31.現れし怪物
「〝本物の怪物〟は案外身近にいる。ほら、今は君の後ろにいるじゃないか」
目の前の男が突然言い出した事を、山城京子は理解ができなかった。
だが、この畏れを含んだ眼差しに京子は見覚えがある。いつぞやこの男の部屋に上がり込んだ時と同じ。自分を見ているようで見ていない。そんな表情。
ではこの男の視線の先にあるのは何だろうか? 本物の怪物とは? 何かの冗談に付き合わされているのではないかといった猜疑心を浮かべながら、山城京子は背後を振り返った。
――その瞬間。彼女の背筋は凍りついた。
部屋はしっかり鍵を掛けている。ベランダなどに通じる窓も同様だ。
そもそもここはオートロック完備なマンションの四階だ。おいそれと人が侵入できる道理もない。
にも関わらず、そこには少女が立っていた。
黒いセーラー服に身を包み、ほっそりとした脚を覆うストッキングも同じく黒。
腰ほどまで伸びる長い黒髪は前髪が切り揃えられ、どこか日本人形のような印象だ。
闇の深淵のような漆黒の瞳が、ますます少女の作り物のような雰囲気を際立たせている。
黒。黒。黒。ことごとくその色を印象づける少女の格好とは対照的に、その肌は病的な程に白く、まるで陶磁器のよう。
美しい少女だった。
どこか妖艶な空気を纏わせた、美しい少女だった。
「そんなバカな……!」という言葉が口から漏れそうになったその瞬間。山城京子の視界は、ぐるりと反転した。
※
背後を振り返り、しばらく硬直していた京子が、いきなり横凪ぎに吹き飛ばされた。
その光景に僕は思わず目を白黒させる。京子の背後にいつかのようにぬっと出現したその少女――。すなわち怪物は、別段何かをする挙動を見せたわけではない。本当に突然の出来事だった。
壁に叩きつけられ、むせかえる京子を一別すらせずに、怪物はゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
言葉が出なかった。
よりにもよってコイツに助けられるとは思ってもいなかった。
なにせ僕はコイツに暴力を奮ったのである。
だから僕への興味を失ったか、反撃してくる餌に恐れをなしたのか。あるいは僕が知り得ないなんらかの理由で姿を消したのだろう。そう思っていた。
でも、少なくとも前者二つの考えは間違いだったらしい。怪物は――普段無表情故に判別するのは難しいが――、いつかのように幸せそうな微笑みを浮かべていたのだ。
……ん? 幸せそうな微笑み?
なんとも言えない嫌な予感が胸をよぎると共に、横向きだった世界が正常に戻る。
椅子に拘束されたまま横倒しにされていたのを、再び立て直されたらしい。誰の仕業かなんて今更考える必要もない。
その瞬間、僕の膝元に柔らかい重みがのしかかってきた。
「ちょっ、待て……んぐっ」
何をされるのか咄嗟に察した僕は、思わず制止の言葉をかけようとするが、全ては既に遅かった。
視界いっぱいに怪物の顔が大写しになる。同時に僕の唇にマシュマロのような感触が広がり、ヌルリと舌が差し入れられた。
僕が拘束されて身動きがとれない故か、はたまた数日ぶり故か。それはそれは熱烈で、今までに無いくらい濃厚なキスだった。
「む……ふっ、んぐっ……」
タガが外れたかのように僕をきつく抱き締める怪物。久しぶりの感触に僕はふわふわするような浮遊感に襲われていた。
そんな中、怪物の舌はまるで別の生き物のように蠢き、僕の舌を絡めとり、口内を蹂躙する。
やがて、ゆっくりと僕の唇を解放した怪物は、僕の膝の上でいつものように妖艶な笑みを浮かべた。
銀色の雫で出来た橋が、僕と怪物の唇を刹那の間繋ぎ止める。恐ろしく淫靡な空気が周りを支配して……。
「何してくれんのよこのクソアマァ!!」
次の瞬間、物凄い怒号が響き渡った。
僕は思わず肩を跳ね上げながらそちらに視線を向ける。
狂気なアトリエの床に倒れ伏したまま、京子が憤怒の形相でこちらを睨み付けていた。
「え? 何? 何なのそれ? レイ君あたしというものがありながら浮気してたの!? 最っ低! てかクソアマァ! テメェどっから入りやがったのよ! 不法侵入よ!」
君が言うな。とか、普段とキャラ違うよ。とか、色々突っ込みたい事は多々あるが、今僕が最も驚いているのは別の要因だった。
「何だ、アレ……?」
そこには非現実的な光景が広がっていた。白い網のようなものが京子の背中を覆うように広がっていたのだ。
網はそれぞれの端が床にしっかりとくっついているようで、丁度京子を押さえつけ、拘束するような形になっているらしい。その証拠に、先程から京子が立ち上がろうと手足に力を込めるような様子を見せては、床に押し戻されていた。
「なによコレェ!」とか、「ネバネバするし……剥がしなさいよォ!」などといった京子の怒声を聞きながら、僕は白い網を凝視する。
それは、僕の部屋に張られていたものとは明らかに強度も幅も違う。成人した人間一人を捕らえられるような、とてつもなく大きな蜘蛛の巣だった。
アレはコイツが作ったものなのだろうか? 僕は思わず怪物の表情を伺う。
相変わらず京子は眼中にないといった面持ちで、怪物はこちらを見つめ続けている。その視線は、僕の頬――。未だに血を流している傷口に固定されていた。
「……考えるのは後だ。なぁ、これの縄をほどいてくれ。早くここから逃げないと……」
「ハァ!? 何言ってくれてるのよレイ君! あたしよりそのクソアマがいいっていうの!? ふざけんじゃないわよ!」
京子が喚き声をあげているがこの際無視だ。彼女が動けない今が好機なのだ。
だが、そんな僕の必死の訴えも虚しく、再び怪物が僕に顔を近づけてくる。
「お、おい! 頼むよ! 今はそんなことしてる場合じゃ――ぬぉ!?」
慌ていたのもあり、思わず変な声が漏れる。
頬の傷の近く。そこに怪物が舌を這わせてきたのだ。
チロチロと頬を行き来する舌の感触がくすぐったい。
怪物の柔らかい指が僕の髪をとき、弄ぶ。これもまた何だかこそばゆい。
そして何より……。
「フーッ……フーッ……フーッ……!」
京子が怖い。滅茶苦茶怖い。
まさに般若か修羅のような形相で荒い息を吐くその姿。それはつい先程まで、己の目的を楽しげな表情で語っていた彼女とは別人のようである。
「な、なぁ早く! 早くしてくれ! このままじゃまずいんだってば」
呼び掛けながら怪物の舌から逃れるように頭を動かす。京子に殴られまくったためか、身体が物凄く重い。だが今は自分の身体を労る余裕などない。
すると、僕のそんな焦燥感が伝わったのか不明だが、怪物は顔を離して僕をまじまじと見つめ始めた。
直後、怪物はおもむろに僕を拘束するロープに手をかける。
そこからは一瞬の出来事だった。怪物の手が目にも止まらぬ速さで振り抜かれ、まずは僕の右手の。続いて左手、両足のロープが順番に切り裂かれた。
一瞬怪物の手がいつぞや見た蜘蛛の脚のようなグロテスクな形状になったように見えたが、今は考えないことにする。
コイツのやること成すことにいちいち突っ込んでいる時間が惜しいのだ。
ともかく僕の訴えにコイツが気づいてくれたからよしとしよう。今はそれで十分だ。
ふらつく身体に鞭打ち、僕はようやく磔にされていた椅子から立ち上がる。
よし、取り敢えずすぐ警察に……。
連絡しようとした僕の身体を、バキン! といった電流のような衝撃が襲う。
随分と久しぶりのようなこの感覚は……怪物が僕によく行使していた、身体所有権の剥奪能力だ。
怪物の傀儡となった僕は、久しぶりの気味悪い感覚に身を落としながら、内心で物凄く焦っていた。
コイツは、何故このタイミングで能力を使ってきた?
答えはすぐに出た。
操られた僕の身体は怪物を優しく抱き寄せ、再びその唇にキスを落としたのだ。
さっき怪物の方からしてきた一方的に捕食するようなキスではない。
抱き締め合い、互いに舌を絡めた、恋人同士がするような情熱的なディープキス。それがよりにもよって京子の目の前で見せつけるかのように行われる。
ああ、痛い。見えないけどわかる。京子の視線が痛い。「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……」といった呪詛のような声まで聞こえてくる。
まず京子よ。今こんなことをしている僕が言うのも変だが、取り敢えず言わせていただきたい。君が怒るのは筋違いだと。
というか、浮気うんぬん以前に、君は僕を玩具とかそんな程度でしか見ていなかったのではないのか? ……ああ、玩具を取られたから怒っているのか。
自分で疑問を浮かべ、唐突に自分の中で答えが出てしまった。
だとしたらその呪詛は出来れば僕じゃなくて怪物に向けて欲しい。コイツなら素で呪詛返しくらいは出来そうだ。
そして怪物よ。お前には僕の意思はこれっぽっちも伝わってなかったんだね。
お前ただこれがやりたかっただけだったのか。
その為にロープを切ったのか。
何しに来たんだよお前。
いや、助かった。確かに助かったよ? けど今まさに別の意味で死ぬような思いしているのだが、これはどうしてくれる?
そんな風に想いを述べたくても操られたこの身ではどうすることもできない。
もし身体が動くならば頭を抱えるであろう状況の中。ともかくこれが終わったら改めて警察に連絡を……と、頭で結論付けたその刹那――。不意にブチブチブチブチッ! という何かを引きちぎるような音が耳に入ってきた。
全く同じタイミングでバキン! という音が脳髄の奥で響き、僕は怪物の支配から解放された。
未だに吸い付こうとする怪物の唇を何とか引き剥がし、さっきの不吉な音を発生させた元凶を見ようと振り向いた瞬間――。
肩に誰かがぶつかるような衝撃と共に、右脇腹へ焼け付くような痛みが走った。
「…………え?」
思わず間抜けな声をあげた僕の腹部で、何かが激しく。抉るような動きでグリグリとねじ込まれてきた。
「ハァ、ハァハァ……レ・イ・ク・ン……!」
ユラリと、幽鬼の如くこちらを見上げる女がそこにいた。
短い茶髪を振り乱し、肩を怒らせている女は、もはや正気を保っているとは言い難い。
クリッとした可愛らしい小動物のようだった目は、今や血走り、肉食動物のソレだ。
山城京子。僕の大切な人の一人だった女性は、鋭いメスを握り締め、その刃を僕の腹部に突き立てていた。
「京……子」
呆然とする僕に、京子の視線が突き刺さる。
「レイ君……何でよ。その女、何なのよ。こんな変てこな糸出して、突然背後に現れて。しかも人の血まで舐めるなんて……どう考えてもマトモじゃないわ」
ボソボソと呟くように話す京子は、ズプリと僕からメスを引き抜くと、フラフラと数歩、僕から遠ざかる。
さっきの音……、メスで蜘蛛の糸を切り裂いた音だったのか。まるで他人事のように納得した僕の力が急速に抜けていき、気がつけば僕は床に倒れていた。
刺された部位が熱い。沸き上がる痛みの奔流が僕を飲み込んでいく。
薄れていく意識の中で、僕の後頭部が誰かがそっと持ち上げ、何か柔らかいものの上へと迎え入れられるのを感じた。
ああ、この感触は知っている。これは怪物の……。
「なによ。なによなによなによ! 最後の最後まであたしを無視するの? この女。いいわ。レイ君はもういらないし、そんなに二人だけの世界に生きたいなら望み通り纏めて殺してやるわ。全裸にひんむいて、公園でイチャつくカップルみたいな下品なオブジェにしてあげる!」
ワナワナと震えるような京子の声。これは……不味い。完全に殺る気満々だ。どうやら交渉する余地は微塵もないらしい。
僕は何とかして怪物の方を向き、必死で口を開こうとする。
「せめて君だけでも逃げろ」そう怪物に告げようと思ったのだ。
が、その瞬間。僕が口を開くより早く、頭上で何かが動く気配がした。痛みが止まない脇腹の傷口に、ヌルリとした舌の感触。
怪物が僕の腹部に口を付け、その血を啜っていたのだ。
「……やっぱり。あなた普通じゃないよ。本当は手に入れちゃいたいけど……またあの変な糸出されたら厄介だし。もう殺……え?」
冷めた口調で話していた京子が、不意に驚いたような声をあげた。
「くっ、何よ!こんな糸、また切り裂いて……きゃっ!?」
やがて、悲鳴と共に壁に何かが叩きつけられるような音が僕の耳に入る。
「離しなさいよぉ! なんなのよアンタは……!? ちょっと。何やって……え? ウソ、待って! 待って待って待って! 何よ。何なのよそいつらは!?」
威勢の良かった京子の悪態が、急にに弱々しく恐怖に震えたものに変わっていく。
ふと、耳鳴りだろうか? 乾いた布が擦れるような。そんな微かな音が四方八方から聞こえてきた。
「ウソ……何よ? アンタ何者なのよ。何でこんな……」
今や京子の声は涙声に変わっていた。
乾いた音は次第に大きく、さざめきのように騒がしくなっていく。
何が……起きている?
今にも飛びそうな意識を何とか繋ぎ止め、僕はゆっくりと目を開き――。
すぐに後悔することになった。
蜘蛛だ。何百もの蜘蛛が、アトリエの床に、壁に……。まるで京子を取り囲み、僕と怪物を守るように集結していた。
ジョロウグモ、オニグモ、ハエトリグモ、アシナガグモ、キムラグモ、ハナグモ、アシダカグモ、オウギグモ……。
僕が知る蜘蛛から見たことのない蜘蛛まで、ありとあらゆる蜘蛛が入り乱れ、威嚇するように蠢いていた。
腹部の痛みも忘れ、思わず怪物の表情を伺う。怪物は右手の平を京子に向けたまま、いつも以上に無表情で、冷たい残酷な眼差しを京子に放っていた。
少なくともこんな顔は見たことがない。まさかとは思うが……コイツ怒ってるのか?
僕は思わず身体が強張るのを感じた。
そんな僕の戦慄をよそに、蜘蛛達は押し入れやドアの隙間からどんどんアトリエに侵入し、今や千匹にも達しそうな勢いで集まってくる。
やがて、声にならない悲鳴を漏らす京子の目の前で、怪物の右手がゆっくりと閉じ始めた。
少しずつ。少しずつ手のひらが閉じると共に、ざわめいていた蜘蛛達が一匹、また一匹と動きを静止させていく。
そうして怪物の手が完全に握り拳を作った時。アトリエに集結していた蜘蛛達は一斉に沈黙し、辺りを不気味な静寂が支配する。
蜘蛛達がおとなしくなった事を確認すると、怪物の腕が、今度はゆっくりと振り上げられた。
「い、嫌……ま、待って。レ、レイ君を傷付けたことは謝るから。謝るから……助けて……」
その行動が意味することを悟ったのか、京子が涙目で懇願する。が、怪物は止まらない。
頭上で握られていた握り拳が解かれ、開かれた手のひらの指一本一本がピンと伸びる。
僕の頭を膝に乗せたまま、オーケストラに演奏の開始を告げる指揮者の如く威風堂々。
怪物の腕は今まさに、京子への残酷な葬送曲を奏る指揮棒にならんとしていた。
「や、や……やめてぇぇえええええ!!」
その悲鳴が合図となった。怪物の手が完全に降り下ろされ、絶叫する京子の元へ一斉に、何百、何千もの蜘蛛達が殺到し、あっという間に彼女の小さな身体を覆い尽くした。
「アアアアアアァァアァアアァッ!!」
つんざくような悲鳴。
蜘蛛と蜘蛛の身体がぶつかりあい、足が絡み、縺れながら京子の身体をはい回る生々しい音が聞こえてくる。
「ヒィイイィッ! アア……! イ、ヤ……あぐっ……もごぉ……ぅぅ……」
逃げたくても蜘蛛の糸で身体を拘束されている京子は身動きが取れない。
万策つきた彼女は、悲鳴を上げながら身体をくねらせ、必死で抵抗する。
が、数の暴力の前にその動きも次第に鈍くなり、悲鳴も弱々しいものになっていく。
「……ぅ……ぐ……んぐ…………っ」
動きが鈍った京子に蜘蛛達はここぞとばかり群がり始めた。
やがて……。何かが口に詰まるような、くぐもったうめき声を最後に、そこには何千もの蜘蛛が折り重なった人形の山が出来上がった。
それが終幕となった。それっきり、部屋は再び静寂に包まれる。他に聞こえてくるのは、ただ僕が恐怖にあてられたかのような息遣いのみ。
目の前で起きた光景に、情けないくらいに身体が震えていた。
「あ……ぐぅ……」
そして、今更ながら痛みが甦ってきて、思わずうめき声が漏れる。
よくよく周りを見ると、僕と怪物の下には真っ赤な水溜まりが出来ていた。
当然ながら、僕が流した血。そのおびただしい量に、僕は意外と冷静に自分の現状を理解した。
――ああ、死ぬのか。僕は。
あっけないものだ。
というか、よくよく考えると、これは酷い死に様ではないだろうか?
彼女だった人が殺人鬼で、奴隷にする宣言をされたかと思ったら、あっさり別の女が助けに現れて。
その女に助け出されて熱烈なディープキスを交わしていたら彼女だった人にメスで一刺し。
痴情の縺れなんてレベルじゃない。これでは天国の兄さんも浮かばれないだろう。
そんな事を考えていると、そっと頬に柔らかい手が当てられた。
見上げると、怪物が僕をじっと見つめている。さっきの残酷な笑みは成りを潜め、ただただ僕を見つめる漆黒の瞳。
助けに来てくれてありがとう。
あの時、殴ってごめん。痣とか残らなくて良かった。
てか、お前がキスせがまないでさっさと逃がしてくれたら、僕はこうならなかったんじゃないのか?
といった感謝や謝罪。文句などが頭に浮かぶが、もう僕には話す元気など残ってはいなかった。
今まで意識を保てていたのも奇跡に近い。
沸き上がる痛みも、今は感覚がなくなって来ている。死神の足音がすぐそばまで来ている証拠だろうか?
段々視界が暗くなってくる。
目を閉じるのが怖くて、思わず無意識に。僕は怪物の顔を改めて正面から見つめ直した。
綺麗な長い黒髪と白い肌。闇の底のような瞳。その美しい姿を脳裏に焼き付け、僕は顔を綻ばせた。
結局。僕は最後の最後まで〝君〟に恐怖し、魅了され、捕らえられたままだったな……。
自嘲気味な嘆息を漏らしながら、僕はゆっくり目を閉じた。
怪物は最後まで、僕から目を逸らさなかった。僕が死を迎えるその瞬間まで――。
その事にほんの少しの嬉しさを感じながら、僕は静かに眠りについた。




