここ、入っちゃダメなところだ。早く出なきゃ)
そう思った矢先。
ガチャン
「え?」
なんと、詞織は閉じ込められてしまいました。犯人には犯行の自覚がありません......というのも、開いていたから閉めただけです。まあ、つまり閉めたのは先生なのですね。
「だ、出してー! 誰かー!」
必死に呼びますが、誰も聞くことが出来ません。詞織はこのまま閉じ込められたままになってしうまうのでしょうか? しかしまあ、きっと大丈夫でしょう。なぜかって? それは――、ああ、近付いて来ましたよ。詞織にとっての――救世主の足音が!
たったったったった――――――。
「――田」
(え? 声?)
詞織は扉の奥から聞こえた声にハッとしました。
「た、助けてっ! 誰かっ!」
「井田――!!」
「!! 諸星くん!? ここっ、ここだよ、ねえ!!」
ナイスです冬彦。それより冬彦がこうも詞織を気にかける理由は......ないんですよね。それでも、詞織にとってはすごい支えになるはずです。それに、冬彦のこの行動は、きっと将来役にたつことでしょう。
......夏祭りのときとか。
「井田!? 何でこんなところに......」
「ご、ごめんなさい......」
「......でも、もう大丈夫だぞ。――おれが見つけたからな!」
扉越しに会話する男女二人。漫画か何かにありそうなシーンですね。それも、男が女を助けに来るだなんて。特に冬彦の最後の言葉――こんな状況であんな言葉を聞いた詞織は――。
「え......う、うん。ありがと、諸星くん......」
ああ、やっぱり。詞織は突然速くなった鼓動と、火照ってきた顔にびっくりしたようです。
(あ、あれ? なんだか、私......)
「大丈夫か、井田――って、おい!?」
冬彦が急いでカギとドアを開けると、そのまま詞織は、もたれ掛かるように倒れてしまいました。しかし何故だか、倒れた詞織の表情はとても嬉しそうな様子でした。
◇ ◇ ◇
「うう――、昨日はごめんなさい、諸星くん......」
「いいって、いいって! 気にすんなよ! それより、体大丈夫か? 井田」
(うひゃー! 諸星くんに心配されるなんて......。う、嬉しーなー......あ、でも)
「どうかした?」
「あ、ううん! あのさ、諸星くん?」
「うん?」
「あ、あの私......」
「うん」
「私......」
詞織がそこまで言ったとき。
「朝礼始めんぞー」
運悪く先生が来てしまいました。
「と、スマン井田!」
「え!? あ、ううん!?」
(あー......また言えなかった......)
朝の会はいつもと同じく進んで、後は礼をするだけ......だったのですが、
「あ、ちょっとお知らせがある。井田、来い」
「え!? あ、はい」
急に呼ばれて焦った詞織は、立ち上がったときにバランスを崩してしまいました。
「――きゃ」
「井田っ」
ファインプレーを昨日今日と続ける冬彦を賞賛したいところですが、リア充すぎませんかね?
「――あ......。~~~~ッ」
抱きしめられた詞織は、思考が強制中断されて勢い余ってしまい、冬彦を思いっきり押してしまいました。
「ぐほうっ......」
「も、諸星くん!」
「......ったく、お前らは......。諸星、大丈夫か?」
「は、はい。何とか」
「そうか、時間もないから簡潔に言うが、井田――いや、市姫の名字が変わった。家庭の都合だから、深く聞くな。どちらの名前で呼べばいいかは各自市姫に聞け、それじゃあ終わり!」
このとき意識が朦朧としていた冬彦は、先生の話の半分以上を飲み込めていませんでした。
ただまあ、井田から市姫に呼び方は変わりましたがね。
昼休みになって、冬彦がトイレから戻ってくると黒板のところに生徒がたくさんいました。
「どうしたの?」
「あ、冬彦くん! ねえねえ、これ見て!」
黒板には、
『諸星 冬彦→星 彦→彦星』
『市姫 詞織→姫 織→織姫』
とかかれています。
「すごくない!? 二人の名前を書き換えると織姫と彦星になるんだよ!? 二人はこの役にぴったりだよね!!」
「......そうだね」
そうは言っても、冬彦はこう考えました。
(名字変わったからこうなっただけじゃん。別にそこまで騒ぐこともないよ)
冬彦の考えは、ときに皆から離れたものになります。皆ではしゃいだりするときに一人静かだったり、皆が泣いていても全然悲しくなかったり。ほんの一瞬ですが、冬彦の感情は冷たく凍りつくのです。
そんなこんなで二人は一生懸命練習しました。かなりの練習時間のおかげで、冬彦も詞織も、またその他の皆も上達しました。あの問題のシーンも何とか出来るようになりました......まだ恥じらっていますが(詞織は自分の気持ちに半分ほど確信を持っています)。
詞織は冬彦の目を見ると顔が赤くなってしまうようになりましたが、それについて先生は「むしろよくなった、織姫のような感じになったんじゃないか?」と絶賛。じゃあいいかと他の先生も何も言いませんでした。
◇ ◇ ◇
「うわあ......! お客さん、いっぱいいるね」
「......うん、だな」
「......諸星くん、緊張してる?」
「な!? それはそっちだろ!」
「......あ、う、うん。ごめん......」
「っ、ごめん、緊張を解してくれようとしたのに......」
「......だ、大丈夫......だけど......」
そこまで言って、冬彦は詞織の異常に気が付きました。
「市姫!? 大丈夫か!?」
「......恐くなってきちゃった......。緊張、しちゃった」
「――そっか」
少しホッとしました。舞台にたてないような病気......風邪とかだったらどうしようと思っていたからです。
(せっかくここまで、皆で頑張ってきたんだ。成功させたい)
そうですそうです。冬彦や詞織はもちろん、他の皆だって頑張ってきたのです。成功と言わず大成功したいでしょう。
だから。
(だから、市姫が――織姫が困ってたら助けるのはおれ、彦星の役目だよな)
人を助けてメリットは無くとも、デメリットもない。その考えを貫いてきた冬彦には、もう折れる必要はないです。でもきっと、その考えを突き通せるのはもって中学二年生くらいまでが限界でしょうが。
(――よし)
「市姫、織姫にとって必要なのは観客じゃない、おれたちだ。自画自賛するわけじゃないけど、一番重要なのは彦星だと思う、から! だから、おれだけを見て! ......そうしたらきっと大丈夫......なはず」
そんな熱いアドバイスを受けた詞織は、盛大な勘違いをしました。
(今のって――告白――!? ち、違うよね!? で、でもでもでも!!)
はい、告白ではありません。けどまあ、俺だけを見てなんて言われたら、告白と勘違いするのも分かります。
「うん! 分かったよ、冬くん! 冬くんだけ見てるね!!」
いつの間にか上機嫌になった詞織は、自分でも気がつかないうちに、冬彦への呼び方を変えていました。
その辺に鈍感な冬彦は、調子がよくなったという結果だけを見て、
「ああ、頑張ろうな!!」
『――小学校の五年生による、七夕劇です』
ついに幕があがりました。詞織は先ほどとは違った鼓動を感じていました。
(これから冬くんと......。えへへ)
それでもしっかりと、頭の中からは台詞が残っています。これならハプニングでも無い限り、頭の中が真っ白になることもないでしょう。
『夜空にキラキラと煌めく天の川。その川のほとりには織姫と呼ばれる美しい娘がおりました』
ナレーターの声にあわせて、詞織が演じます。
『天の川の岸辺をずっといったところには、彦星という名の若者がおりました』
今度は冬彦の番です。冬彦は牛の世話をする彦星を演じます。
『天の神様は二人を結婚させました。しかし結婚した後の二人は......』
劇は順調に進みました。しかし順調が続けば――――――。
バツンッッ
劇場内が一瞬にして真っ暗になりました。それと同時に、詞織の頭の中が真っ白になってしまいました。
「え――――ッ!?」
「停電............!?」
大変です、これからのシーンはあの二人がとっても練習した、あのシーンなのに。
ここで停電なんて、失敗する未来しか詞織には見えていませんでした。
その証拠に、お客さんがざわつくのが肌で感じ取れます。もちろんこの停電が、事前に用意されたものでなく、たった今発生したハプニングだということを、舞台にあがっている人は全員知っています。
みんな、どうしたらいいのか分からず、うろたえていました。
けれど冬彦は、
(停電......ここでじっとしているのが一番か)
冷静に考えて、目の前の詞織の状態に気が付きました。
「......暗いよう、怖いよう......冬くん、どこ?」
「――!」
まだ小学生の二人には、この状況をひっくり返せるほどのことは出来ないでしょう。遠くにいる人を気にかける必要もないでしょう。けど。目の前にいる自分のパートナーくらいは、助けられるはずです。
「市姫、大丈夫。俺はここだよ?」
「ふ、冬くん! 暗いの......怖くって......」
「......。詞織」
(ふえ......!?)
冬彦は、密着するくらい近いところに詞織がいることを確認しました。それから、名前を呼んで抱きしめてあげたのです。
「......えっと、大丈夫、大丈夫だよ」
そう言いながら優しく頭を撫でました。
「ふ、ふ、冬くん!?」
「落ち着いた?」
「うん、ありがとう」
もっとも、今は恐怖じゃない別の感情が詞織の中を支配しているでしょう。詞織は、冬彦への想いを完全に自覚しました。落ち着いた詞織は、台詞を少しずつ思い出してきました。
(......さっきのあれは、きっと告白じゃなかったんだ)
詞織には確証がありませんでしたが、何故かそう思えました。
「ありったけの電気持ってこい!」
「はい!」
「せめて舞台だけでも照らせれば何とかなるかもしれない!」
「市姫、そろそろ出番みたいだ。台詞は覚えてる?」
「え? ......うん! 今日は、織姫と彦星が一年に一度だけ逢える日だもんね。――成功するよね」
「......」
最後の言葉を聞いて冬彦は、
「もちろん!」
にっこり笑って言いました。
『一時的に、舞台の場所だけ電気を復旧させます』
停電したときと同じ音をたてて、冬彦と詞織のいる場所にスポットライトが当たりました。
(出番だ。あとおれ達が演らなくちゃいけないのは、たったひとつ)
一時的に復旧した明るさは、二人だけを照らしています。それから青いビニールテープを張り付けたライトの光は、二人の背景を照らしています。
この二つの光が相まって、幻想的な雰囲気を出しています。
「織姫、やっと逢えた。嬉しいよ」
「私もよ、彦星」
最後の台詞をいい終えて、残すは最後のお芝居だけです。
見つめあった二人を妨げるものはもう何もありません。彦星が織姫を抱きしめました。
そこから数秒間じっとしていると、幕がおりてきました。
観客席の方からは、拍手喝采がおきました。二人はしばし無言で見つめあって、笑いました。
「成功したね」
「ううん」
「え?」
聞き返す詞織に、冬彦が、
「大成功だよ」
「......、うん!」
◇ ◇ ◇
「それじゃあ、短冊にお願い事を書いて吊るしましょう!」
「はーい」
「ねえねえ何にするー?」
「しーちゃんはどうするの?」
「え? わ、私は......」
その日の夜。劇が終わったあとのことです。
天気は快晴で星がよく見えました。
「......諸星は何て書くの?」
「んー......そうだな」
(あのとき......詞織って呼んだけど......。また市姫に戻っちゃったな。そういや何で井田から名字変わったんだっけ? そんな俺の、俺の願い事は――)
(冬くん......。やっぱり私の気持ちは本当みたい。でも、冬くんは? 私のことどう思ってるんだろう......?)
◇ ◇ ◇
「......」
劇に出演した五年生がいなくなって、そこに一人の少女がやってきました。少女の年は、詞織や冬彦と同じくらいでしょう。
「あの二人......諸星冬彦と市姫詞織って言うんだ? 願い事は......。ふふっ、これなら少し後押しするだけですぐくっつくでしょ。あとは二人と同じ学校に入れれば......」
少女は短冊を見ながらそんなことを呟きました。そして、出口の方から声が聞こえてきます。声からすると、女の子です。きっとこの少女の友達でしょう。
「ひまちゃーん? どうしたのー? 早く行こうよー」
「......。うん! 待って待ってー!」
市姫ともっと仲良くなれますように。――――諸星 冬彦
冬くんと恋人どうしになれますように。――――市姫 詞織
もし機会があれば後日談でも書きますかね......。
それから、二人の誕生日を決めました! (ワーワー)
諸星 冬彦 3月15日
市姫 詞織 9月22日 です!
今回のお話の文字数から考えました。言っちゃえば適当ってことです笑。
誤字脱字等あったらコメント下さい。




