表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名前のない怪物  作者: 黒木京也
続章ノ三 強襲する悪夢
181/221

63.夜の衝突

 思い返せば、僕の転機や災難は、いつも夜に降りかかって来るように思う。

 怪物に襲撃された夜。

 京子の真実を知り、致命傷を受けた後、身体が再生した(今にして思えば、あの時から僕の身体の作り替えは始まっていたのだ)夜。

 少しだけ、怪物に歩みよった夜。

 ルイと一緒に、汐里や京子と対峙した夜。

 僕が怪物になった夜。

 そして……。


 今回の夜も大概酷かった。

 街灯などない、完全なる闇に包まれた森。そこを恐怖で鳥肌が立つ全身に激を飛ばしながら、僕は殆ど涙目で走っていた。

 視界が絶望的に悪い。普段ならば何の障害にもならない暗さなのに、今の僕には一寸先すら見えない。加えて、いつもは鋭敏に働く野性の勘という奴が、今は全く役に立たなかった。

「あはっ、これで三回目かしら?」

 横合いから、梟の鉤爪が僕を捕らえ、地面に引き倒す。もがく僕を現れたエリザは地面にグリグリと押さえつけた。

「ほら、頷いて。私の旦那様になって?」

「っ、絶対に嫌だね!」

 震える声で僕は反論すれば、エリザは目を細めながら、ゆっくりと鉤爪を動かした。

 ビリビリと繊維が破ける音がする。切り裂かれたのは、僕の肌着だった。

 一度目は上着。二度目にTシャツ。三度目にして、僕の上半身が外気に触れていた。まるでカウントダウンのようなやり方に、僕は思わず唇を噛む。

「遊んでるのか」

「ええ、そうよ。貴方の能力は閉じた。脅威にはなりえない。から……貴方が自分の意思で頷いてくれるのを、待ってるの」

 お逃げなさいな。そう言って裸の女は翼を折り畳み、まるで月光浴でもするかのように両手を広げた。

「貴方は気づいてるわ。もう詰んでいることを。けど、認めたくないだけよ」

「……っ、君はどうやら、僕の意思を尊重してるらしいからね。なら、抗うさ」

「……あまりワガママ言わないで頂戴。夫を躾するのだって、妻の特権なのよ?」

 逃げる僕。わざわざ可愛らしい声を出して十数えるエリザ。余裕ぶっこきやがって……! と、悪態をつきたくなるが、現状この僅かな間しか、僕には考えることが許されない。ここで、エリザに対する解答を出さねばいけないのに……!

「クソ……何も……。何も……!」

 思い浮かばない。というか、ありとあらゆる方法を考えた最適解がさっきの戦いで。そもそも捕まったら終わりという認識があったのである。

 僕の今この場における惨状……。すなわち能力の禁止は、エリザの能力が僕へ深く入り込んでしまった事を意味する。つまり……。僕の脳や身体の支配権は今や完全にエリザの手中にあるのだ。

 いつもの感覚が思い出せない以上、僕は糸も鉤爪も出せなくなっていた。勿論、唯一の対抗手段だった肉体所有権の剥奪さえも。これでどうしろというのだ……!

「あは。レイ、逃げるの遅すぎよ~?」

 鉤爪が、またくる。肩の肉が嫌というほど千切り取られ、僕はズボンを奪われた。

 暫くして靴の左右。靴下両方。ついには下着まで取られ、僕はもう奪われるものはなくなった。

 逃げられない。勝てない。そう悟った僕は……。足を止めた。

 背後で草を踏み締める音がする。そこで僕は強く拳を握りしめた。

「……決心はついた?」

「…………もとから」

 身体の震えが、ゆっくりと引いていく。振り向けば、エリザは幸せそうに微笑んでいた。

「素敵よ。勝てないと分かっても、殴りかかるのね。どんなに痛め付けられようと、煮え湯を飲まされようと、絶対に心は屈服しない……そうでしょう?」

「そこまで分かってるなら、僕は諦めろ」

「イ・ヤ。貴方はね。私がようやく見つけた、私の隣に立てる人なの。こんな人、きっと二度と現れないわ。だから……貴方が、欲しいの」

 受け入れて。祈るような赤らめた顔でそう告げるエリザに、僕は迷わず親指を下に向けた。

 すると、恋する乙女そのものだったサファイアの瞳から、輝きが一瞬消えて。直後。そこに不思議な色が加わった。それは捕らえた獲物を弄ぶ猫にも似た、残忍な光だった。

「……剥ぐもの。もうないわねぇ」

「殴るし、蹴るし、噛んでやる。〝人間〟を舐めるなよ? 絶対に、君のものにはなるもんか。絶対にだ!」

 地面を蹴り、エリザに向けて拳を振り上げる。意味などないと分かってはいた。けど、僕はそれでも……。

「その場に膝まづいて」

 彼女を女王と讃えるように、地に膝を付き恭しく頭を垂れた。何て狼藉を僕は考えていたのだろう。僕の身体は爪先から髪の毛の先までエリザの……。

「……っ、ぐ」

「これが最後ね。捕まえたわ」

 能力をすぐに緩めたのだろう。おぞましい思考があっという間に塗りつぶされ、服従の姿勢を解こうとした時には、何もかもが遅かった。

 もがこうにも人間と怪物では力の差は歴然で。

 背後から僕を包み込むように拘束したエリザは、僕の耳に息を吹き掛けるようにして囁いた。

「秩父の山にね。私が頑張って作ったツリーハウスがあるの。そこに一緒に住みましょう? 高級ペンションにだって負けない、素敵な隠れ家よ」

「おい、離せ、僕は……!」

「レイは朝、パン派よね。卵料理、私上手なのよ? フワフワのオムレツに、甘い卵焼き。さっぱりしたスクランブルエッグ。トーストや、貴方の大好きなコーヒーにもよく合う筈」

「話を……オイ!」

「朝は、起こしてあげる。昼は、甘えさせてあげる。夜は沢山愛してあげるし、愛して欲しいの。いっぱい私の傍にいて。優しく……して」

 思わず息を飲んだ。少しずつ。エリザの声が尻すぼみになっていく。震えるような涙声で、エリザはスンと鼻を鳴らした。

「一人は……もう飽きたの。どこまでいっても。どんなに探しても。みんなみんな……私の思い通り。私より弱い奴ばかり……。能力が通用しない存在も中にはいたわ。けど……それらは、ダメだった」

 エリザの能力が通用しない? その言葉に僕が反応しようとするより早く、エリザは僕の首筋に顔を埋める。静かに深呼吸する気配がして。

「レイ。お願い。傍に……。私をレイのお嫁さんに」

「いや、それは断る」

「……………………」

 彼女の顔が、後ろで引きつっているのがよくわかった。ざまぁ見ろ。と思いながら、拘束から逃れようとするが、それは無理だった。だからかわりに、僕は心を抉ってやることにした。

「泣き落としのつもり? なら言わせてもらう。僕には関係ない。こんな方法で人の心を手に入れようとするお前に、誰が同情なんかするか。僕には大切な人がいる。君じゃない。君になるなんてあり得ない」

「…………そう」

 静かに、エリザはため息を付き……。次の瞬間。僕の世界が、半分侵食された。

「あ、ひぎ!?」

 ぶちゅり。じゅるると、強烈な音をさせて、エリザの舌が僕の耳を蹂躙する。鳥肌が一気に沸き上がり、慌て首を動かしてエリザから逃れようとするも、エリザは一切手を緩めない。それどころか、細い腕が蛇の如く絡み付き、僕の身体中をまさぐり始めた。

「初夜は……やっぱりお部屋でがいいの。そして初めてのキスは、貴方からがいい。だから、レイ。ギブアップするなら、私の唇にキスして?」

「何を……」

「ああ、いいの。気持ちからガンガン聞こえるから。私には屈しないんでしょう? いいもん別に。だったら……もう遠慮なんかしないわ」

 時間はたっぷりあるものね。そう嗤いながら、エリザは僕の首筋に歯を立てて、ぬるりと舌を這わせる。

「痛いこと。怖いこと。気持ちいいこと。苦しいこと。全部ぜぇんぶしてあげる……覚悟、しなさい」

 視界が暗転し、僕は地面に引き倒された。そこへエリザがのしかかってくる。

 そのまま、〝僕の意識を保ったまま〟にありとあらゆる命令が降りかかってきて……。


 ここから先は、語ることすら憚れる。

 それほどまでに苦痛と屈辱と快楽で、僕はエリザに凌辱しつくされた。

 本気で死を覚悟したのは、一度や二度ではない。

 脳内麻薬を狂わされ、視界が白く染め上げられ。

 皮や爪を全て剥がされ、身体の骨一つ一つを砕かれて。

 全身に歯形を付けられ、付けさせられ。

 目玉を指でほじくり返されたかと思えば、啜り上げられる。

 ……これは、ほんの一部だ。

 やられたこと。させられた事を全て綴れば、僕はもう日の下を歩けなくなる。それほどに、エリザが僕に施した攻撃の激しさや酷さは、筆舌に尽くしがたい、残虐なものだった。


 それでも……。それでも僕は……。

 正気に戻れば、いつもあの娘がそこにいる。帰るんだ。必ず……怪物の元に……。そう、やく、……そ……く………し。


 ※


 月下の森にて、裸体の男女が絡み付き合うかのように身を寄せて横たわっていた。方や金髪の美女。もう片方は……何処か陰気な印象を受ける、幽霊のような青年だった。

「……っ、はぁ……はぁ…………凄っ、まだ……折れないの?」

 乱れた息を整えながら、エリザは何処か呆れたようにそう言った。すぐ傍には身体を丸めるようにして痙攣するレイの姿がある。エリザはそれに背中からすがり付き、その豊満な肉体を惜しげもなく押し付けた。

「レイ、そろそろ次にいきましょう?」

「――ぎっ!?」

 囁くようにして、エリザは地獄の再開をする。怪物としての身体能力を封じている以上、レイの限界は既に越えていた。ついさっきは、血が昇る直前まで逆さ吊りにされ、その間ありとあらゆる手を尽くして徹底的に虐めぬき。二分の休憩を与えたばかりだった。

「え、り……ざぁ……!」

「……この期に及んであの娘を忘れず、私への敵意を失っていないのは、賞賛に値するわ」

 本当に色々した。その度にレイは面白い程に悶え苦しみ。だが、堪らないくらいに持ち直す。快楽主義の殺人鬼辺りの手に渡っていたら、恐らく一生遊び尽くされたに違いない。それほどに、彼の精神は強かったのだ。だが、その力は全て、自分に課せられる苦痛や不利益にのみ力を発揮する。そうエリザは見抜いていた。だからこそ、散々に尊厳を奪ったのだ。

「標的、変えましょうかね」

 そう呟いた時、レイは分かりやすく反応した。死に体でなお、その目がギョロりと蠢き、まっすぐにエリザを刺す。それを見ながらエリザはゾクゾクと、自分の中がざわめくのを感じていた。

 そう、酷いことをした。これを次に向けるのは……。

「レイ、ギブアップしないんだもん。だから搦め手を使うわ。あの娘をやっちゃいましょう」

「……っ、ま、て」

 息も絶え絶えにレイは立ち上がろうとする。だが、それは失敗する。無様に地に落ちた彼は、そこからまるで芋虫のように這いずりながら、エリザに迫った。

「どんな事しようかしら。とおっても可愛らしいから……能力を封じて、いやらし~い男の群れに放り込むとか? ああ、蜂は手足を切り落としていたわね。なら、また同じオブジェにする? 汐里さんは……そうだわ。ルイとくっつけてあげましょう。ただし、ルイの汐里さんに対する認識をアリサちゃんに変えるの! ルイもハッピー。汐里さんも望みが叶う。これよ!」

「まて……!」

 震え、目に涙を浮かべながら、レイは唇を噛み締める。それをエリザは横目に、色々な妄想を広げていく。

「いっそ、強襲部隊に差し出しましょうか! いい実験材料に……ああ、ダメ。そしたらレイが死んじゃうわ。なら……。自分が犬か猫と思わせる。文字通りペットね! あ、植物状態なら、騒がなくて便利かしら? おっと、大輔おじ様は……。うん、街中で事件起こして貰いましょうか。あるいはパトカーで暴走とか! ねぇレイ? どれが……」

「……わかった、よ」

「あら?」

 消え入るようなか細い声。だがエリザは心の声を聞いているにも関わらず、敢えてレイに宣言させることを強要した。

「何が、わかったの?」

「僕の…………負けだ」

「だから?」

「だから……みんなには、手を……」

「違うでしょ? はぐらかさないで。負けたら、どうしてくれるの?」

 高鳴る心臓を抑えながら、エリザはレイの言葉を待つ。彼の心は、無念で悲鳴を上げ、彼自身あまり持ち得ない憎悪や激情が色濃く渦巻いていた。

 そんな感情全てが、全て自分に向けられている。エリザはそれが堪らなく嬉しかった。

 今はそれでいい。無よりも、あらゆる感情をぶつけて欲しい。自分はそれ全てを受け入れ、受け止めて、いずれ愛に昇華してみせよう。


「僕は……、君の、ものになる」

「どうなるの?」

「わかりきってるだろ」

「言葉で聞きたいの」

 ギリギリと、歯軋りの音がする。下唇をちぎれんばかりに噛み締めて、レイは静かに……頭を垂れた。

「僕と……夫婦になろう」

「――っ!」

 感極まったエリザは、そのままレイにすがり付く。

「キスして、はやくぅ!」

 額を合わせ、甘えるようにすり寄りながら、エリザはそう要求する。レイは内心でここにはいない少女に涙の謝罪を繰り返しながら、ノロノロとエリザに顔を近づけた。

 待ちに待った瞬間が訪れて、エリザは幸福の絶頂に舞い上がった。優しい感触にうっとりと身を震わせながら、彼女は全てを捧げんばかりにレイの身体に己を委ね……。


 刹那。ゾブリと、予想だにしない痛みが彼女を襲った。


「んむぇ?」

 何だこれは。そう思い目を開ける。そこには、愛しい男の顔がある。その心は完全に屈服し、己の運命を嘆いていた……筈だった。本当に、誓いのキス寸前までそうだった。エリザに隠し事は不可能なのだから。

 なのに……!


 僕の勝ちだ――、エリザ。まずは君の精神支配、解除からの……禁止だ!


 今のレイは闘志に目を燃やしたまま、脳内に叩きつけるような命令を下し……。

 直後、エリザの脳内にバキン! と、電流が弾けたような衝撃が走る。逃げようとしてももう遅い。彼女の唇から離れたレイは、そのまま取り戻した怪物の身体能力を駆使して、エリザを正面からホールドし、そのまま首筋に吸い付いた。

「え? え? 待って、何を……ああっ!?」

 首に来る、強烈な酩酊と、何かを流し込まれる感覚。それが意味する事を悟ったエリザは、さながら蜘蛛の巣にかかった蝶のように、もがき足掻いた。だが、再び空へ逃れることを、捕食者(レイ)が許す筈もなかった。

 バキン。バキン。バキン。と、繰り返し三度命令が下る。

 心を読むな。梟になるな。精神干渉の禁止、一時的に解除。三十秒後に再禁止。

 その謎めいた命令に、エリザはますます混乱し、レイは成る程ねというように鼻を鳴らした。

「その精神干渉……自分自身には使えないんだね。つまり今君は、浸透させた僕の操りに抗う術はないということだ」

 核心を突いた物言いに、エリザは声を詰まらせる。

 気がつけば、羽が生やせなくなっていた。鉤爪も使えない。

 何よりも……レイの心が読めなかった。

「い、いや……!」

 エリザは突然、真っ暗な窓のない密室に閉じ込められた気分になった。

 何も聞こえない。どう言葉を紡げばいいかわからない。それは恐怖の濁流となり、エリザを簡単に飲み込んだ。

「ま、待って! レイ! 待っ……」

「君は……随分と僕を虐めてくれたね」

「や、やだ。暗い、寒い……っ」

「それを一つ一つ仕返しして……いや、止めよう。時間がない」

 あっさりエリザを横に放り投げるように手放すと、レイはそのまま鉤爪を振るい、衣服を纏う。ようやく落ち着ついたと言わんばかりに一息ついて、そのまま刺すような視線が座り込むエリザに向けられた。

「なんで……どうして? 貴方は……」

「心が折れてた筈だ?」

「そ、そうよ!」

「今は、どう?」

「……うっ」

 見える筈もない。能力を剥奪されているのだ。エリザが悔しげに震えていると、レイは一歩、エリザに近寄った。

「ひっ……!」

 慌て尻餅をついたまま、後ろに後退る。それに答えるようにレイが更に一歩。無言の進退は、エリザの背に大木が当たった所で終焉を迎えた。

「待って、待ってぇ……! 来ないで、怖いの! 真っ暗で、何も聞こえなくて……!」

「そう。じゃあ……祝福するよ、エリザ。君はようやく、心と感情に触れたんだ」

 立て膝で座り込んだレイが、無言で鉤爪をエリザの喉笛に当てる。もはやエリザは、恐怖のあまりその場から立ち上がる事すら出来なくなっていた。

 そこで、レイはおもむろに優しい笑みを浮かべて。

「じゃあクイズだ。僕が考えてる事、わかる? はい、三秒以内」

「ふぇ、え? ええっ?」

「はい。不正解。答えはね…………楽に死ねると思うなよ」

 柔らかな雰囲気が一転し、無表情になる。

 乱暴に引き倒されたエリザは、歯をカチカチと打ち鳴らしながら、自分の上に股がった男を見上げた。

「あ……ひ……」

「僕はね。この策が成功したなら、君を否応なしに殺そうと思ってた。それくらい怖かったんだ。けど……このまま心臓をえぐり出す位じゃあ収まらない位に……(はらわた)が煮えたぎっているんだ。それくらい君は、僕を追い詰めた。誇りなよ。僕こんなの初めてだ。新境地だよ」

「え、あ……おめで、とう?」

 まるで的はずれな返答と気づかずに口にしたエリザは、涙目のまま上目遣いでレイを見つめる。反省してるから許して。その態度は、火に油を注ぐものだと、彼女は分からなかった。心が読めなくなったエリザは。今や最善が何処にあるかを見出だせなかったのだ。

 レイの顔が、また更に表情を消していく。この瞬間。エリザの命運は完全に尽きた。

「…………ああ、ありがとう。だからね。君はまだ殺さない。生き地獄を味わってもらう。これから先、僕は色々奔走しなきゃならない。存分に便利ツールとして君を利用させてもらう。使って使って使って使って使い潰して……! 最後はぼろ雑巾より惨たらしく捨ててあげるよ……!」

「ぼろ、雑巾……? ふ、ふぇ……ひぃ!? レイ? 何を……?」

 己の処分を聞かされ、キョトンとしていたエリザは、不意にレイが自分に顔を近づけてきたのだ。

 まさか、ひょっとして? 一瞬だけエリザの顔が期待に綻ぶ。だが、レイはそれが嫌だったのか、明らかな嘲笑を浮かべながら首を横に振る。

「期待するなよ。一切の望みは捨てた方がいい。僕が君に優しくする時なんて、未来永劫来ない」

「で、でも私に乱暴はするんでしょう? いいわよ好きにしなさいよ! 性奴隷にでもなんでも……」

「止めろヘドが出る。だけど、強ち外れてはいない。今から僕の怪物としての体液を限界まで君に注ぎ込む。君がしばらく逆らえなくなる位にね」

「体液……? 注ぐ? そ、それって……」

 フルフルと身体を震わせるエリザ。レイはその首筋めがけて襲いかかり、そのまま食い千切らんばかりに噛みついた。


「え……あ、あ……あああぁぁあっ!?」


 森の中に、苦痛と何故か少々悦びを訴える悲鳴が響く。

 それは止まることなく空気を震わせ続け。静かな夜を掻き乱すかのように、いつまでもいつまでも木霊していた。



「いやっ! いやぁあ! 離してぇ!」

「やかましい暴れるな! 牙が刺し込みにくいだろ」


「待って、待ってもう無理ぃ! そんな入らないぃ! 破けちゃう……からぁ……!」

「僕の潰した時に言ってたよね? 治るんだろう? 血管の一本や二本さぁ!」


「せ、せめて口から! 最初みたいにキスする感じで……ひゃううぅ!?」

「喋るな。耳が腐る。本当は君になんか噛みつきたくないんだよ」


「まっ……も、……ダメ……ホントに……許してぇ……!」

「ダメだ。僕は君を許さない。何をしようとも、絶対に」

「そんな……そんなぁあ……!」

「さぁ、もう一回。ああ、脳内麻薬をドバドバ出させるやつ。……僕でも出来るかな。うん、やりながらやってみようか」

「え? ちょ、……ああぁあ!? ダメッ! ダメェエ! こ、これっ……壊れちゃ……ひぃいいい!」



 斯くして今宵、最強の怪物は陥落し、ただの女奴隷に成り下がったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
他の物語も、覗いてみませんか?
実は世界観を……共有してます
[渡リ烏のオカルト日誌]
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ