63.夜の衝突
思い返せば、僕の転機や災難は、いつも夜に降りかかって来るように思う。
怪物に襲撃された夜。
京子の真実を知り、致命傷を受けた後、身体が再生した(今にして思えば、あの時から僕の身体の作り替えは始まっていたのだ)夜。
少しだけ、怪物に歩みよった夜。
ルイと一緒に、汐里や京子と対峙した夜。
僕が怪物になった夜。
そして……。
今回の夜も大概酷かった。
街灯などない、完全なる闇に包まれた森。そこを恐怖で鳥肌が立つ全身に激を飛ばしながら、僕は殆ど涙目で走っていた。
視界が絶望的に悪い。普段ならば何の障害にもならない暗さなのに、今の僕には一寸先すら見えない。加えて、いつもは鋭敏に働く野性の勘という奴が、今は全く役に立たなかった。
「あはっ、これで三回目かしら?」
横合いから、梟の鉤爪が僕を捕らえ、地面に引き倒す。もがく僕を現れたエリザは地面にグリグリと押さえつけた。
「ほら、頷いて。私の旦那様になって?」
「っ、絶対に嫌だね!」
震える声で僕は反論すれば、エリザは目を細めながら、ゆっくりと鉤爪を動かした。
ビリビリと繊維が破ける音がする。切り裂かれたのは、僕の肌着だった。
一度目は上着。二度目にTシャツ。三度目にして、僕の上半身が外気に触れていた。まるでカウントダウンのようなやり方に、僕は思わず唇を噛む。
「遊んでるのか」
「ええ、そうよ。貴方の能力は閉じた。脅威にはなりえない。から……貴方が自分の意思で頷いてくれるのを、待ってるの」
お逃げなさいな。そう言って裸の女は翼を折り畳み、まるで月光浴でもするかのように両手を広げた。
「貴方は気づいてるわ。もう詰んでいることを。けど、認めたくないだけよ」
「……っ、君はどうやら、僕の意思を尊重してるらしいからね。なら、抗うさ」
「……あまりワガママ言わないで頂戴。夫を躾するのだって、妻の特権なのよ?」
逃げる僕。わざわざ可愛らしい声を出して十数えるエリザ。余裕ぶっこきやがって……! と、悪態をつきたくなるが、現状この僅かな間しか、僕には考えることが許されない。ここで、エリザに対する解答を出さねばいけないのに……!
「クソ……何も……。何も……!」
思い浮かばない。というか、ありとあらゆる方法を考えた最適解がさっきの戦いで。そもそも捕まったら終わりという認識があったのである。
僕の今この場における惨状……。すなわち能力の禁止は、エリザの能力が僕へ深く入り込んでしまった事を意味する。つまり……。僕の脳や身体の支配権は今や完全にエリザの手中にあるのだ。
いつもの感覚が思い出せない以上、僕は糸も鉤爪も出せなくなっていた。勿論、唯一の対抗手段だった肉体所有権の剥奪さえも。これでどうしろというのだ……!
「あは。レイ、逃げるの遅すぎよ~?」
鉤爪が、またくる。肩の肉が嫌というほど千切り取られ、僕はズボンを奪われた。
暫くして靴の左右。靴下両方。ついには下着まで取られ、僕はもう奪われるものはなくなった。
逃げられない。勝てない。そう悟った僕は……。足を止めた。
背後で草を踏み締める音がする。そこで僕は強く拳を握りしめた。
「……決心はついた?」
「…………もとから」
身体の震えが、ゆっくりと引いていく。振り向けば、エリザは幸せそうに微笑んでいた。
「素敵よ。勝てないと分かっても、殴りかかるのね。どんなに痛め付けられようと、煮え湯を飲まされようと、絶対に心は屈服しない……そうでしょう?」
「そこまで分かってるなら、僕は諦めろ」
「イ・ヤ。貴方はね。私がようやく見つけた、私の隣に立てる人なの。こんな人、きっと二度と現れないわ。だから……貴方が、欲しいの」
受け入れて。祈るような赤らめた顔でそう告げるエリザに、僕は迷わず親指を下に向けた。
すると、恋する乙女そのものだったサファイアの瞳から、輝きが一瞬消えて。直後。そこに不思議な色が加わった。それは捕らえた獲物を弄ぶ猫にも似た、残忍な光だった。
「……剥ぐもの。もうないわねぇ」
「殴るし、蹴るし、噛んでやる。〝人間〟を舐めるなよ? 絶対に、君のものにはなるもんか。絶対にだ!」
地面を蹴り、エリザに向けて拳を振り上げる。意味などないと分かってはいた。けど、僕はそれでも……。
「その場に膝まづいて」
彼女を女王と讃えるように、地に膝を付き恭しく頭を垂れた。何て狼藉を僕は考えていたのだろう。僕の身体は爪先から髪の毛の先までエリザの……。
「……っ、ぐ」
「これが最後ね。捕まえたわ」
能力をすぐに緩めたのだろう。おぞましい思考があっという間に塗りつぶされ、服従の姿勢を解こうとした時には、何もかもが遅かった。
もがこうにも人間と怪物では力の差は歴然で。
背後から僕を包み込むように拘束したエリザは、僕の耳に息を吹き掛けるようにして囁いた。
「秩父の山にね。私が頑張って作ったツリーハウスがあるの。そこに一緒に住みましょう? 高級ペンションにだって負けない、素敵な隠れ家よ」
「おい、離せ、僕は……!」
「レイは朝、パン派よね。卵料理、私上手なのよ? フワフワのオムレツに、甘い卵焼き。さっぱりしたスクランブルエッグ。トーストや、貴方の大好きなコーヒーにもよく合う筈」
「話を……オイ!」
「朝は、起こしてあげる。昼は、甘えさせてあげる。夜は沢山愛してあげるし、愛して欲しいの。いっぱい私の傍にいて。優しく……して」
思わず息を飲んだ。少しずつ。エリザの声が尻すぼみになっていく。震えるような涙声で、エリザはスンと鼻を鳴らした。
「一人は……もう飽きたの。どこまでいっても。どんなに探しても。みんなみんな……私の思い通り。私より弱い奴ばかり……。能力が通用しない存在も中にはいたわ。けど……それらは、ダメだった」
エリザの能力が通用しない? その言葉に僕が反応しようとするより早く、エリザは僕の首筋に顔を埋める。静かに深呼吸する気配がして。
「レイ。お願い。傍に……。私をレイのお嫁さんに」
「いや、それは断る」
「……………………」
彼女の顔が、後ろで引きつっているのがよくわかった。ざまぁ見ろ。と思いながら、拘束から逃れようとするが、それは無理だった。だからかわりに、僕は心を抉ってやることにした。
「泣き落としのつもり? なら言わせてもらう。僕には関係ない。こんな方法で人の心を手に入れようとするお前に、誰が同情なんかするか。僕には大切な人がいる。君じゃない。君になるなんてあり得ない」
「…………そう」
静かに、エリザはため息を付き……。次の瞬間。僕の世界が、半分侵食された。
「あ、ひぎ!?」
ぶちゅり。じゅるると、強烈な音をさせて、エリザの舌が僕の耳を蹂躙する。鳥肌が一気に沸き上がり、慌て首を動かしてエリザから逃れようとするも、エリザは一切手を緩めない。それどころか、細い腕が蛇の如く絡み付き、僕の身体中をまさぐり始めた。
「初夜は……やっぱりお部屋でがいいの。そして初めてのキスは、貴方からがいい。だから、レイ。ギブアップするなら、私の唇にキスして?」
「何を……」
「ああ、いいの。気持ちからガンガン聞こえるから。私には屈しないんでしょう? いいもん別に。だったら……もう遠慮なんかしないわ」
時間はたっぷりあるものね。そう嗤いながら、エリザは僕の首筋に歯を立てて、ぬるりと舌を這わせる。
「痛いこと。怖いこと。気持ちいいこと。苦しいこと。全部ぜぇんぶしてあげる……覚悟、しなさい」
視界が暗転し、僕は地面に引き倒された。そこへエリザがのしかかってくる。
そのまま、〝僕の意識を保ったまま〟にありとあらゆる命令が降りかかってきて……。
ここから先は、語ることすら憚れる。
それほどまでに苦痛と屈辱と快楽で、僕はエリザに凌辱しつくされた。
本気で死を覚悟したのは、一度や二度ではない。
脳内麻薬を狂わされ、視界が白く染め上げられ。
皮や爪を全て剥がされ、身体の骨一つ一つを砕かれて。
全身に歯形を付けられ、付けさせられ。
目玉を指でほじくり返されたかと思えば、啜り上げられる。
……これは、ほんの一部だ。
やられたこと。させられた事を全て綴れば、僕はもう日の下を歩けなくなる。それほどに、エリザが僕に施した攻撃の激しさや酷さは、筆舌に尽くしがたい、残虐なものだった。
それでも……。それでも僕は……。
正気に戻れば、いつもあの娘がそこにいる。帰るんだ。必ず……怪物の元に……。そう、やく、……そ……く………し。
※
月下の森にて、裸体の男女が絡み付き合うかのように身を寄せて横たわっていた。方や金髪の美女。もう片方は……何処か陰気な印象を受ける、幽霊のような青年だった。
「……っ、はぁ……はぁ…………凄っ、まだ……折れないの?」
乱れた息を整えながら、エリザは何処か呆れたようにそう言った。すぐ傍には身体を丸めるようにして痙攣するレイの姿がある。エリザはそれに背中からすがり付き、その豊満な肉体を惜しげもなく押し付けた。
「レイ、そろそろ次にいきましょう?」
「――ぎっ!?」
囁くようにして、エリザは地獄の再開をする。怪物としての身体能力を封じている以上、レイの限界は既に越えていた。ついさっきは、血が昇る直前まで逆さ吊りにされ、その間ありとあらゆる手を尽くして徹底的に虐めぬき。二分の休憩を与えたばかりだった。
「え、り……ざぁ……!」
「……この期に及んであの娘を忘れず、私への敵意を失っていないのは、賞賛に値するわ」
本当に色々した。その度にレイは面白い程に悶え苦しみ。だが、堪らないくらいに持ち直す。快楽主義の殺人鬼辺りの手に渡っていたら、恐らく一生遊び尽くされたに違いない。それほどに、彼の精神は強かったのだ。だが、その力は全て、自分に課せられる苦痛や不利益にのみ力を発揮する。そうエリザは見抜いていた。だからこそ、散々に尊厳を奪ったのだ。
「標的、変えましょうかね」
そう呟いた時、レイは分かりやすく反応した。死に体でなお、その目がギョロりと蠢き、まっすぐにエリザを刺す。それを見ながらエリザはゾクゾクと、自分の中がざわめくのを感じていた。
そう、酷いことをした。これを次に向けるのは……。
「レイ、ギブアップしないんだもん。だから搦め手を使うわ。あの娘をやっちゃいましょう」
「……っ、ま、て」
息も絶え絶えにレイは立ち上がろうとする。だが、それは失敗する。無様に地に落ちた彼は、そこからまるで芋虫のように這いずりながら、エリザに迫った。
「どんな事しようかしら。とおっても可愛らしいから……能力を封じて、いやらし~い男の群れに放り込むとか? ああ、蜂は手足を切り落としていたわね。なら、また同じオブジェにする? 汐里さんは……そうだわ。ルイとくっつけてあげましょう。ただし、ルイの汐里さんに対する認識をアリサちゃんに変えるの! ルイもハッピー。汐里さんも望みが叶う。これよ!」
「まて……!」
震え、目に涙を浮かべながら、レイは唇を噛み締める。それをエリザは横目に、色々な妄想を広げていく。
「いっそ、強襲部隊に差し出しましょうか! いい実験材料に……ああ、ダメ。そしたらレイが死んじゃうわ。なら……。自分が犬か猫と思わせる。文字通りペットね! あ、植物状態なら、騒がなくて便利かしら? おっと、大輔おじ様は……。うん、街中で事件起こして貰いましょうか。あるいはパトカーで暴走とか! ねぇレイ? どれが……」
「……わかった、よ」
「あら?」
消え入るようなか細い声。だがエリザは心の声を聞いているにも関わらず、敢えてレイに宣言させることを強要した。
「何が、わかったの?」
「僕の…………負けだ」
「だから?」
「だから……みんなには、手を……」
「違うでしょ? はぐらかさないで。負けたら、どうしてくれるの?」
高鳴る心臓を抑えながら、エリザはレイの言葉を待つ。彼の心は、無念で悲鳴を上げ、彼自身あまり持ち得ない憎悪や激情が色濃く渦巻いていた。
そんな感情全てが、全て自分に向けられている。エリザはそれが堪らなく嬉しかった。
今はそれでいい。無よりも、あらゆる感情をぶつけて欲しい。自分はそれ全てを受け入れ、受け止めて、いずれ愛に昇華してみせよう。
「僕は……、君の、ものになる」
「どうなるの?」
「わかりきってるだろ」
「言葉で聞きたいの」
ギリギリと、歯軋りの音がする。下唇をちぎれんばかりに噛み締めて、レイは静かに……頭を垂れた。
「僕と……夫婦になろう」
「――っ!」
感極まったエリザは、そのままレイにすがり付く。
「キスして、はやくぅ!」
額を合わせ、甘えるようにすり寄りながら、エリザはそう要求する。レイは内心でここにはいない少女に涙の謝罪を繰り返しながら、ノロノロとエリザに顔を近づけた。
待ちに待った瞬間が訪れて、エリザは幸福の絶頂に舞い上がった。優しい感触にうっとりと身を震わせながら、彼女は全てを捧げんばかりにレイの身体に己を委ね……。
刹那。ゾブリと、予想だにしない痛みが彼女を襲った。
「んむぇ?」
何だこれは。そう思い目を開ける。そこには、愛しい男の顔がある。その心は完全に屈服し、己の運命を嘆いていた……筈だった。本当に、誓いのキス寸前までそうだった。エリザに隠し事は不可能なのだから。
なのに……!
僕の勝ちだ――、エリザ。まずは君の精神支配、解除からの……禁止だ!
今のレイは闘志に目を燃やしたまま、脳内に叩きつけるような命令を下し……。
直後、エリザの脳内にバキン! と、電流が弾けたような衝撃が走る。逃げようとしてももう遅い。彼女の唇から離れたレイは、そのまま取り戻した怪物の身体能力を駆使して、エリザを正面からホールドし、そのまま首筋に吸い付いた。
「え? え? 待って、何を……ああっ!?」
首に来る、強烈な酩酊と、何かを流し込まれる感覚。それが意味する事を悟ったエリザは、さながら蜘蛛の巣にかかった蝶のように、もがき足掻いた。だが、再び空へ逃れることを、捕食者が許す筈もなかった。
バキン。バキン。バキン。と、繰り返し三度命令が下る。
心を読むな。梟になるな。精神干渉の禁止、一時的に解除。三十秒後に再禁止。
その謎めいた命令に、エリザはますます混乱し、レイは成る程ねというように鼻を鳴らした。
「その精神干渉……自分自身には使えないんだね。つまり今君は、浸透させた僕の操りに抗う術はないということだ」
核心を突いた物言いに、エリザは声を詰まらせる。
気がつけば、羽が生やせなくなっていた。鉤爪も使えない。
何よりも……レイの心が読めなかった。
「い、いや……!」
エリザは突然、真っ暗な窓のない密室に閉じ込められた気分になった。
何も聞こえない。どう言葉を紡げばいいかわからない。それは恐怖の濁流となり、エリザを簡単に飲み込んだ。
「ま、待って! レイ! 待っ……」
「君は……随分と僕を虐めてくれたね」
「や、やだ。暗い、寒い……っ」
「それを一つ一つ仕返しして……いや、止めよう。時間がない」
あっさりエリザを横に放り投げるように手放すと、レイはそのまま鉤爪を振るい、衣服を纏う。ようやく落ち着ついたと言わんばかりに一息ついて、そのまま刺すような視線が座り込むエリザに向けられた。
「なんで……どうして? 貴方は……」
「心が折れてた筈だ?」
「そ、そうよ!」
「今は、どう?」
「……うっ」
見える筈もない。能力を剥奪されているのだ。エリザが悔しげに震えていると、レイは一歩、エリザに近寄った。
「ひっ……!」
慌て尻餅をついたまま、後ろに後退る。それに答えるようにレイが更に一歩。無言の進退は、エリザの背に大木が当たった所で終焉を迎えた。
「待って、待ってぇ……! 来ないで、怖いの! 真っ暗で、何も聞こえなくて……!」
「そう。じゃあ……祝福するよ、エリザ。君はようやく、心と感情に触れたんだ」
立て膝で座り込んだレイが、無言で鉤爪をエリザの喉笛に当てる。もはやエリザは、恐怖のあまりその場から立ち上がる事すら出来なくなっていた。
そこで、レイはおもむろに優しい笑みを浮かべて。
「じゃあクイズだ。僕が考えてる事、わかる? はい、三秒以内」
「ふぇ、え? ええっ?」
「はい。不正解。答えはね…………楽に死ねると思うなよ」
柔らかな雰囲気が一転し、無表情になる。
乱暴に引き倒されたエリザは、歯をカチカチと打ち鳴らしながら、自分の上に股がった男を見上げた。
「あ……ひ……」
「僕はね。この策が成功したなら、君を否応なしに殺そうと思ってた。それくらい怖かったんだ。けど……このまま心臓をえぐり出す位じゃあ収まらない位に……腸が煮えたぎっているんだ。それくらい君は、僕を追い詰めた。誇りなよ。僕こんなの初めてだ。新境地だよ」
「え、あ……おめで、とう?」
まるで的はずれな返答と気づかずに口にしたエリザは、涙目のまま上目遣いでレイを見つめる。反省してるから許して。その態度は、火に油を注ぐものだと、彼女は分からなかった。心が読めなくなったエリザは。今や最善が何処にあるかを見出だせなかったのだ。
レイの顔が、また更に表情を消していく。この瞬間。エリザの命運は完全に尽きた。
「…………ああ、ありがとう。だからね。君はまだ殺さない。生き地獄を味わってもらう。これから先、僕は色々奔走しなきゃならない。存分に便利ツールとして君を利用させてもらう。使って使って使って使って使い潰して……! 最後はぼろ雑巾より惨たらしく捨ててあげるよ……!」
「ぼろ、雑巾……? ふ、ふぇ……ひぃ!? レイ? 何を……?」
己の処分を聞かされ、キョトンとしていたエリザは、不意にレイが自分に顔を近づけてきたのだ。
まさか、ひょっとして? 一瞬だけエリザの顔が期待に綻ぶ。だが、レイはそれが嫌だったのか、明らかな嘲笑を浮かべながら首を横に振る。
「期待するなよ。一切の望みは捨てた方がいい。僕が君に優しくする時なんて、未来永劫来ない」
「で、でも私に乱暴はするんでしょう? いいわよ好きにしなさいよ! 性奴隷にでもなんでも……」
「止めろヘドが出る。だけど、強ち外れてはいない。今から僕の怪物としての体液を限界まで君に注ぎ込む。君がしばらく逆らえなくなる位にね」
「体液……? 注ぐ? そ、それって……」
フルフルと身体を震わせるエリザ。レイはその首筋めがけて襲いかかり、そのまま食い千切らんばかりに噛みついた。
「え……あ、あ……あああぁぁあっ!?」
森の中に、苦痛と何故か少々悦びを訴える悲鳴が響く。
それは止まることなく空気を震わせ続け。静かな夜を掻き乱すかのように、いつまでもいつまでも木霊していた。
「いやっ! いやぁあ! 離してぇ!」
「やかましい暴れるな! 牙が刺し込みにくいだろ」
「待って、待ってもう無理ぃ! そんな入らないぃ! 破けちゃう……からぁ……!」
「僕の潰した時に言ってたよね? 治るんだろう? 血管の一本や二本さぁ!」
「せ、せめて口から! 最初みたいにキスする感じで……ひゃううぅ!?」
「喋るな。耳が腐る。本当は君になんか噛みつきたくないんだよ」
「まっ……も、……ダメ……ホントに……許してぇ……!」
「ダメだ。僕は君を許さない。何をしようとも、絶対に」
「そんな……そんなぁあ……!」
「さぁ、もう一回。ああ、脳内麻薬をドバドバ出させるやつ。……僕でも出来るかな。うん、やりながらやってみようか」
「え? ちょ、……ああぁあ!? ダメッ! ダメェエ! こ、これっ……壊れちゃ……ひぃいいい!」
斯くして今宵、最強の怪物は陥落し、ただの女奴隷に成り下がったのである。




